2015-01-01から1年間の記事一覧

ヘルマン『資本の世界史』

ウルリケ・ヘルマン『資本の世界史』 ドイツの経済ジャーナリスト・ヘルマン氏が書いた資本主義の通史である。文章もやさしくわかりやすい。古代ローマや中国で、なぜ資本主義が生じなかったのかから始まり、英国・産業革命からユーロ危機までの歴史を描いて…

ハワード『僕はカンディンスキー』

アナベル・ハワード『僕はカンディンスキー』 20世紀美術には、象絵画の出現がある。モスクワ生まれのカンディンスキーは世界戦争、ロシア革命,ナチ時代生き抜き、放浪しロシア、ドイツ、フタンスの多国籍者だった。ナチ時代、「退廃芸術」とか「ボルシェ…

待鳥聡史『代議制民主主義』

待鳥聡史『代議制民主主義』 いま代議制民主主義は批判され、空洞化が指摘されている。国会や地方議会の批判も多い。たとえば「塾議民主主義」は、専門家や官僚をまじえ国民・有権者が参加すすることにより「多数派専制」を補正しようとする。また「住民・国…

山田康弘『つくられた縄文時代』

山田康弘『つくられた縄文時代』 縄文時代が、世界的石器時代のなかで、日本史という「一国史」のなかでのみ作られた日本だけの特異な歴史観だという。国立歴史民族博物館教授で、先史学者・山田氏が論ずるのだから面白い。 戦前には「縄文時代」という言葉…

野坂昭如『人称代名詞』

野坂昭如『人称代名詞』 作家・野坂昭如氏が亡くなった。私は『人称代名詞』が、小説として代表作だと思う。複雑な「私」と戦中・敗戦期の状況を、「俺」「お前」「彼」「「ぼく」「あなた」という人称で書かれていて、これまでもかと人称を変え、自分を見つ…

河原一久『スター・ウォーズ論』

河原一久『スター・ウォーズ論』 娯楽映画は、最近シリーズ化する。寅さん映画のようだ。だが007も、ハリーポッターも、スター・ウォーズも面白くて人気がある。1977年に始まったスター・ウォーズはエピソードとい形で、神話的起源・系譜まで発展して…

ヴォーゲル『訒小平』

エズラ・F・ヴォーゲル『訒小平』 アメリカの社会学者・ヴォーゲル氏といえば、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』を書いて、日本でもベストセラーになった。今回は『現代中国の父 訒小平』(日本経済新聞出版社・2013年)という大著を書き、中国。香港…

シェイクスピア『ヴェニスの商人』

シェイクスピア『ヴェニスの商人』 諷刺的喜劇である。ユダヤ人金貸し・シャイロックは、誇張的に道化役として描かれているし、判事に仮装する貴婦人ポーシャは、宝塚のように男装の麗人である。シャイロックの娘ジェシカと駆け落ちするロレンソーも、モリエ…

マンケル『殺人者の顔』

ヘニング・マンケル『殺人者の顔』 かつて故・作家の小田実は、私にミステリは社会学よりも、その社会の病巣を良く現らわしていると語ったことがある。この北欧警察小説を読み、それを実感した。いまならカルチュラル・スタディズの格好の題材になる。 スウ…

安藤宏『「私」をつくる』

安藤宏『「私」をつくる』 日本近代小説の特徴として「私小説」があり、これに対して「本格小説」でないという批判が長年続いてきた。近代西欧小説を模範とした場合、日本小説の「半近代性」だとされた。小林秀雄、伊藤整、平野謙などの論考がある。だが最近…

シェイクスピア『ジュリアス・シーザー』

シェイクスピア『ジュリアス・シーザー』 シェイクスピアの演劇は、場面転換が次々と起こる。「幕」の劇でなく「場」のドラマである。映画やTVドラマのように、スピード感がある。このドラマも歴史的事件を扱っているためか、場面転換がアクション映画のよ…

夏目漱石『明暗』

夏目漱石『明暗』 漱石の傑作で、最後の小説で未完で終わっている。人間の「個我」と「個我」の関係性が、ドラマのような会話で繰り広げられていく。そこには、ゲームのような、「作用と反作用」のセリフにより戯曲体でありながら、社会から家族、夫婦の全体…

小林秀雄・岡潔『人間の建設』

小林秀雄・岡潔『人間の建設』 現代ネット時代は、知識は「検索」でいくらでも得られる。知識の情報化も進む。知の効率化・功利化が、反知性主義を生み出す基盤になる。大学でも、文科省は人文系の学部の再編をいう。予算・教員を減らそうとする。戦時下では…

チョムスキー『我々はどのような生き物なのか』

チョムスキー『我々はどのような生き物なのか』 アメリカの言語学者でラディカルな政治活動家・チョムスキーが2014年に来日し、上智大学でおこなった講演や対話を纏めたもので、チョムスキーの全体像が浮かび上がってくる。言語学と政治思想の両方をつな…

アレクシエービッチ『チェルノブイリの祈り』

アレクシエービッチ『チェルノブイリの祈り』 20世紀史は、アウシュビッツ以後とチェルノブイリ以後として語られる。ヒロシマ・ナガサキ以後とも。2015年ノーベル文学賞受賞のアレクシエービッチが、原発事故以後10年近くかけ、原発事故被災地で、丹…

山下祐二・橋本麻里『驚くべき日本美術』

山下祐二・橋本麻里『驚くべき日本美術』 20世紀末から、日本美術へのブームが続いている。長谷川等伯展、阿修羅展、鳥獣戯画展は満員だし、さらに伊藤若沖、長沢芦雪はじめ「奇想の系譜」の人気も高い。ポストモダン的な視点で、日本美術を基盤に刷新して…

森田真生『数学する身体』

森田真生『数学する身体』 30歳という若い数学者・森田氏の数学論であり、面白い。数学の歴史を辿りながら、数学する身体から考えていく。さらに、「数学する心」にまで入り込んでいくから、魅力的である。 森田氏は述べている。「数える」という行為から…

保阪正康『昭和史のかたち』

保阪正康『昭和史のかたち』 昭和史の全体像を捉えるのは難題である。戦後歴史学者・唐山茂樹・今井清一・藤原彰『昭和史』(岩波新書)は、唯物史観という二元的図式を基礎にした昭和史の名著があるが、人間が描かれていないなど批判もあった。保阪氏は、昭…

トマ・ピゲティ『新・資本論』

トマ・ピケティ『新・資本論』フランスの経済学者ピケティ氏が、日刊紙リベラシオンに2004年から2014年まで書いた経済時評のうち83本が収められている。サルコジからオランドの政治批判、ギリシア、キプロスなどの経済危機、EUの苦悩、税制、社…

鈴木厚人『ニュートリノでわかる宇宙・素粒子の謎』

鈴木厚人『ニュートリノでわかる宇宙・素粒子の謎』 2002年に小柴正俊氏が「超新星ニュートリノ」を検出し、ノーベル賞に輝いたが、2015年にも再びニュートリノ研究で日本人が物理学賞を受賞した。なぜ日本でニュートリノ研究が盛んなのか。第一は湯…

グッドール『音楽史を変えた五つの発明』

グッドール『音楽史を変えた五つの発明』 グッドール氏は、英国の作曲家で、ミサ曲からミュージカルまで多くの作曲を手がけている。なぜ西欧クラシックが独特な音楽として発明されたかを、アジア、アフリカの民族音楽をも念頭に置きながら分析している。 西…

ミシェル・セール『世界戦争』

ミシェル・セール『世界戦争』 フランスの哲学者・セール氏は1930年生まれだから、世界大戦など戦争を経験している。海軍兵学校から海軍で兵役につき。高等師範学校を卒業した異色の思想家である。だから戦争論や戦争史を期待して読むとまったく見当はず…

姜尚中『悪の力』

姜尚中『悪の力』 姜氏は、現代社会における「悪意に満ちた社会」を考えていく。川崎市中一男子殺害事件、名古屋大女子学生殺人。傷害事件からシステム悪としての企業悪、さらにナチ・ドイツのホロコースト、イスラム国のテロまで「悪」として捉えていく。 …

アレクシエーヴィチ『死に魅入られた人びと』

アレクシエーヴィチ『死に魅入られた人びと』 2015年ノーベル文学賞にきまったアレクシエーヴィチ氏を読む。同氏はベラルーシ大学ジャーナリズム学部を卒業してジャーナリストになった。インタビューを中心にしたドキュメンタリーの手法を使い、質の高い…

寺山修司『戦後詩』

寺山修司『戦後詩』 寺山修司(1935−1983年)が、1965年に戦後詩を省察した名著だが、寺山の詩歌を理解するためにも欠かせない本だ。戦後詩のアンソロジーとしても読める。 活字に頼らず、言葉の標準語化にまきこまれず、いかなる代理人にも頼ら…

ジョン・クレブス『食』

ジョン・クレブス『食』 動物行動学者で、英国食品基準庁の初代長官を務め、狂牛病や口蹄疫などの発生に取り組んだクレブス氏の現代の「食」に関する総括的な本で興味深い。 この本には古代人の雑食性の進化の歴史から、味覚による食物の好き嫌い、「うま味…

ブルガーコフ『巨匠とマルガリータ』

ブルガーコフ『巨匠とマルガリータ』 ウクライナの作家・劇作家ブルガーコフ(1891−1940年)の幻想小説の傑作である。ソ連時代を生きたキエフ大学医学部を出たブルガーコフは、医者で演劇家というチエホフに経歴は似ている。だが、モスクワ芸術座に…

加藤晴久『ブルデユー 闘う知識人』

加藤晴久『ブルデュー 闘う知識人』 20世紀フランスの社会学者・ブルデュー(1930−2002年)の批判的知識人としての生き方や思想を、描いた本である。加藤氏はブルデユーと長い間親交があったためか、単なる紹介ではなく、その人間性に迫っていて興…

『グリンバーク批評選集』

『グリンバーク批評選集』 アメリカの芸術批評家・グリンバーク氏の美術論集である。グリンバーク氏といえば、ポロックなどアメリカ抽象表現主義の画家たちを見つけ、評価したことで知られる。 「モダニズイム」を、芸術様式として古典主義やロマン主義のよ…

ピンチョン『競売ナンバー49の叫び』

トマス・ピンチョン『競売ナンバー49の叫び』 現代アメリカの作家・ピンチョンの小説は、小説の混沌性を特徴としている。「メタフィクション」ともいわれるが、私はその雑多・混沌の裏には、アメリカ社会に対する論理一貫性のある認識があるように思う。 …