2014-11-01から1ヶ月間の記事一覧

萱野稔人『国家とはなにか』

萱野稔人『国家とはなにか』 国家論は多様にある。近年ではアンダーソンによる「想像の共同体」論が持て囃された。萱野氏の国家論は、「想像の共同体」論とは対極にあり、「暴力かかわる運動」という考え方である。バリバールやフーコー、ドゥルーズ=ガタリ…

ゴーティマ『ジャンプ』

ナディン・ゴーディマ『ジャンプ』 人種差別(アパルトヘイト)と、それへの抵抗がいかに個々人に残酷な生き方を強いたかを、南アフリカの女性作家ゴーディマが描いた短編十一編が収められているこの本でわかる。 この小説集は、1991年に出版されている…

山根一眞『「はやぶさ2」の挑戦』

山根一眞『「はやぶさ2」の大挑戦』 小惑星探査機「はやぶさ」が、小惑星イトカワの微粒子を60億キロの宇宙航海から持ち帰ったのが、2010年だった。2014年11月30日に「はやぶさ2」が、地球から3億キロ離れた小惑星「1999JU3」に再び…

『妻を失う』

『妻を失う』(講談社文芸文庫編) 私は、2012年に妻を癌で亡くした。その喪失感は、巨大な岩に囲まれた物質に圧迫されているようで、死に親近性を強く持つようになり、夜も熟睡出来なくなった。世界が変わってしまった。この離別作品集は、妻に先立たれ…

柴崎文一『アメリカ自然思想の源流』

柴崎文一『アメリカ自然思想の源流』 20世紀アメリカの環境破壊を告発した『沈黙の春』『失われた森』などで、自然環境運動を訴えたレイチェル・カーソンの自然思想の根底には、19世紀からのオーデュボンやソーロー、ミューアというアメリカ自然思想があ…

三浦哲哉『映画とは何か』

三浦哲哉『映画とは何か』 いま映画は「フイルムからデジタルへ」という変革に直面している。観賞も、映画館からテレビ、さらにPCやモバイル機器と多様化し「動画化」ともいわれる。映画は二極化し、娯楽・情報スペクタクル映画と芸術・美学映画に分かれ、…

高木昌史『ヘルダーリンと現代』

高木昌史『ヘルダーリンと現代』 ドイツの詩人・ヘルダーリンは、フランス革命期に多くの詩や戯曲を作り、後半生36年間ネッカル河畔の塔に狂気のため閉じこめられ、19世紀半ばに死んだ。 ヘリダーリン評価は20世紀に入っても高く、高木氏は詩人たちや…

上川龍之進『日本銀行と政治』

上川龍之進『日本銀行と政治』 上川氏は、この本で日銀がいかに政治に屈服していったかの「日銀敗北の歴史」を描いている。二度の金融緩和の資金流入で、株高円安の状況が「日銀相場」といわれる危うい時期に、この本を読むと、デフレとバブルの循環が来そう…

山下博司『古代インドの思想』

山下博司『古代インドの思想』 インド古代思想となっているが、気候変動や風土的自然の側面から古代インド世界の文明と宗教を捉えた面白い本である。中村元の名著『インド人の思惟方法』(春秋社)は、思想に集中しているし、これも名著である辻直四郎『イン…

デイリー『「定常経済」は可能だ!』

ハーマン・デイリー『「定常経済」は可能だ!』 有限の地球において、環境危機、エネルギー資源や水・食料の不足、貧富格差の増大、高齢化社会という状況に来ているのに、相変わらず「経済成長=GDP至上主義」が進んでいる。経済成長しパイが大きくなれば…

『パウル・ツェラン詩文集』

『パウル・ツェラン詩文集』 ツェランの詩「かつて、死に人が群れていたころ/あなたは身をひそませた、わたしのなかに。」(「かつて」) 「あなたがわたしのなかで死に絶えるときーーちぎられる最後の息の結び目のなかに/なおもあなたは/隠れこむ、/一…

永田和宏『現代秀歌』

永田和宏『現代秀歌』 歌人・永田氏が選んだ現代短歌の「百人一首」であり、恋愛、青春、家族、四季自然、病と死など10の部類に分けられている。多様な現代短歌が一望できる。 永田氏によれば、現代短歌は、昭和20年代後半に起こった前衛短歌運動を「近…

『分裂する大国アメリカ』(「週刊東洋経済」)

『分裂する大国アメリカ』(「週刊東洋経済」11月1日号) アメリカ分裂の本を、私が興味深く読んだのは、ケネディ大統領補佐官で歴史学者のアーサー・シュレージンガー『アメリカの分裂』(都留重人監訳、岩波書店)だった。90年代だから、シュレージン…

服部茂幸『アベノミクスの終焉』

服部茂幸『アベノミクスの終焉』 10月31日、日銀は追加の金融緩和に踏み出した。市場に流し込むお金を10兆―20兆円増やし、長期国債を買うのを年80兆円にし、金利を下げるというものだ。異次元緩和から1年半での追加決定は、物価上昇を「2年で2…

細見和之『フランクフルト学派』

細見和之『フランクフルト学派』 フランクフルト学派といえば、ホルクハイマー、アドルノ、フロム、ベンヤミン、ハーバーマス、マルクゼーゼなど、20世紀思想の大きな思想学派である。70年代に持て囃され、私も著名な書を買って当時挑戦したが、難しく途…