チョムスキー『我々はどのような生き物なのか』

チョムスキー『我々はどのような生き物なのか』

      アメリカの言語学者でラディカルな政治活動家チョムスキーが2014年に来日し、上智大学でおこなった講演や対話を纏めたもので、チョムスキーの全体像が浮かび上がってくる。言語学と政治思想の両方をつなぐ「理性の力」としての人間を、明確にしていくチョムスキー思想がよくわかる。
     「言語の構成原理再考」という講演では、言語を千差万別な音と観念を結びつける無限の能力で、それが有限な「脳」のなかで階層構造をもつ基本原理による「生成文法」からなる生物的特性と位置付ける。この言語能力は5−7万年前の進化過程で生じた。言語のビックバン。いまや言語の認知科学として探究される理論が語られる。。
     言語機能が人間の思考、理性、自然数の概念、論理の基本だとする「思考の言語」論は、行動心理学などの言語コミュニケーション論とは違う。それはそとに外在化されて「言語行動」になった結果に過ぎないという。言語の規則の「構造依存的」「併合」「転置」「変換」が語られるが、難しい。言語は隣接的な線的秩序ではないというチョムスキーに、私はカントの「先天的」理性を連想したのだが。
     「資本主義的民主制の下で人類は生き残られるか」では、言語という「生成文法」により人間は、無限の言語表現により自由な思考と創造性を与えられる。チョムスキーの言語自由論が「啓蒙理性」に結びつき、左派リバタリアンアナーキズムの伝統になっている。それが。金融資本的資本主義の格差社会批判になっていることがわかる。
     チョムスキーとの対話と思想について、福井直樹上智大教授と辻子美保子神奈川大教授の深い考察も、この本では付け加えられていて、興味深い。(岩波書店、福井直樹・辻子美保子編訳)