2013-09-01から1ヶ月間の記事一覧

ファーガソン『劣化国家』

ニーアル・ファーガソン『劣化国家』 なぜ西洋は衰退したのかを、ハーバート大・ファーガソン歴史学教授が分析している。教授は、民主主義、資本主義、法の支配、市民社会の4つに絞って制度的衰退を論じている。私はファーガソンの本を読んで、英国のバーク…

合田正人『田辺元とハイデガー』

合田正人『田辺元とハイデガー』 1980年代には哲学者・中村雄二郎氏らにより西田幾多郎の哲学の再評価が行われた。21世紀にはいって、中沢新一氏が『フィロソフィア・ヤポニカ』(集英社)を書くなど、田辺元の再評価が出てきている。中沢氏はこう書く…

「ウルフを読む」(その2)『ダロウェイ夫人』

「ヴァージニア・ウルフを読む」(その2) 『ダロウェイ夫人』 怖い小説である。そこには生と死、正常と狂気がない交ぜになっている。その縦軸は「時間」であり、人生における若さの始まりの「青春」と、老年にさしかかる「中高年」が、ない交ぜになってい…

「ウルフを読む(その1)」『灯台へ』

「ヴァージニア・ウルフを読む」(その1) 『灯台へ』 この小説は、時間の流れを、それぞれの人物の心理的印象という「意識」の流れの集積で描いている。舞台は、中流知識階級であるラムゼイ家の島の別荘である。離れたところに灯台のある離島があり、一家…

ピーター・ゲイルほか『放射線と冷静に向き合いたいみなさんへ』

R・ピーター・ゲイル&エリック・ラックス『放射線と冷静に向き合いたいみなさんへ』 チェルノブイリ、東海村、福島など原発事故で被ばく者救護に当たったアメリカ人医師で,骨髄移植と白血病の権威であるゲイル氏が書いた放射線に関する啓蒙書である。「冷…

鈴木謙介『ウェブ社会のゆくえ』

鈴木謙介『ウェブ社会のゆくえ』 スマートフォン時代の日本のウェブ社会を分析した社会学者のウェブ論である。鈴木氏は、現実のリアル空間とウェブの情報空間が融合する時代に入っており、現実空間に情報の出入りする穴がいくつも開いている状態を「現実の多…

長谷川櫂『俳句の宇宙』

長谷川櫂『俳句の宇宙』俳人が見た現代における俳句論である。実作者である長谷川氏が、自然が失われて四季も壊れつつあるとき、「季語」はどうなるのかとか、「切字」という「間」はどうなるのか、「客観写生」は必要かなどを問いかけていく俳句に対する危…

村山司『イルカのふしぎ』

村山司『イルカのふしぎ』イルカが「賢い動物」であることは、水族館などの芸を見ていてもわかる。村山氏は20年にわたり、ヒトと会話し、文字が読めることを目指し研究してきた海洋学者である。この本にはイルカの生態が数々述べられて楽しい読み物になっ…

ベジャン&ペター・ゼイン『流れとかたち』

ベジャン&ペター・ゼイン『流れとかたち』この本は、流動がすべてをデザインするという視点で書かれている。だがデザインの本ではない。ベジャンは熱力学の工学者である。無生物のデザインも、生物のデザインも社会組織も、工学的構造物も、エネルギーを効…

E・A・ポウ『詩集』『エレオノーラ』ほか

E・A・ポウ『詩集』『エレオノーラ』ほかエドガー・アラン」ポウの詩には、「鴉」「「アナベル・リイ」「ヘレンに」「眠れる女」「レノア」など愛する美女の死を悼むものが多い。最愛の妻を失ったポウの悲しみが投影されている。また小説「リジィア」「モ…

ジョン・グリビン『銀河と宇宙』

ジョン・グリビン『銀河と宇宙』 天文学では銀河は、物理学の原子にあたる。20世紀ハッブルが巨大望遠鏡で観測するまでは、太陽系がいる我々の銀河が、宇宙全体だった。それがここ100年で、我々が属する銀河は、数千億個ある渦巻銀河の一つに過ぎず、太…

金重明『物語 朝鮮王朝の滅亡』

金重明『物語 朝鮮王朝の滅亡』在日二世の小説家が書いた朝鮮近代史である。金氏は民族のナショナリズムや愛国心からではなく、虐げられた人々の視点から歴史を見ている。私は韓流ドラマ「トンイ」が好きだが、下層民トンイが宮廷の下働きから王に見染められ…