2011-04-01から1ヶ月間の記事一覧

宮地伝三郎『アユの話』

宮地伝三郎『アユの話』 50年前の本だが34刷りを重ねている動物生態学の古典だろう。アユという魚の生態を研究グループが手間隙かけて野外観察をしながら探っていく方法は、遺伝子など実験室でのコンピユータを使い工学的手法で進める研究に比べると懐か…

渡辺保「江戸演劇史」(上)

渡辺保『江戸演劇史(上)』 上巻は出雲のお国から元禄から宝暦・明和・天明までの(18世紀半ば)能、浄瑠璃、歌舞伎の演劇史を描く。出雲のお国が姿を現すのは徳川家康が征夷大将軍になつた1600年であり、7年後には江戸城で踊りを披露している。その…

アウレーリウス『自省録』

マルクス・アウレーリウス『自省録』 哲人皇帝といわれた西暦2世紀のローマ皇帝によるストア哲学の「自己内対話」の書である。訳者で精神科医・神谷美恵子は若いとき『自省録』に傾倒したためか読みやすい訳文である。ローマ皇帝がこうした内省的自己内対話…

岡本太郎・宗左近「ピカソ講義」

岡本太郎・宗左近『ピカソ「ピカソ講義」』 岡本太郎に宗左近がピカソについて話を聞いたものだが、岡本がピカソの同時代人として一体化していて、ピカソ論であるのか岡本論なのかわからなくなる迫力がある。1930年代パリでピカソとめぐり会う岡本は、画…

三島憲一『ニーチェ以後』

三島憲一『ニーチェ以後』 三島氏はドイツ思想の研究者でニーチェやベンヤミンなどの著書がある。この本もニーチェやベンヤミン、ハイデガー、デリダ、ハーバーマスなどの思想を扱ったものだが、三島氏は現実的な批判精神から普遍的理性の可能性を探り当てよ…

カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』

カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』 この小説を読みながら私はハックスリー『すばらしい新世界』とE・ブロンテ『嵐が丘』を思い浮かべていた。ハックスリーは社会の安定のため試験管ベビーが作られ、各階級に機械的に適応できるように教育され、親子、…

宮澤淳一『マクルーハンの光景』

宮澤淳一『マクルーハンの光景 メディア論がみえる』 マクルーハンは、1960年代に電子メディア論で一世を風靡したがその後忘れられ、90年代にネット社会の到来で再び見直されている。『グレン・グールド論』で知られる宮澤氏が何故マクルーハンなのか…

大和田俊之『アマリカ音楽史』

大和田俊之『アメリカ音楽史』 音楽史だがアメリカ現代史でもある。大和田氏はミンストレル・ショウからブルース、ロック、ヒップホップまでのアメリカ音楽を辿る。視点が明確であり、視野が広くアメリカ社会が見えてくる。いい本だと思う。ではその視点とは…

カズオ・イシグロ『浮世の画家』

カズオ・イシグロ『浮世の画家』 32歳のイシグロが老人画家の心性を描き、さらに5歳で日本を去りいま英国籍の作家であるイシグロが戦前・戦後直後の日本情景を描くその成熟度に驚く。1987年の作品である。その情景は映画監督・小津安二郎的なローアン…

吉村昭『三陸海岸大津波』 酒井健『シュールリアリズム』

吉村昭『三陸海岸大津波』かつて大正時代史を調べた時に、吉村昭『関東大震災』を読んでその綿密な資料調べに基づく記録文学に感心したものである。だが1970年に吉村が『三陸海岸大津波』を書いていることを知らなかった。こんどの東日本大震災でこの本…

酒井健『シュルレアリスム』 P・ワルドベルグ『シュルレアリスム』 東京・国立新美術館で2011年2月から5月までパリ・ポンピドゥセンター所蔵の171点を展示した「シュルレアリスム展」が開催されているというので見に行く。キリコ、エルンスト、マ…

米田綱路『モスクワの孤独』

米田綱路『モスクワの孤独』 現代ロシア精神史を、人権を核に国家権力・権威的ロシア社会と市民個人として対峙したデシィデント(異論派知識人)から描いた本である。500ページ以上になる大作であり、米田氏の力量を感じた。スターリン批判に始まる「雪ど…

ジョイス『若い芸術家の肖像』

ジョイス『若い芸術家の肖像』 20世紀小説に大きな影響を与えたジョイスの小説は、英語原文で読まなければその価値は半減するだろう。日本語訳で名訳といわれる丸谷才一氏の本を読む。幼児期から20歳で芸術家を志す成長物語であるが、童話の文体で始まり…

ガレン『ルネサンス文化史』

E・ガレン『ルネサンス文化史』 イタリア・ルネサンス研究の碩学ガレンの鳥瞰図的なルネサンス論である。この本は危機の時代にルネサンスの知的基盤になった新しい現象から解き明かされてく。古典の発見は、ギリシア・ラテンの文献のフィレンツェなどでの図…

藤井省三『魯迅』

藤井省三『魯迅』 2011年4月7日に魯迅の長男・周海嬰さんが北京で死んだ。周さんはこの本でも藤井氏が取り上げているが、日本人医師による毒殺か、薬誤用説を強く主張していた人だ。いまそれは否定されているが、周さんら親族が魯迅の死因に深い疑念を…

武谷三男『フェイルセイフ神話の崩壊』

武谷三男『フェイルセイフ神話の崩壊』 巨大技術の典型は原子力発電だが、安全装置がたくさん付いているから安全だというのがフェイルセイフ神話である。物理学者・武谷三男は、はやくから「原子力発電」「安全性の考え方」「科学大予言」などで原発の危険性…

吉本隆明『詩の力』

吉本隆明『詩の力』 詩人吉本さんの戦後現代詩、短歌・俳句の作者28人の紹介だが、戦後詩歌論としても読める。また現代詩が音数律を内面的にも形式的に片付けたが、戦後派の詩歌に共通する特徴は、風景などの客観描写よりも主観性が作品の中心になっている…

ワックス『法哲学』

レイモンド・ワックス『法哲学』 法とは何か、正義とか権利とは何か、道徳とどうかかわるのかなど法思想は司法の根本的な問題である。近代哲学でもロック、ベンサム、カントからヘーゲルにとって論議されている。ロンドン大教授・ワックスの本は自然法、法実…

石井誠治『樹木ハカセになろう』

石井誠治『樹木ハカセになろう』 樹木医として各地で樹木を診断している石井氏の、樹木についての基礎的な話であり、いかに樹木を知らなかったかを教えてくれる。樹木といえばすぐ巨樹としての縄文杉や大クスノキなどを思い浮かべるが、この本は私たちの身近…