2011-01-01から1ヶ月間の記事一覧

小山勉『トクヴィル』富永茂樹『トクヴィル』

富永茂樹『トクヴィル』 小山勉『トクヴィル』このところフランスの政治思想家トクヴィルの再評価が進んでいる。この2冊はトクヴィルの思想に取り組んだ本だ。もう一冊、宇野重規『トクヴィル 平等と不平等の理論家』(講談社)があるが残念ながら読めなか…

井筒俊彦『コーランを読む』

井筒俊彦『コーランを読む』 牧野信也『コーランの世界』コーランや聖書、仏典など読むのは楽しい。だが体系的にテキストを読み込もうとすると、宗教書は理解が出来にくい点が多い。歴史的、文化的な文脈の解釈書が必要になる。牧野氏の本はコーランの世界観…

茨木のり子『言の葉』1,2,3巻

茨木のり子『言の葉』(1)(2)(3)詩人茨木さんのイメージは、凛とした品格のある精神だと思う。「部屋」という詩では「わがあこがれ/単純なくらし/単純なことば/単純な生涯」と詠う。「倚りかからず」では出来合いの思想、宗教、学問、権威に倚りかか…

イェーリング『権利のための闘争』

イェーリング『権利のための闘争』 村上淳一『「権利のための闘争」を読む』 日本でも裁判員制度が定着しつつあり、訴訟社会化も進んでいる。法学の古典『権利のための闘争』は、近代ドイツ法学の考えを述べたものだが、いま読んでも色あせていない。訳者・…

ガスケ『セザンヌ』

ガスケ『セザンヌ』 セザンヌの肖像画に、ガスケ父子のそれぞれの絵がある。この本はガスケが晩年のセザンヌと親交が深かったため、故郷プロバンスでの出会いから死までを、言行録も含め描いていて興味深い。ガスケ的偏向性はあるだろうが、セザンヌの一面が…

アリストテレス『詩学』ホラーティウス『詩論』

アリストテレース『詩学』ホラーティウス『詩論』 ウンベルト・エーコの小説『薔薇の名前』の中に、散逸されたアリストテレース『詩学・第二部』が発見され、修道院で喜劇論と笑いについて語られる場面がある。この『詩学』は第一部の叙事詩・悲劇論にあたる…

森毅『数学的思考』

森毅『数学的思考』 『魔術から数学へ』 森さんは数学者だが2010年に亡くなった。この二冊は数学史だが、森さんらしく西欧近代の精神史・文化史であり、その語り口は「学術講談」といった趣むきである。現代数学を歴史的視点でみている。数学の純粋性や…

プラトン『饗宴』

プラトン『饗宴』プラトンは詩人であるとともに劇作家でもある。『饗宴』は演劇作品として均整がとれたドラマ性があり、劇中劇の枠組もあり、舞台化したら面白いだろう。喜劇として上演できる。、アリストパネスという喜劇作家も登場する。『パイドン』や『…

プラトン『パイドロス』

プラトン『パイドロス』 哲学書というよりも叙情性ある幻想文学を読む感じがする。舞台もアテナイ南部を流れるイリソス川のほとり、初夏の木々の花が咲き乱れ、木々の枝では蝉が鳴く。ソクラテスは美青年パイドロスと川の水に足を浸し対話している。その話題…

林望『能に就いて考える十二帖』

林望『能に就いて考える十二帖』 国文学者林氏は謡曲を習い、謡の詞章が旋律や声調さらに拍子が一体になって、強いイメージ喚起力を持っているという。また四季、恋、追憶、人情、史実、演芸、神事、仏教、と様々な要素を含み、それを叙情の雲が覆っていると…

水野和夫・萱野稔人『超マクロ展望 世界経済の展望』

*1294888515* 水野和夫・萱野稔人『超マクロ展望 世界経済の真実』この本は経済学者と政治哲学者の対談であるが、世界経済を経済学だけでなく政治、思想、社会学という広い領域から、それも世界歴史の文脈からの視点も含め論じていて興味深い。その上で金融…

多田富雄『能の見える風景』

多田富雄『能の見える風景』 免疫学者多田氏が、脳梗塞で声も出ず半身不随になりながら、能を車椅子で観劇し、おまけに自ら新作能まで書いて死んでいった。その晩年の能論、能評を集めた本である。かつて『免疫の意味論』を読み人間の免疫細胞の凄さを学んで…

ゲルマン『策謀家チェイニー』

バートン・ゲルマン『策謀家チェイニー』 21世紀アメリカ政治は9・11ニューヨーク同時多発テロから始まり、対テロ戦争からイラク戦争、アフガン戦争と激動の時代だった。この時の政権がブッシュ政権だった。この本はジャーナリスト・ゲルマンが「政権の…

ジャンケレヴィッチ『ドビュッシー』

ジャンケレヴィッチ『ドビュッシー』フランスの哲学者ジャンケレヴィッチによるドビュッシー論の名著である。綿密な読譜と自分でもピアノを弾く哲学者は「生と死の音楽」という視点で、思想から深層心理まで広げドビュシーを論じている。作品「ペレアスとメ…

長田渚左『復活の力』

長田渚左『復活の力』かつてトルストイ『復活』という小説を読んだことがある。青年貴族がキリスト教に帰依し、自己の罪を懺悔して希望の復活を果たし再生する。この本は「絶望を栄光にかえたアスリート」という副題があるように、スポーツ選手たちがケガと…

森英恵『グッドバイ バタフライ』 

森英恵『グッドバイ バタフライ』 細うで一代記である。06年の森英恵展は名づけて「手で創る」。戦後日本を代表する世界的デザイナーが自伝を綴った。だが、森さんのファッシヨン観や芸術観など文化論としても面白い。森さんのこの本を読んでいて、私はル…

池澤夏樹個人編集『世界文学全集短編コレクション』

池澤夏樹個人編集「世界文学全集短編コレクションⅡ」』 「コレクションⅠ」が南北アメリカ、アジアなどの短編だったが、「Ⅱ」では、20世紀ヨーロッパの短編19篇が収められている。池澤氏は解説で、リアリズムから幻想へのスペクトラムという視点で考えて…

坪井善明『ヴェトナム新時代』

坪井善明『ヴェトナム新時代』 『ヴェトナム 豊かさへの夜明け』の続編で2007年までを扱かつている。ヴェトナム戦争が終わって30数年経っているのに戦争の惨禍がまだ残り、現代戦争がその時期だけでなく長期的環境破壊、精神破壊の後遺症をもたらす指…

パノフスキー『イデア』

パノフスキー『イデア』美術史家パノフスキーの西欧造形美術史論だが、美とは何かの理論的探究の書でもある。西欧的美論ではいかにプラトン哲学の「イデア」という思想が、古代から17世紀古典主義まで影響してきたかは驚きである。ここから、模範と模倣、…