待鳥聡史『代議制民主主義』

待鳥聡史『代議制民主主義』

    いま代議制民主主義は批判され、空洞化が指摘されている。国会や地方議会の批判も多い。たとえば「塾議民主主義」は、専門家や官僚をまじえ国民・有権者が参加すすることにより「多数派専制」を補正しようとする。また「住民・国民投票」という直接民主主義的方法の考え方もある。「一般意志2・0」では、インターネットを活用し、有権者が柔軟に政策決定に参加するという提案である。
待鳥氏は、代議制民主主義は直接民主主義にない固有の価値をもち、代議制はエリート間の競争と相互抑制を基調とする自由主義と、有権者の民意を政策決定に反映させる民主主義が合流して形成されたバランスある制度と見ている。有権者にたいして「委任と説明責任」をもち、政治家が一定の裁量と自律性をたもち、相互に競争するシステムで、「多数者専制」や「プロフェショナル専制」をいかに防ぎながら、自動安定装置として意義をもつという。
  待鳥氏は、代議制民主主義の英米の歴史をたどり、選挙権拡大(日本でも18歳に引き下げられた)から、大統領制と議院内閣制などを解明しながら、第二次大戦後黄金期を迎えたとしている。だが20世紀末から危機があらわれ、政治の「大統領制化」や、執行権力の強化、首相。官邸独裁の「ウエストミンスター型」のつよまりで、代議制の空洞化が生じてきていると指摘している。
自由主義と民主主義の葛藤が、代議制における「委任と責任」を矛盾においやっている。待鳥氏は、それを地方首長(大統領化)と地方議会の矛盾までふくめ考えている。そうした矛盾は。選挙制度の改革とも繋がってくる。たしかに理想の選挙制度が存在するわけではない。大・中選挙制、小選挙区制か、比例代表制か、混合の並立制か様々な弊害があり、どういうシステムが民意の尊重に近づくか難しい。
待鳥氏はこの本で、キャリーとヒックスの、全国をいくつかの選挙区にわけた上で、それぞれに配分する定数を少なくした比例代表制を紹介している。定数が少ないから当選に必要な得票率の水準があがり、極端な小党分立にもならず、有権者の意向が議席分布に反映するというのだ。
代議制民主主義をいかに深めるかを考えさせる本である。(中公新書