2016-02-01から1ヶ月間の記事一覧

矢部宏治『日本はなぜ「基地」と「原発」を止められないか』

矢部宏冶『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』 矢部氏の本は、同感するところが多い。沖縄の米軍基地が存続することと、日本国憲法の非武装、交戦権放棄の矛盾を論理的に指摘しているからだ。憲法9条2項と沖縄の基地化はセットだというこ…

フランソワ・ビゼ『文楽の日本』

フランソワ・ビゼ『文楽の日本』 「人形の身体と叫び」という副題。滞日10年、年12回も国立劇場に文楽を見に行き、さらに女義大夫を自ら学ぶビゼ東大準教授の文楽論で面白い。西洋演劇や歌舞伎、能との違いも視野に入れて、バタイユ、ロラン・バルト、ア…

青柳いづみこ『ドビュッシーとの散歩』

青柳いづみこ『ドビュッシーとの散歩』 ピアニスト青柳氏は、ドビュッシーの多面性を気づかしてくれる。文章もうまい。音楽を言語化するのは難しい。だが、青柳氏はピアノを弾くように文章を描く。例えばピアノ曲「水の反映」 「三和音の連なりが波のように…

オブライエン『本当の戦争の話をしよう』

オブライエン『本当の戦争の話をしよう』 イラク戦争に海兵隊で戦ったフライ氏の『一時帰還』を読んで、45年前に歩兵としてベチナム戦争に従軍した1990年のオブライエンの小説を読んだ。どちらも帰還してから戦争体験をもとに、アメリカの戦争体験を現…

スタロバンスキー『オペラ、魅惑する女たち』

スタロバンスキー『オペラ、魅惑する女たち』 フランス18世紀のルソーなどの研究のスタロバンスキー氏が書いたオペラ論の傑作である。オペラが独特の魅力をもつのは、伝説的な過去の魔術的魅惑、いまこの瞬間の魔術的魅惑へと変貌させる技術にあるという。…

マルコム・カウリー『八十路から眺めれば』

マルコム・カウリー『八十路から眺めれば』 老年は悲惨だという本も多い。ボーヴォワールの『老い』は、ペシミスティックな色彩が濃い。カウリーのこの本を読んでいて、私はキケロの『老境について』(岩波文庫、吉田正道訳)に近い老年観を感じた。「黄金の…

吉見俊哉『「文系学部廃止」の衝撃』

吉見俊哉『「文系学部廃止」の衝撃』 2015年文科省が出した通知「国立大学法人等の組織及び業務の見直しについて」の文系学部の廃止の衝撃について、吉見氏は報道の短絡化を批判しながら、国立大法人化によって、文理格差、大学間格差がいかに広がってき…

フィル・クレイ『一時帰還』

フィル・クレイ『一時帰還』 イラク戦争を扱った戦争小説である。クレイ氏は、米海兵隊員として2007年からイラクに勤務し、その体験をもとに小説を書き、14年全米図書館賞を受賞した。ベトナム戦争のオブライエン『本当の戦争の話をしよう』(文春文庫…

中村孝義『ベートーヴェンの器楽・室内楽の宇宙』

中村孝義『ベートーヴェン 器楽・室内楽の宇宙』 私、いまアルバン・ベルグ四重奏団のベートーヴェン「弦楽四重奏曲14番」を聴きながら、中村孝義・大阪音大理事長のこの本を読んでいる。ピアノソナタ、弦楽四重奏曲。ピアノ三重奏曲、ヴァイオリンソナタ…

大河内直彦『地球の履歴書』

大河内直彦『地球の履歴書』 地球科学・地球史の発展は進んでいる。大河内氏は、その成果をもとに、寺田寅彦のような地球随筆を描きだす。随筆といっても科学研究に裏付けられているから、文理融合を感じさせる。寺田よりも、雪や氷の研究の物理学者・中谷宇…

諸冨祥彦『フランクル』

諸富祥彦『フランクル』 20世紀の名著『夜と霧』の著書で精神科医・フランクルの思想形成や、ロゴセラピー(実存分析心理療法)の核心を述べた諸富氏の力作である。ナチスのアウシュビッツ収容所などから、奇跡の生還をしたフランクルの苛酷の体験を生き延…

岸見一郎『アドラー 人生を生き抜く心理学』

岸見一郎『アドラー 人生を生き抜く心理学』 岸見氏は哲学者だが、20世紀精神医学のアドラーの心理学を重んじるのは、ソクラレスやプラトンの思想が根底にあるためだろう。フロイトとの出会いと決別を読むと、その相違がよくわかる。いま何故アドラーが復…

成美弘至『20世紀ファッションの文化史』

成美弘至『20世紀ファッションの文化史』 20世紀ファッションを創造してきたゲザイナー10人を描きながら、衣装だけでなく、美術、消費社会、コピー、マーケッテイング、身体論、サブカルなど広い視野で、20世紀社会を考察していて、面白い。成美氏は…

別府輝彦『見えない巨人−微生物』

別府輝彦『見えない巨人―微生物』 「地球という惑星と共生している『見えない巨人』―それが微生物なのです」と微生物学の別府東大名誉教授はいう。2015年ノーベル生理学・医学賞を受けた大村智氏は、放線菌から杭寄生虫抗生物質エバーメクチンを見つけ、…

加藤典洋『村上春樹は、むずかしい』

加藤典洋『村上春樹は、むずかしい』 加藤氏が2013年の国際シンポで、村上文学が中国、韓国の知識人には受容されず、大衆迎合、若向きのエンターテインメントに過ぎないとの発言にたいして、日本文学の伝統につらなるまっとな純文学だという村上像を打ち…

室井尚『文系学部解体』

室井尚『文系学部解体』 いま日本の大学は、市場自由経済システムに政府の統治で転換されでいる。実用的人材育成のための知識の効用化がおこなわれている。室井氏の本は、2015年文科省が通達いわゆる「文系学部・学科の縮小」に対するプロテストの書であ…

[ストリッカー『鳥の不思議な生活』

ノス・ストリッカー『鳥の不思議な生活』 ストリッカー氏は、アメリカ鳥類学者で南極からオーストラリアに至る地帯で鳥類観察をしているだけあって、面白い本である。鳥の生態を深く掘り下げるだけでなく、人間の知性、感性、社会生活と関連させて論じている…