トマ・ピゲティ『新・資本論』

トマ・ピケティ『新・資本論

フランスの経済学者ピケティ氏が、日刊紙リベラシオンに2004年から2014年まで書いた経済時評のうち83本が収められている。サルコジからオランドの政治批判、ギリシアキプロスなどの経済危機、EUの苦悩、税制、社会保障、格差問題を、具体的な問題で論じている。『21世紀の資本論』(みすず書房)よりわかりやすい。
  「経済成長はヨーロッパを救うか」(2013年9月)では、ピゲティ氏の「資本収益率>経済成長率」が使われ、資本収益率(資産がもたらす、賃貸料、配当、利子、キャピタルレインなどの利益)が4−8%増えるのに対し、GDPは1−2%だから、ますます格差が広がると見る。
ピゲティは国際協調で、銀行口座情報の自動交換、累進制の国際資産課税、国境を越えた資本移動の全面禁止、タックスヘブン(租税回避地)の透明性、公的債務の共同管理、法人税値上げなどを提案している。
   21世紀世襲資本主義による不労所得の増大をも批判している。「リリアン・ベタンクールは税金を納めているか」(2010年10月)では、フランス長者番付2位の化粧品王ベタンクールについて、6億ユーロの所得に対し500万ユーロという税率1%しかはらわない税制の仕組みを暴く。低・中流層の負担より、不労所得の課税は低いという。だから金持はますます金持になる。
   「ヨーロッパを変えよ」(2013年6月)では、通貨統一はなったが、そのあとが続かないEUについて、17国が金利の異なる国債を発行し、異なる税制を持つ点が問題としている。27国がお互いの税収の横取りをし、ていては単一通貨の効果はでない。EU共同債や共通税などのため、予算、財政権に関する最終決定権をもつ上院が必要と言い切っている。
2007―2009年のリーマンショックの銀行への公的資金注入合戦や、大学など高等教育など人材育成への低資金、年金改革、労働契約の問題など、現代フランス経済が抱えている問題にも。鋭く切り込んでいて面白い。自由主義経済学者・ミルトン・フリードマンがなくなった2006年11月の時評では。マネタリストとして「よい中央銀行」論者として、敬意を捧げながら、ピゲティ氏は「よい福祉国家」の方がいいと述べている。(日経BP社、村井章子訳)