ヘルマン『資本の世界史』

ウルリケ・ヘルマン『資本の世界史』

       ドイツの経済ジャーナリスト・ヘルマン氏が書いた資本主義の通史である。文章もやさしくわかりやすい。古代ローマや中国で、なぜ資本主義が生じなかったのかから始まり、英国・産業革命からユーロ危機までの歴史を描いている。
 ヘルマン氏は「資本」はお金でなく、市場経済でもなく、生産を効率化するプロセスであり、技術上の進歩だという。技術革新と実質賃金の上昇という労働雇用が、資本主義の近代の経済成長をうみだした。ヘルマン氏は、資本主義の興隆を進歩として描いていく。
       さらにヘルマン氏は、資本主義は国家と対立するものではなく、いかに手をたずさえて発展していくかという見方が強い。確かに後進国ドイツは、英国にたいし、その資本主義生産システム、技術をコピーし国家の庇護のもと近代化していった。それは近代日本、中国の先駆者だった。
       ヘルマン氏の本は後半で、近代資本主義はなぜ危機に陥るのかで重要な分析をしていて読み応えがある。そこには、お金がお金を産む「金融資本」による信用貸しと投棄が中核となって考えられている。1929年の世界恐慌から、2001年ITバブル崩壊、07年米国からサブプライム金融危機、10年のユーロ危機とその原因を探究していく。
       資本の信用貸しから始まり、債権まで「証券化」していき、先物取引、株など「投機化」という「資本」の変貌を詳しく述べている。ヘルマン氏は、資本投資により、国家の助力で実体経済を発展させることは大事だという。
ヘルマン氏の提案はこうだ。①国家が会社を待つのでなくエネルギー転換、インフラ教育など投資する②富裕層から資産税を取り立てる③実質賃金を国家が後援し上昇させる④老後の備えとして貯蓄を勧めない⑤金融バブルが弾けないため金融取引税を強め、銀行の自己資本をさらに増やすなど「国家資本主義」の考え方だ.
この本を読み、経済学者シュンペターの『経済発展の理論』(岩波文庫)に近い経済史だとおもった。また資本主義は、国家と共に発展するという考え方だ強い。「資本」が、抽象化し金融資本やカジノ資本主義に変質していく歴史も危機、として協調されていておもしろかった。(大田出版、猪俣和夫訳)