2011-09-01から1ヶ月間の記事一覧

日野龍夫『江戸人のユートピア』

日野龍夫『江戸人とユートピア』 江戸中期18世紀の学者荻生徂徠と門弟で漢詩人・服部南郭を中心に、閉塞した江戸社会でどういうユートピアを描いたかが語られていて面白い。日野氏は実証主義成立以前の近世の学問は、研究者の直接的自己表現という役割を果…

『サキャ格言集』『采根譚』

『サキャ格言集』 『采根譚』 東洋の処世訓である格言集を読んでいると心が落ち着いてくる。倫理学的体系性はないが、その格言は詩的であり、日常性があり、断片に人生の哲理が詰まっている。時々開いて何回も読んでみる。『サキャ格言集』は、13世紀のチ…

重田園江『ミシェル・フコー』

重田園江『ミシェル・フーコー』 20世紀思想としてフーコーの重要性はますます強まっていると思う。フーコー解説書は多く出されているが、重田氏の本は『監獄の誕生』を20年近く読んできた成果があり 権力論、国家論を深く突き詰めていて読み応えがある…

尾崎放哉句集

『尾崎放哉句集』 「咳をしても一人」という自由律の俳句で有名な尾崎放哉は、大正期に挫折と放浪の後、小豆島のお寺の庵主で41歳の人生を終わった。放哉の句を読んでいると「単独者の句」という感を強くする。一高から東京帝大を出て大企業に就職し、植民…

古今亭志ん生『古典落語 志ん生集』

古今亭志ん生『古典落語 志ん生集』 落語は語り芸で口承芸能だから、寄席に行きライヴで聴くのが一番だ。死んだ名人の場合それも不可能だから、テープやレコードで聴くことになる。特に独特の語り口をもつ志ん生はそれが一番だ。本題に入る前の面白いクスグ…

内田樹『レヴィナスと愛の現象学』

内田樹『レヴィナスと愛の現象学』 フランス現代思想で、レヴィナスは難解だ。レヴィナスの弟子という内田氏はパリ16区のアパルトマンに訪ねる。そこに「究極の賢者」を見出す。内田氏にとってレヴィナスを読むとは、読みつつある「私」を「読むことのでき…

中原祐介『現代彫刻』

中原祐介『現代彫刻』 戦後美術評論を先導した中原祐介氏が2011年3月に亡くなった。この本は現代彫刻を鋭い視点で描いたもので、文明論にもなっている。「私はミケランジェロの一点より、ティンゲリーの一点とともに生きたい」という中原氏の彫刻への熱…

高橋哲哉『デリダ』

高橋哲哉『デリダ』 現代思想は難しい。簡単に要約するのはなお難しい。アルジェリア生まれのフランス・思想家デリダの「脱構築」の思想は、20世紀に大きな影響を与えている。高橋氏のこの本はデリダ思想の全体像を見事に描いていて、初心者にもわかりやす…

藤原帰一『テロ以後』

藤原帰一編『テロ以後』 米国の9・11テロから10年たった。この本が出たのは2002年でその時買って読んだ。それから10年、再読してみた。当時と大きく異なるのは、テロ容疑者オサマ・ビンラディンが殺害されたが、対テロ戦争としてのアフガニスタン…

三上次男『陶磁の道』

三上次男『陶磁の道』 国立歴史民俗博物館編『東アジア中世海道』 中世世界史で魅力があるのは、東西文明の交流の視点である。これまではシルクロードという内陸アジアの交易路が注目されたが、その隆盛は7−8世紀までで、8−9世紀から15世紀では、海上…

朴裕河『和解のために』

朴祐河『和解のために』 2011年9月9日「朝日新聞」は韓国政府が日本政府に旧日本軍元慰安婦の損害賠償協議開催を提案すると報じている。朴韓国世宗大学教授のこの本は、教科書問題、慰安婦、靖国、独島(竹島)という過去の民族共同体の記憶(歴史認識…

柳宗悦『工芸文化』

柳宗悦『工芸文化』 民芸運動を行った思想家・柳宗悦が、今年で没後50年になる。民芸とは民衆の日常生活の実用性で使われる焼き物や染物・織物、家具などを指す。この本でも美と生活の結合による「美の国」を目指す。民芸は手工芸が伝統であるから、手仕事…

山本義隆『福島の原発事故を巡って』

山本義隆『福島の原発事故をめぐって』 『十六世紀科学革命』や『磁力と重力の発見』を読み、私は山本氏から西欧科学の革命を色々と学んできた。その科学史家が福島原発事故を論じたのでさっそく購入し読んだ。山本氏は日本原子力平和利用について、1950…