2011-08-01から1ヶ月間の記事一覧

ブルガーコフ『悪魔物語・運命の卵』

ブルガーコフ『悪魔物語・運命の卵』 20世紀スターリン時代の作家ブルガーコフの中篇小説は、ゴーゴリの『外套』や『鼻』のような幻想と現実が交じり合い、それにユーモアの諷刺が効いている小説だと思った。またH・JウェールズのSF小説的手法を持って…

ビルテール『荘子に学ぶ』

J・F・ビルテール『荘子に学ぶ』 フランス中国学者の荘子論である。西欧人はこう荘子を読むのかがわかって面白い。日本の中国学者の荘子は万物斉同、無為自然、運命論、死生一如など「無の哲学」を中心に論じられている。(例えば小川環樹責任編集『老子・…

只木良也『新版 森と人間の文化史』

只木良也『新版 森と人間の文化史』 年間降水量が多く、国土の三分の二が森林である日本は「森の国」である。只木氏によると、森林は日本文化の石油であったという。また水保全、土保全のための「緑のダム」でもあった。土砂災害などの浸食作用の防止、津波…

ドナルド・キーン『足利義政』

ドナルド・キーン『足利義政』 米国の日本学者キーン氏が、足利時代の東山文化を高く評価し日本美の原点と考えるのには驚きである。当時の将軍義政の伝記だが、『明治天皇』を書いた後で出版された。応仁の乱という京都を焼き野原にした10年間続いた内乱の…

中沢新一『日本の大転換』

中沢新一『日本の大転換』 東日本大震災と福島原発事故は復興だけでなく、大きな文明転換が必要と説いた書である。中沢氏はエネルゴロジー(エネルギーの存在論)から「太陽と緑の経済」への転換を説く。生態圏からのエネルギー転換だが、この本では原発の存…

安田敏朗『金田一京助と日本語の近代』

安田敏朗『金田一京助と日本語の近代』 最近テレビで日本語学者金田一京助の三代の学者家系物語を観た、安田氏は家族の物語ばかり強調されるなかで忘却される日本語研究にこの本で焦点をあわせている。金田一といえば私はアイヌ叙事詩ユーカラ研究と「明解国…

シュニッツラー『夢小説 闇への逃走』

シュニッツラー『夢小説・闇への逃走』 ノルウェ−で右翼キリスト原理主義者の若者がイスラム移民に反対し、大量殺害テロをおこなったと報道された。ちょうど20世紀始めナチスが政権をとる前のウィーンでシュニッツラーが書いた小説を読んでいた。実存的不…

巽好幸『地球の中心で何が起こっているのか』

巽好幸『地球の中心で何が起こっているのか』 地球の内部はいかにダイナミックに動いているのかがこの本を読むとよくわかる。地球の内部は地殻・マントル・核の三層から成っている。海洋と大陸からなる地殻は地球の1%にすぎない。外核をのぞきマントルはじ…

シュニッツラー『花・死人に口なし』

シュニッツラー『花・死人に口なし』 19−20世紀ウィーンの作家シュニッツラーは愛と死を描いた情緒作家だといわれる。むかし「輪舞」という映画も見た記憶がある。この短編集を読んで、短編の名手だと思った。確かにここに収められた9編の小説には「死…

内田亮子『生命をつなぐ進化の不思議』

内田亮子『生命をつなぐ進化のふしぎ』 生物人類学とは進化生物学の枠組のなかで人間という対象にアプローチし、さらに生物学と文化・社会的要因との関係を総合的に研究する学問である。霊長類など様々な動物の生命現象を観察し、さらに生命科学、考古学、人…

J¥・S・ミル『大学教育について』

J・S・ミル『大学教育について』 19世紀英国の思想家ミルの大学教育論であるが、大学教育の原点を説いていて興味深い。教養教育の重要性を説いているように見えるが、人文・社会科学と自然科学の「二つの文化」の統合を提起していて、現代にも通用する。…

池谷祐二『脳はなにかと言い訳する』

池谷祐二『脳はなにかと言い訳する』 脳科学者が脳の無意識の活動をエッセイ風に書いたものだが、脳科学研究最前線がやさしくわかる。その上、言い訳や錯覚、度忘れ、ダジャレ、不安、うつ、あいまいさなど日常生活の脳活動を科学的に解明していてくれるのが…

小林秀雄、吉田秀和、海老沢敏『モ^−ツアルト』

小林秀雄『モオツァルト』 吉田秀和『モーツァルト』 海老沢敏『変貌するモーツァルト』 「シェイクスピア的宇宙」があるように「モーツァルト的宇宙」がある。だからモーツァルト論は数多くある。伝記も最近では映画「アマデウス」のように暗殺説が話題にな…

渡辺京二『維新の夢』

渡辺京二『維新の夢』 渡辺氏は「逆説の力学」の史論家である。ある歴史的事象を「歴史法則」という基準により、進歩史観対反動史観で硬化させるより、進歩が反動になり、反動が進歩にもなる逆説の構造を明らかにしようとする。近代と前近代それにポストモダ…

アブー・ヌワーズ『アラブ飲酒選』

アブー・ヌワーズ『アラブ飲酒詩選』 8世紀から9世紀にかけてアッパース朝イスラム帝国最盛期の詩人アブー・ヌワーズの詩集である。イスラムでは「コーラン」で酒は禁じられているのに、堂々と飲酒礼賛の詩を書き、唐詩人・李白のような酒の楽しみを歌った…

白洲正子『明恵上人』

白洲正子『明恵上人』 13世紀の高僧明恵上人の伝記であるが、白洲氏はその「たましい」に迫ろうとしている。だが観念的でなく、自分の足で歩き寺々を訪れ追体験しようとしている。故郷であり修行の場であった紀州遺跡や、開祖となった京都・高山寺の山林ま…

広い良典『創造的福祉社会』

広井良典『創造的福祉社会』 広井氏は高度経済成長後の社会を、持続可能な「定常社会」にいかに変えるかを、環境―福祉―経済から考えてきた。この本では「定常社会」を文化的創造の社会と位置づけ、人類史という壮大な視野で精神・文化革命期として捉えようと…

イーグルトン『シェイクスピア』

テリー・イーグルトン『シェイクスピア』 シェイクスピア論は数多くある。私はヤン・コット『シェイクスピアはわれらの同時代人』(白水社)とイーグルトンのこの本が現代人の視点で書かれた、すぐれた文芸論だと思っている。コットが1968年刊行だから、…

田澤耕『ガウディ』

田澤耕『ガウディ伝』 ガウディ伝というよりは、田澤氏がカタルーニャ語学、文化史の専門家だけあって、19世紀から20世紀にかけてのカタルーニャ時代史のなかでのガウディという見方が強い。だが不思議な事に、ガウディのサグラダファミリア教会などの建…