2010-11-01から1ヶ月間の記事一覧

五木寛之『親鸞』

五木寛之『親鸞』 宗教者のなかで親鸞ほど小説化された人はいないだろう。吉川英治、丹羽文雄、津本陽など。また数多くの親鸞伝や親鸞論も出ている。五木氏の親鸞は「青春の門」の作者らしく、親鸞の少年期から35歳に越後に流罪になるまでを扱う青春小説で…

亀山郁夫『磔のロシア』

亀山郁夫『磔のロシア』「スターリンと芸術家たち」という副題が付いているように、20世紀ソ連独裁者とその粛清のなかで、権力の庇護と賞賛と、「二枚舌」などの抵抗の葛藤によって、自己表現を試みた芸術家6人を扱かつている。全体主義権力とは何か、芸…

持田季末子『絵画の思考』

持田季未子『絵画の思考』持田氏は「抽象具象を問わず絵画固有の意味とは、線、色、面、形態などでできた『形の意味』」と考え、最初からヴィジュアルな表現の実践であり、繊細で直覚的な思考という。この手法でモンドリアンからマーク・ロスコの現代抽象画…

マルケス『誘拐の知らせ』

G・ガルシア=マルケス『誘拐の知らせ』 最初から最後までスリルとサスペンスに満ち、一挙に読んでしまった。ノンフィクションだが、トルーマン・カポーティ『冷血』に匹敵する傑作だ。現代コロンビアにおける麻薬戦争を背景に、麻薬組織ボスが政府に仕掛け…

間宮陽介『ケインズとハイエク』

間宮陽介『ケインズとハイエク』 自由を巡ってのケインズとハイエクの考え方を比較して論じた本だが、金融危機以後の現代にも当てはまる。自由市場か政府介入の管理経済か、私的利益か公的利益かという考え方は、20世紀前半のこの二人の大衆社会での自由の…

黙阿弥歌舞伎を読む

黙阿弥歌舞伎を読む(その1) 『鼠小僧』 黙阿弥の歌舞伎は、幕末の転形期の時代に江戸の終焉感覚と、価値観の相対化を核とした遊び人の美学がある。演劇的には、不条理の運命悲劇にあたるだろう。因果の小車に翻弄されるが、自分の好みによって生きていこ…

劉暁波『現代中国知識人批判』

劉暁波『現代中国知識人批判』 2010年ノーベル平和賞受賞の中国の文学者・劉暁波のこの本を読んで、私は明治の思想家・福沢諭吉の哲学を思い出した。事物の「惑溺」から、主体的独立、権力の偏重から多元的自由を求め、儒教思想批判と「脱亞入欧」を説い…

バルガス=リョサ『若い小説家に宛てた手紙』

バルガス=リョサ『若い小説家に宛てた手紙』 リョサの小説論である。フローベル論である「果てしなき饗宴」とともに、リョサの小説を理解するための本でもある。リョサは、文学とは自分の生きている現実にたいし反抗心と批判精神を持ち、自分の想像力と願望…

柴田南雄『日本の音を聴く』

柴田南雄『日本の音を聴く』 柴田氏といえば、「西洋音楽史 印象派以後」や「グスタフ・マーラー」などクラシック音楽批評でしられるが、同時に日本民俗芸能・社寺芸能の綿密な調査から作曲された合唱作品でも知られる。この本はその基盤となる日本の伝統的…

鈴木忠志『演劇とは何か』

鈴木忠志『演劇とは何か』 鈴木氏は劇団SCOTの主催者で、利賀フエスチィバルを主催した1980年代の日本小劇場運動を代表する演出家である。この本を今読んでも学ぶところが多い。鈴木氏によれば、演劇とは書かれた言葉としての戯曲を肉体をともなった…

ヴァレリイ『ドガに就いて』

ヴァレリイ『ドガに就いて』画家ドガといえば踊り子や競馬の絵で有名だ。フランスの詩人・思想家ヴァレリイがドガの思い出を語るとともに、ヴァレリイの芸術・思想を述べたもので、ドガがヴァレリイの小説『テスト氏』に見えてくる。詩人・大岡信氏によれば…

幸田文『木」『崩れ』

幸田文『木』 幸田文『崩れ』 幸田文は70歳前後から、人の背に負ぶさったりもしながら、北海道・富良野のエゾマツや屋久島の縄文杉また安部川の山崩れなどを見て周り、晩年のこの2名作を書いた。そのエネルギーと好奇心、現地での観察に敬服する。高齢化…

渡辺靖『アメリカン・デモクラシーの逆説』

渡辺靖『アメリカン・デモクラシーの逆説』 アメリカ研究は難しい。群盲象を撫でるになりやすい。親米・反米の価値判断は論外としても、視点の置き方で多様になる。たとえば、仲正昌樹『アメリカ現代思想』では、リベラリズムに重点を置いているし、会田弘継…

寺山修司演劇論集

『寺山修司演劇論集』 1970年代に「天井桟敷」劇団を率いて演劇界に旋風を引き起こした寺山修司の演劇論は、今読んでも刺激的である。寺山はいう。「ドラマツルギーとは関係づけることである。それは、演劇を通した出会いのなかで、観客と俳優という階級…

安藤忠雄『建築家』

安藤忠雄『建築家』 光と影の物語である。それは安藤氏の建築(住吉の長屋から光の教会まで)から生き方まで貫徹している。自伝でもある。「それでも残りのわずかな可能性にかけて、ひたすら影の中を歩き、一つつかまえたら、またその次を目指して歩き出しー…

司馬遼太郎『韃靼疾風録』

司馬遼太郎『韃靼疾風録』 17世紀中国近世は、満州族の清帝国から始まる。なぜ人口60万人の満州(女真)族が何億の明帝国に変わり中国支配をなしとげたのか。なぜ文明(華)が野蛮(夷)に征服されたのか。司馬氏はその歴史ロマンに、平戸の日本人武士と…

水木しげる『悪魔くん千年王国』

水木しげる『悪魔くん千年王国(全)』かつて『ゲゲゲの鬼太郎』を読んだとき、次々出てくる妖怪がなんと面白い存在かを思った。水木氏は自分の妖怪病は古代出雲の霊のなせる業といい、幽霊と違い妖怪とは河童とか海坊主とか牛鬼のように、こわいけれど愛嬌…

ホセ・ドノソ『ラテンアメリカ文学のブーム』バルガス=リョサ『緑の家』

ホセ・ドノソ『ラテンアメリカ文学のブーム』 この本が面白いのは1960年代にラテンアメリカ文学ブームの渦中にあつたチリの作家ドノソの証言だからだ。「1960年代の波瀾に富んだ小説の国際化と私は行動を共にしてきたという気持ちが強く」とドノソも…

バルガス・リョサ『緑の家』 2010年ノーベル文学賞受賞バルガス・リョサを読む。『緑の家』は多層的・多声的にペルーのアマゾン支流とアンデス山脈の間の地域でのスペイン系ペルー人やインディオ、日系ブラジル人の生き様と人間関係を扱った全体小説であ…

村山斉『宇宙は何でできているのか』

村山斉『宇宙は何でできているのか』 副題に「素粒子物理学で解く宇宙の謎」となっているというように、村山氏は宇宙を考えるとき「ウロボロスの蛇」をイメージするという。広大な宇宙という頭が素粒子という尾を飲み込んでいる。素粒子の働く力が分かれば、…