鈴木厚人『ニュートリノでわかる宇宙・素粒子の謎』

鈴木厚人『ニュートリノでわかる宇宙・素粒子の謎』

2002年に小柴正俊氏が「超新星ニュートリノ」を検出し、ノーベル賞に輝いたが、2015年にも再びニュートリノ研究で日本人が物理学賞を受賞した。なぜ日本でニュートリノ研究が盛んなのか。第一は湯川秀樹朝永振一郎以来の素粒子学の研究の伝統が有ること、第二には岐阜。・神岡鉱山地下に作られた観測実験装置「カミオカンデ」の存在がある。
鈴木氏は、カミオカンデスーパーカミオカンデカムランドでの三代でニュートリノ研究に携わった一人者であり、この本も素粒子学からニュートリノ天文学まで、わかりやすく述べている好著である。
ニュートリノという素粒子は、身の回りに多く存在するのに、電気的にニュートラルなため、すべての物質をお化けのようにすりぬける「幽霊素粒子」である。鈴木氏によれば、人間の体内から3000個もでており、太陽からのニュートリノは、1平方センチに毎秒660億個も出ているという、それが検出できないのは、電気的中性なので、スカスカな原子に中を通り過ぎてしまうためだ。
カミオカンデという実験装置で、1987年に17万光年前に起きた超新星爆発ニュートリノを捕捉したのは、たった11個だった。だがニュートリノは物質と反応しないから、宇宙からのメッセンジャーだという。「ビックバン」や太陽の核融合で生じたニュートリノは、宇宙誕生の謎をとく鍵になる。
鈴木氏はニュートリノに質量があるのかという難問をいかに実証していったかも述べている。太陽や地球ニュートリノの「振動」現象から質量の存在を裏付けていく。ニュートリノが、「標準理論」における17種類の素粒子クオークレプトン、ヒッグスなど)を統一し、さらに電磁力、重力、強い力、弱い力の「統一理論」に、重大な役割を持っていると鈴木氏は強調している。
「 なぜ物質が生まれたかという物質の根源に迫ることは、同時に宇宙の根源にも迫ることに通じる。なぜこの宇宙に物質が残ったのかは、人間の生命の起源にも迫ることになる。ノーベル賞をもらった「小林・益川理論」の「CP対称性の破れ」により物質が残ったという考えは、ニュートリノ理論とも関連してくる。大量のニュートリノクオークに変身すれば、反物資よりも、物質のほうが多くなる。
さらにいま問題の「ダークマター」(暗黒物質)は、ニュートリノだという仮説も今後の問題だろう。(集英社新書