2011-10-01から1ヶ月間の記事一覧

フルトベングラー『音楽を語る』

W・フルトヴェングラー『音楽を語る』 政治思想学者・丸山真男はドイツの指揮者フルトヴェングラーのベートーベン交響曲を好んだ。第九を聴き「何という演奏か、誰が第一楽章の、あの一見リズミカルな進行の奥にひそんでいるすさまじいカオスをこれほど見事…

ドーア『金融が乗っ取る世界経済』

ロナルド・ドーア『金融が乗っ取る世界経済』イギリスの社会経済学者ドーア氏は『学歴社会新しい文明病』を愛読していた。そこには英国だけでなく日本社会まで及ぶ広い視野で学歴社会の到来を描いていた。この本は世界経済に金融社会が到来した現状を分析し…

シュトルムの小説を読む

シュトルムの小説を読む 19世紀北海沿岸のドイツ叙情詩人シュトルムの小説を読む。そこには市民の日常が自然環境の中で描かれ、人生で愛する人の喪失とあきらめを老後の孤独と共に描く。その根底には悲劇があるのだが、叙情的情緒が静かな諦念として浮かび…

池田純一『ウェブ×ソーシャル×アメリカ』

池田純一『ウェブ×ソーシャル×アメリカ』 ウェブ社会の現在,アップルやグーグル、フェイスブック、ツイッターは何故アメリカで生まれたのかをアメリカ社会史や思想史から解き明かそうとした野心作である。先ごろ死去したアップルのスティーブ・ジョブズは6…

堤未果『ルポ貧困大国アメリカ』

堤未果『ルポ貧困大国アメリカ』『ルポ貧困大国アメリカⅡ』 アメリカでは金融街ウォールの近くの公園を占拠したデモが続く。反格差と失業からの雇用が深刻化している。堤氏のこの本は、こうしたいまアメリカが抱えている問題を抉り出した力作である。第一冊目…

浜本隆志『窓の思想史』

浜本隆志『窓の思想史』 浜本氏によると現代は「窓の時代」だという。世界の都市では「ガラス箱」のような「窓の増殖現象」がみられる超高層ビルがどんどん建てられる。これに対し日本の伝統文化は障子・襖、平屋建てである。浜本氏はヨーロッパ文化を垂直志…

ラーナー『ミュージカル物語』

アラン・ジェイ・ラーナー『ミュージカル物語』 「マイ・フェアー・レディ」の作詞・台本を書いたラーナーのミュージカルの歴史である。19世紀末のオフェンバックのオペレッタから始まった大衆音楽劇は、20世紀には英米の舞台芸術の中核になっている。こ…

斎藤貴男『心と国策の内幕』

斎藤貴男『「心」と「国策」の内幕』 ジャーナリスト斎藤貴男氏はこれまで監視社会や格差社会の到来や憲法改正の潮流などを書いてきた気鋭の論者だが、この本では21世紀になって新自由主義社会のもたらし市場経済の矛盾を解消するため、「心の時代」として…

内田貴『民法改正』

内田貴『民法改正』 ここでいう「民法」とは親族法、相続法でなく経済活動をめぐる「契約法」改正をいう。驚くべきことに民法のこの部分は1896年(明治29年)制定時からほとんど改定されていず、100年ぶりの改正になる。2004年に民法現代語化が…

ケベル『中東戦記』

ジル・ケベル『中東戦記』 フランスのイスラーム政治研究者ケベルが、2001年の9・11事件の前後にアラブ諸国を歩いたフイールド・ノートである。エジプト、シリア、レバノン、アラブ首長国連邦、カタル、イスラエルそれにニューヨークを探訪している。…

宮部みゆき『狐宿の人』

宮部みゆき『孤宿の人』 徳川十一代将軍家斎の時代、瀬戸内の小藩・丸海藩に江戸で家人や家来6人を殺したという元勘定奉行加賀様が流人として幽閉されるところから物語は始まる。悪霊として丸海藩に様々な邪気、呪いを蔓延させるが、果たしてそれは真実なの…

野口武彦『江戸人の精神絵図』

野口武彦『江戸人の精神絵図』 江戸思想史が面白いのは、現代日本の精神とどこか似通うところがあるからだ。野口氏は江戸中期から末期の18−19世紀の江戸を取り上げている。野口氏はいう。水戸学の指導者・藤田東湖を圧死させた安政江戸地震(1855年…

ニコルソン『装飾庭園殺人事件』

ジェフ・ニコルソン『装飾庭園殺人事件』 ポストモダン・ミステリーの傑作だろう。モダン・ミステリーは鋭敏な探偵が論理的推理力を駆使して一つの真実を見つけ出し、犯人を逮捕し秩序を回復する。だがポストモダン・ミステリーは一人で全体を論理構築できる…

ブール『猿の惑星』

ピエール・ブール『猿の惑星』 近日に映画「猿の惑星 創世記」が封切られるというので、原作を読んでみる。これはSF小説を装って居るが、スウイフトの「ガリヴァー旅行記」や、シラノ・ド・ベルジュラック「日月両世界旅行記」のような諷刺小説なのだ。異…