2014-01-01から1ヶ月間の記事一覧

黒田基樹『戦国大名』

黒田基樹『戦国大名』 1980年代以降に戦国大名の研究は急速に進んだ。その結果、織田・豊臣政権と戦国大名が切り離されていたのが、黒田氏のように戦国と近世大名を連続性で捉えようとする歴史観が強まった。現代の主権国民国家と同じような「領域支配権…

深見奈緒子『イスラーム建築の世界史』

深見奈緒子『イスラーム建築の世界史』 イスラーム建築を、世界に開かれた建築として、風土や生態系を超えて,人やモノや情報の世界への移動から捉えようとする壮大な著作である。さらに歴史的に8世紀イスラームの誕生から、アラブ統一様式の創出の11世紀…

賀照田『中国が世界に深く入りはじめたとき』

賀照田『中国が世界に深く入りはじめたとき』 賀照田氏は、中国社会科学院に属するが、日本始め東アジアで注目される若手知識人である。精神史という人文学の視点から、中国の精神内面を深く考察して発信している。1989年天安門事件以後から92年訒小平…

ホフマン『砂男/クレスペル顧問官』

ホフマン『砂男_/クレスペル顧問官』 『ホフマン短編集』 19世紀のドイツ幻想文学者・ホフマンの短編集を、いまサイコ・スリラーとして読む。「砂男」は精神分析学者・フロイトが『不気味なもの』(光文社古典新訳文庫)で、幼年期の父親から去勢不安と母…

権左武志『ヘーゲルとその時代』

権左武志『ヘーゲルとその時代』 19世紀ドイツの哲学者ヘーゲルは、現在でも大きな影響力ある思想家である。権左氏によると、「プロイセンの国家哲学者」という見方がある一方、アメリカの思想史家ロールズ氏は「斬新的改革に共鳴するリベラリスト」として…

石水喜夫『日本型雇用の真実』

石水喜夫『日本型雇用の真実』 労働政策が目まぐるしく変わろうとしている。派遣社員の任用期間や、正規社員の解雇自由化、残業、柔軟な勤務形態などである。この根元には「雇用流動化」がある。石水氏は、市場原理になじまない「労働は商品である」という労…

陣内秀信『東京の空間人類学』

陣内秀信『東京の空間人類学』 サイデンスデッカーや磯田光一の東京論が、下町に中心が置かれ文化史的考察だったが、陣内氏のこの本は建築学者らしく、「水の辺」と「山の辺」という複眼的見方で自然空間を基に、江戸期以来の伝統・歴史の連続性を考えようと…

磯田光一『思想としての東京』

磯田光一『思想としての東京』 明治から昭和まで、日本近代化の矛盾と象徴の視点で東京を捉えようとしている。近代日本文学評論家の磯田らしい表現が出てくる。冒頭に森茉莉「気違いマリア」(昭和42年)の「浅草族は東京っ子、世田谷族は田舎者」の引用が…

サイデンステッカー『東京 下町山の手』 

サイデンステッカー『東京 下町山の手1867−1923年』 東京にオリンピックが来る。東京とはどういう都市なのか。「源氏物語」や「細雪」を西欧に翻訳したサイデンステッカーが、江戸末期・明治維新期から大正の関東大震災までの東京のモダン都市への変…

浜本隆志『海賊党の思想』

浜本隆志『海賊党の思想』 21世紀インターネット時代に、ヨーロッパで海賊党が出現し、インターネットの規制に反対し、著作権や特許権の知的独占権にも異議を唱え、個人使用のダウンロードの合法化や、直接民主主義と代議制民主主義を融合させる「液体民主…

荒松雄『インドとまじわる』

荒松雄『インドとまじわる』 この本は1982年出版である。荒は南アジア史が専門で東大教授だった。1952年31歳で戦後早くインドのベナーレス大学に留学した。まだインドには日本大使館もなかった。3年9月留学し、インドに9回、滞在期間5年という…

大谷幸三『インド通』

大谷幸三『インド通』 インド紀行は難しい。文明の違いがある上に、広大な国土、膨大な人口、多様な民族、宗教、言語、イギリスやイスラム統治などの歴史など混沌が渦巻いている。大谷氏は40年以上、70回を超えるインド旅行と、親しいインド人の知人によ…

牧野淳一郎『原発事故と科学的方法』

牧野淳一郎『原発事故と科学的方法』牧野氏は天体物理学者だが、2011年3月11日の福島原発事故以降、政府や東京電力、マスコミの発表が、事態を「過小評価」しているのではないかと疑い、自分の物理学的方法で、放射性物質放出量の大きさを計算し、ネ…

岡田暁生『オペラの終焉』

岡田暁生『オペラの終焉』 19世紀末から20世紀にかけてウイーンで活躍した作曲家・リヒャルト・シュトラウスのオペラ「バラの騎士」を論じながら、第一次世界大戦後オペラがいかに終焉したかを描いた力作である。20世紀音楽の、「芸術か娯楽か、前衛か…

宮田律『世界を標的化するイスラム過激派』

宮田律『世界を標的化するイスラム過激派』 宮田氏の見方は、「アラブの春」は破綻し、アメリカの対テロ戦争の結果は「ジハード」(聖戦)と、「フィトナ」(イスラム世界内の宗派などの内乱)を激化させているというものだ。確かにシリア内戦は終結が見えな…

ダワーとマコーマック『転換期の日本へ』

W・ダワーとマコーマック『転換期の日本へ』ダワー氏はマサチュ−セッツ工科大名誉教授であり、マコーマック氏はオーストラリア国立大名誉教授であり、二人とも日本を愛している日本・東アジア近代史の大家である。両人がいまの東アジアの危機のなかで、日本…

三上修『スズメ』

三上修『スズメ』「われと来て遊べや親のない雀」(小林一茶) 三上氏の本を読んで驚いたのは、スズメはこの20年で半減したという記述である。ヒバリは都市化で激減し、メダカやゲンゴロウは絶滅危惧種であり、近年は蜜蜂が世界的に減少しているが、人間の…

『とりかえばや物語』

王朝物語を読む(その四) 『とりかえばや物語』『とりかえばや物語』は戦前は不道徳な物語とみなされ、嘔吐を催すという有名な国文学者もいたくらいだ。だが近年評価があがり、作家・中村真一郎は傑作とし現代語訳をおこなうし、心理学者・河合隼雄は男と女…

クラウス『宇宙が始まる前に何があったか』

ローレンス・クラウス『宇宙が始まる前には何があったのか?』 宇宙物理学者が、「空っぽの無」から、いかにこの物質的有の宇宙が生じたかを論じた驚異の書である。20世紀から今まで、ビックバンによる膨張の性質を最初のマイクロ秒まで遡って知り、何千個…

プルースト『失われた時を求めて』

プルースト『失われた時を求めて』(①) 『スワン家のほうへ』 プルーストの大作の始めの第一篇である。そこには、今後発展する全小説の先駆けが詰まっている。直観と無意志的記憶が偶然の連想により過去を喚起してくる。その文体は自分の内面の底に淀んだ夢…