山下祐二・橋本麻里『驚くべき日本美術』

山下祐二・橋本麻里『驚くべき日本美術』

    20世紀末から、日本美術へのブームが続いている。長谷川等伯展、阿修羅展、鳥獣戯画展は満員だし、さらに伊藤若沖長沢芦雪はじめ「奇想の系譜」の人気も高い。ポストモダン的な視点で、日本美術を基盤に刷新していく現代美術も盛んだ。山口晃会田誠、蒼野甘夏、須田悦弘などは、新しい日本画といってもいい。
    日本美術の新しい見方を説いて、展覧会も多く手がけている室町水墨画にくわしい日本美術史の山下氏と、美術ライターの橋本氏の対談は、縦横無尽で面白い。赤瀬川原平南伸坊氏、みうらじゅん氏のような、自由な日本美術の見方にも繋がってくる。
    山下氏は、障壁画はじめ実物を新鮮な目で見る大切さをいう。イメージでなく実物をみることで、雪舟「山水長巻」の巨大な空間構造や「伝源頼朝像」も等身大の肖像がわかる。絹地の絵の美しさは印刷で再現できないと、狩野一信「五百羅漢図」若沖「池辺群虫図」などを挙げる。
    山下氏は「縄文―東照宮―永徳―明治工芸」の路線と「弥生―桂離宮―利休―柳宗悦」の路線を、大きく日本美術の図式としている。その上で、日本美術にアクセスするパスワードとして、「生理的曲線」(若沖や等伯など)「筆ネイティブ」(鏑木清方上村松園で絶滅という)「美しい畸形」(山本芳翠「浦島図」など)「泡沫画家」(秋山聖徳太子など)を挙げて述べていて面白い見方である。
    山下氏の見方は、アカデミックな学問(辻惟雄氏が師)の上に、赤瀬川や岡本太郎の日本美術の考え方が乗っているから、この本は面白い。私は橋本氏の『京都で日本美術を見る』も同時に読んだら、なお理解が進むと思う。(集英社インターナショナル