2014-03-01から1ヶ月間の記事一覧

『まど みちお詩集』

『まど みちお詩集』 「いちばんぼしが でた うちゅうの 目のようだ ああ うちゅうがぼくをみている」 「太陽 月 星 そして 雨 風 虹 やまびこ ああ 一ばん ふるいものばかりが どうして いつも こんなに 一ばん あたらしいのだろう」 詩人・まど みちおが、…

チャンドラー『さらば愛しき女よ』

チャンドラーを読む② レイモンド・チャンドラー『さらば愛しき女よ』 チャンドラーの小説は、スピード感があって、セリフも洒落ていて、映画のように映像が浮かんでくる。その音楽はジャズが好ましい。この小説を読むと、ロスアンジェルス(ハリウッド)の街…

濱田武士『日本漁業の真実』

濱田武士『日本漁業の真実』 2014年3月25日、福島県漁業協同組合連合会は、福島原発の原子炉建屋に流れ込む前に地下水をくみ上げ海に流す「地下水バイパス計画」を、苦渋の了承に踏み切った。汚染水が増え続ければ海に流され、漁場が壊滅するからだ。…

チャンドラー『長いお別れ』

チャンドラーを読む① レイモンド・チャンドラー『長いお別れ』 「さよならをいうのはわずかのあいだ死ぬことだ」 「ほんとのさよならは悲しくて、さびしくて、切実なひびきを持っているはずだからね」 アメリカ推理小説の古典で1954年に出ている。この小…

ベンスサン『ショアーの歴史』

ジョルジュ・ベンスサン『ショアーの歴史』 「朝日新聞」(2014年3月25日)によると、ホロコースト(ユダヤ人虐殺)の70周年を迎えるハンガリーで、ナチス占領記念碑建設計画にユダヤ系団体がボイコットするという。ハンガリー政府はナチス占領以前…

ボェティウス『哲学の慰め』

ボェティウス『哲学の慰め』 6世紀西ローマ帝国滅亡後、東ゴート王国のテオドリック王に仕えたが、反逆罪にとわれ処刑されたボェティウスが、獄中で書き遺した遺著である。塩野七生氏によると、ゴート族のローマ支配は50年続き「蛮族の平和」といわれ、軍…

『吉野弘詩集』

『吉野弘詩集』 「ゆったり ゆたかに 光を浴びているほうがいい 健康で 風に吹かれながら 生きていることのなつかしさに ふと 胸が熱くなる そんな日があってもいい そして なぜ胸が熱くなるか 黙っていても 二人にはわかるのであってほしい」(「祝婚歌」か…

サルトゥー=ラジュ『借りの哲学』

ナタリー・サルトゥー=ラジュ『借りの哲学』 「借りる」「返済する」を、贈与、返礼、交換、負債にまで広げ、EUの債務危機に個人のカードローンまで、さらに「借り」を拒否する新自由主義の自律した人間、「借り」から逃亡するインターネット人間まで、幅…

水野和夫『資本主義の終焉と歴史の危機』

水野和夫『資本主義の終焉と歴史の危機』 資本主義は「中心」と「周辺」つまりフロンティアを広げることで、「中心」が利潤率を高め、資本が自己増殖していくシステムである。だが、グローバリゼーションによる新興国の成長で「周辺」が消失しつつあり、先進…

やなせたかし『アンパンマンの遺書』

やなせたかし『アンパンマンの遺書』 私はアンパンマンを見ると、ワイルドの童話『幸福の王子』(新潮文庫)を思い浮かべてしまう。やなせは、この本でシェリー著『フランケンシュタイン』とメーテルインク『青い鳥』に強い影響をうけたというのだが。幸福の…

ダンカン・ワッツ『偶然の科学』

ダンカン・ワッツ『偶然の科学』 社会科学は、「ネットワーク科学」や「複雑系社会学」で果たして変わるのだろうか。いまこの分野で「スモールワールド」論を展開したワッツの社会学論である。ワッツは「常識を用いるな」という。企業や文化、市場、国民国家…

シービオク『シャーロック・ホームズの記号論』

シービオク『シャーロック・ホームズの記号論』 アメリカのプラグマティズム哲学者パースと、探偵ホームズとの思考方法の共通性を比較した面白い本である。パースは記号からの「推測」を重視し、その考えをホームズ探偵は実践していくというのが、シービオク…

『草野心平詩集』

『草野心平詩集』 福島県・いわき市の出身の詩人草野心平(1903−1988年)が経営していた新宿御苑近くのバー「学校」に、40年前に数回飲みにいった。でーんと座ったがっしりした心平さんが居たのを覚えている。福島というより中国大陸の匂いを感じ…

岡井隆『正岡子規』

岡井隆『正岡子規』「こいまろぶ 病の床のくるしみの 其側に 牡丹咲くなり」 「糸瓜咲いて痰のつまりし仏かな」 歌人で医師の岡井隆氏が書いた正岡子規の和歌論では、俳人・蕪村のような様式性や浪漫性に子規は近いという考えである。明治時代の転形期の詩人…

大沼保昭『「慰安婦」問題とは何だったのか』

大沼保昭『「慰安婦」問題とは何だったのか』 1993年宮沢内閣の時に河野洋平官房長官が談話を発表し、「総じて本人たちの意思に反し」女性の名誉と尊厳を傷つけたとし、「お詫びと反省の気持ち」を表明した。安倍政権は、第一次内閣の2007年日本軍に…

ブルジェール『ケアの倫理』

ブルジェール『ケアの倫理』 「ネオリベラリズムへの反論」という副題がついている。日本版への序文では、「フクシマの後、私たちの世界は同じでない」で、生活の土地を離れ避難を余儀なくされた人びと、近親者を失った人びと、将来の見通しに難しさを抱えて…

『青木昌彦の経済学入門』

『青木昌彦の経済学入門』 スタンフォード大名誉教授で、制度論から経済学を構築してきた青木昌彦氏が、制度経済学の本質論だけでなく、現状分析や政策分析まで述べている面白い本である。制度経済学は、ゲーム理論をもとに、政治、法律、社会慣習、歴史、さ…

葛兆光『中国再考』

葛兆光『中国再考』 2014年3月5日中国・第12期全国人民代表大会が開かれた。経済成長率目標は7・5%を維持し、国防予算は12・2%も増加した。「朝日新聞」は同日付「時々刻々」で「中国、膨らむ大国意識」という見出しをつけた。中国台頭ととも…

イプセン戯曲を読む(4)『幽霊』

イプセン戯曲を読む(4) 『幽霊』 イプセンは家族制度にからめとられた女性を描くのがうまい。このドラマの主人公アルヴィング夫人は、地位も財産をもつ侍従武官と結婚した。だが夫は放蕩な乱暴な放恣な人間で、若いお手伝いを妊娠させる。 夫人は『人形の…

イプセン戯曲を読む(3)『ヘッダ・ガーブリエル』

イプセン戯曲を読む(3) 『ヘッタ・ガーブレル』 この戯曲の女主人公ヘッタ・ガーブリエルという夫人は、美しく魅力的だが、学者と結婚した。だが退屈で生きる目的が見えてこない。その欲求不満はつのっていくが、なににも生きる目的を見出すことが出来な…

イプセン戯曲を読む(2)『野鴨』

イプセン戯曲を読む(2) 『野鴨』 『民衆の敵』では、社会的な秘密の隠蔽を情報公開しようとする正義のドラマを書いたイプセンが、この戯曲では、私生活のプライベートな隠蔽された秘密を暴くことによって、平穏な幸福の家庭が崩壊する劇を描いた。過去の…

イプセン戯曲を読む(1)『民衆の敵』

イプセン戯曲を読む(1) 『民衆の敵』 19世紀末ノルウェーの劇作家イプセンのこの劇を読んでいると、水俣病公害や、福島原発事故(核汚染水問題)が思われてならなかった。故郷の町の温泉療養所の医師ストックマンが、その温泉の上流の工場から流れ出る…

渋谷秀樹『憲法への招待』

渋谷秀樹『憲法への招待』 「朝日新聞」(2014年2月26日)によると、佐賀市に住む14人が「生活保護費減額は違憲」と提訴したという。憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」が送れなくなったためだ。憲法学者・渋谷氏の本は、憲法に…

花田清輝『花田清輝評論集』

花田清輝『花田清輝評論集』 花田清輝(1909−1974年)は戦後の評論家である。いま読んでも面白い。多面的で横断的思考がうかがえる。あらゆる価値が相対化される「転形期」の思想家である。一元的な完全な円球の思想でなく、二つの焦点をもって描く…