2011-07-01から1ヶ月間の記事一覧

ヘミングウェイ『海流のなかの島』

ヘミングウェイ『海流のなかの島々』 20世紀戦争の時代を生き、晩年はキユーバの海を愛して自ら命を絶った作家の死後刊行された小説である。『老人と海』は、この作品の副産物という。『老人と海』でも老漁夫が巨大なカジキマグロと死闘を演じ「おれは死ぬ…

川村湊編『現代沖縄文学選』

川村湊編『現代沖縄文学作品選』 沖縄文学は存在する。歴史も伝統も習俗も異なる島国での文学は、私には英文学にたいするアイルランド文学を思わせる。口承の伝統が強いアイルランドでは短編・中篇に傑作が多いが、沖縄文学もそうだ。川村氏編のこの作品選に…

マックス・ウエーバー『社会主義』『官僚制』

マックス・ウェーバー『社会主義』 マックス・ウェーバー『官僚制』 20世紀史の大きな問題は、社会主義の成立と崩壊である。それは「ソ連型社会主義」とも「アジア型社会主義」と言ってもいい。ソ連型社会主義が何故崩壊したかは様々な考えがあるが、それ…

高木仁三郎『プルトニウムの恐怖』

高木仁三郎『プルトニウムの恐怖』 1981年刊行だが、福島原発事故のあと増刷され、25刷になった。30年前の原発への警鐘を語ったものだが、いまや先見性のある「古典」といえよう。原子力発電をおこなえばウランの核分裂で、副産物としてプルトニウム…

フローベル『ブヴァールとベキュシエ』

フローベル『ブヴァールとベキュシエ』 「ボヴァリー夫人」の作者・フローベルの19世紀末の反教養小説であり、百科全書的知識の探究の空しさと、読書の罪を描いた小説である。そこには、地域社会の匿名の大衆社会的共同体における凡庸な「紋切型社会」への…

澤柳大五郎『ギリシア美術』

澤柳大五郎『ギリシアの美術』 美学者・澤柳氏が1年間ギリシアで古代美術を観て書いた本で、風景論から始めて彫刻、建築、陶器画、墓碑、浮き彫りまで全般的に論じ、ギリシア美をミュケナイ文化からヘレニズムまで紹介したもので、よく流れが解る。澤柳氏は…

西郷信綱、加藤周一『梁塵秘抄』

西郷信綱『梁塵秘抄』 加藤周一『梁塵秘抄』 平安末期の今様集『梁塵秘抄』は「遊びをせんとや生まれけむ 戯れせんとや生まれけん 遊ぶ子供の声聞けば 我が身さへこそゆるがるれ」で有名である。この二冊は『梁塵秘抄』を論じた書として面白い。今様とは鼓と…

スバィヴィ『ギリシア美術』

ナイジェル・スパィヴィ『ギリシア美術』 ギリシア財政危機の中、国立西洋美術館で「古代ギリシア展」が開かれている。この本は数多くの図版も含み、ギリシア美術を知るためにはいい本である。日本では2000年に出版されている。この本を読み私が感じたこ…

マックス・ウェーバー『職業としての政治』

マックス・ヴェーバー『職業としての政治』 ヴェーバーの政治観はマキアヴェリに似ている。政治は、権力の分け前にあずかり、権力の配分関係にかかわる支配服従関係であり、正当な物理的暴力の独占を持つ国家共同体の基盤の上で行われる。そこには政治と倫理…

モーム『昔も今も』

サマセット・モーム『昔も今も』 モーム晩年の16世紀イタリアを扱った歴史小説である。登場人物がマキアヴェリとチェザレ・ボルジア公だから面白い。この小説は政治的ゲーム小説であり、挫折・失敗をあっかつているが、私は喜劇だと思う。モームらしい物語…

マキアヴェリ『君主論』

マキアヴェリ『君主論』 16世紀ではマキアヴェリは「新しい政治学」だった。アリストテレスのポリスの民主主義による公共的共同体という「古き政治学」に対し、政治を支配者の力による支配服従で外国権力に対峙し、平和と安全な国家を築こうとした。そのた…

吉田喜重『小津安二郎の反映画』

吉田喜重『小津安二郎の反映画』 映画監督小津安二郎の御影石の墓に「無」と刻まれているのは、「無常」でなく「無秩序」だと吉田喜重監督はいう。小津映画は無秩序と秩序のあわいをはかなく浮遊しながら、限りなく意味の開かれた曖昧さを、反復とそのずれで…

ロラン・バルト『明るい部屋』

ロラン・バルト『明るい部屋』 「写真についての覚書」という副題がついているバルトの写真論である。と同時に亡き母の少女時代における写真の発見に到るバルトの「失われた時を求めて」でもある。写真という映像の特徴は「それは=かつて=あった」という指…

兵藤裕己『王権と物語』

兵藤裕己『王権と物語』 この本の冒頭「物は霊であること、存在は物=霊であることで存在たりえたのが、私たちの古代世界である」と書き出している。物語が物=霊を憑依した漂泊芸能民による穢れを祓い、浄化する語りが、王権に取り込まれ、文字化しテクスト…

森山大造『昼の学校 夜の学校』

森山大道『昼の学校 夜の学校+』 路上生活四十年といい、街頭のスナップショットを撮り続ける写真家・森山大道氏の若者への講義録である。民俗学者・宮本常一は日本中をつぶさに見て書いて、凄くいい記録写真を膨大量残していて、とても足元に及ばないと森…

ボルヘス『永遠の歴史』『続審問』

J・Lボルヘス『永遠の歴史』 J・Lボルヘス『続審問』 二冊ともボルヘスの哲学的エッセイである。読み応えがある。ボルヘスはプラトンの原型「イデア」の信奉者なのだろうか。ボルヘスはイギリスのバークリーやヒュームのような「観念論者」なのだろうか…