2013-01-01から1年間の記事一覧

ブロッカー『気候変動はなぜ起こるのか』

ブロッカー『気候変動はなぜ起こるのか』 ブロッカー氏は、コロンビア大学の地質学者で「グレート・オーシャン・コンベヤー」(海洋大循環と訳されている)の提唱者である。二酸化炭素の排出による地球温暖化が問題になるとともに、古気候の研究が、大気と海…

クルーグマン『そして日本経済が世界の希望になる』

ポール・クルーグマン『そして日本経済が世界の希望になる』2013年は「アベノミクス」による黒田日銀総裁の異次元金融緩和の成長戦略が実施され、円安、株高が出現した。2%のインフレ達成も公言された。だが、この結果がどうなるかは、14年以降の問…

若桑みどり『イメージを読む』

若桑みどり『イメージを読む』 20年前に出た本だが、ルネスサンス期の絵画を「イメージ」から読もうとした名著である。若桑は非言語的表現を「イメージ」として読み込もうとしている。4人の芸術家ミケランジェロ、ダ・ビンチ、デューラー、ジョルジョーネ…

『堤中納言物語』

王朝物語を読む(その三) 『堤中納言物語』 『源氏物語』という王朝物語の大作が出た後の11世紀から12世紀に書かれたポスト源氏の物語だから、アンチ王朝物語の色が濃い。長編でなく、オムニバス的な短編を10編連ねている。「デカメロン」や「カンタ…

近藤和彦『イギリス史10講』

近藤和彦『イギリス史10講』 紀元前2300年のストーンヘンジの時代から、20世紀末のサッチャーとブレア首相の時代までのイギリス史の壮大な通史である。近年の研究成果も十分に取り込まれており、これまでの既成概念も揺さぶられる。近藤氏は、イギリ…

セルズニック『ユゴーの不思議な発明』

セルズニック『ユゴーの不思議な発明』 ファンダジーの傑作だ。それも物語の文章が数ページ続くと、300枚にのぼるセルズニックの精密なイラストが鏤められ、無声映画のようであり奇妙な感動がある。メディア・ミックスだが、絵本性を持っているから、芸術…

ショー『ピグマリオン』

バーナード・ショー『ピグマリオン』 ヘップバーン主演の「マイ・フェア・レディ」の方が有名だが、その原作で20世紀的言語論が主題である。ロンドン下流階層の花売り娘を、音声学のヒギンズ教授が猛特訓して、上流社会のお嬢さんに言語使用で変え、衣装や…

『伊勢物語』

『王朝物語を読む』(その二) 『伊勢物語』 伊勢物語は、政治的敗北者の「性的反乱」の物語であり、政治的権力獲得者(藤原氏)に対する「みやび」という文化権力形成の物語でもある。私は平安朝の「色好み」を単にプレイボーイとは思わない。藤原摂関家が…

高野潤『驚きのアマゾン』

高野潤『驚きのアマゾン』 30年間もアマゾン上流(ペルー,コロンビア、エクアドルなど)に通い、キャンプや川下りをした体験をもつ写真家・高野氏の、貴重なアマゾンの川、森、土、生物の自然風土の記録である。いまや急速に開発で文明化しつつあるが、こ…

『竹取物語』

王朝物語を読む(その一) 『竹取物語』 加藤周一は、この物語について九世紀作だが、十分な叙述、緊密な合理的な構成は、平安朝物語のみならず、日本の小説のなかで全く群を抜き、ほとんど日本土着の精神とは異質と指摘している。(『日本文学史序説』平凡…

湯浅学『ボブ・ディラン』

湯浅学『ボブ・ディラン』 ボブ・ディランは70歳を超えたが、毎年100ステージで歌っているという。ローリング・ストーンズに匹敵する超人だ。湯浅氏の本はそのディランの少年時代から現在までの人生の軌跡を丁寧にたどった好著である。「ボブ・ディラン…

カフカ『城』

カフカ『城』 私はカフカの小説『城』を読むと、原爆症や水俣病の認定をめぐる環境省や自治体の熊本県などの官僚組織が、患者から見ると「城」に見えるのだと思う。20世紀の国家の巨大な官僚組織、党組織、大企業組織の抽象的で、近くて遠くなかなか近づけ…

ウンベルト・エーコ『永遠のファシズム』

ウンベルト・エーコ『永遠のファシズム』 ベストセラー『薔薇の名前』の著者で現代イタリアの代表的知識人エーコの政治・社会論集である。10代のとき、ムソッリーニのファシズム時代と、その後のファシストとナチ親衛隊とパルチザンの銃撃戦を見たエーコが…

『臨済録』

『臨済録』 禅仏教という。だが禅とは果たして仏教なのだろうか。『臨済録』を読むと、経典の原理主義でもないし、神秘主義でもない。私は極限まで至った「無神論」的自然宗教だと思ってしまう。言語で書かれた聖典解釈の論理主義はない。直観重視の生活体験…

「特定秘密保護法」を読む

「特定秘密保護法」を読む 大腸がん手術で2週間病院に入院し、今日退院してきたら「特定秘密保護法」案で与党が,参院委員会で強行採決したのを知った。また入院したくなった。 わたしは大正時代の大正デモクラシー(インペリアル・デモクラシー)による政党…

『中勘助詩集』(谷川俊太郎編)

『中勘助詩集』(谷川俊太郎編) 子どもの世界を子どもの眼で描いた名作『銀の匙』の中勘助は、若い時から詩歌に親しんだと和辻哲郎は言う。(岩波文庫『銀の匙』 解説)中勘助の散文は、日本語が磨きに磨かれ精密で円やかである。私が好きな短文は『母の死…

松沢裕作『町村合併から生まれた日本近代』

松沢裕作『町村合併から生まれた日本近代』 平成11年に「平成の大合併」といわれる町村合併が行われた。全国3232を数えた町村はいまや1727に減少した。明治維新以来「三大合併」といわれ、明治7年7万280あった町村が明治22年の「明治の大合…

ディクソン『科学と宗教』

トマス・ディクソン『科学と宗教』 科学と宗教との関わりは西洋史では一つの課題だった。17世紀のガリレオ裁判から20世紀アメリカのダーウィン進化論裁判まで、その対立・闘争の局面が強調されてきた。ディクソン氏によれば、1960年代以後「科学と宗…

西島建男『逆転の読書』

西島建男『逆転の読書』 自己宣伝になって恐縮ですが、このブログ「西島建男の読書日記」で書いたコラムを340編を選んで本にしたものです。横断的読書で「世界を読む」「歴史を読む」「芸術を読む」「科学を読む」「「社会を読む」「文学・思想を読む」の…

鈴木恵美『エジプト革命』

鈴木恵美『エジプト革命』 鈴木氏のこの本を読んでいて、私は1917年のロシア10月革命の現場の臨場感を深い洞察力で描いたジョン・リードのドキュメント『世界をゆるがした10間』(岩波文庫)を連想した。2011年エジプトのタハリール広場でムバー…

『窪田空穂歌集』

『窪田空穂歌集』 明治・大正・昭和と90歳近い生涯を生き、2千首近い短歌を作った窪田空穂は、斎藤茂吉や北原白秋のような歌人とは違い、流派もなく庶民としての「心的記録」を短歌で綴った。だが、私は窪田の「挽歌」に凄さを感じる。さらに、短歌だけで…

濱田恂子『入門近代日本思想史』

濱田恂子『入門 近代日本思想史』 入門となっているように、明治の福沢諭吉から、大正の西田幾多郎を経て、平成の鷲田清一まで50人ほどの思想の流れを記述したもので、教科書的に思えるかもしれないが、思索は深い。濱田氏の現代における「痩せ細る哲学」…

「中央公論」12月号『壊死する地方都市』

「中央公論」12月号『壊死する地方都市』 衝撃的な特集である。増田寛也氏と人口減少問題研究会の「2040年、地方消滅。『極点社会』が到来する」を読むと、地方が消滅する時代が来るというのだ。人口減少の大波が先ず地方の小規模自治体を襲い、その後…

ロマン・ロラン『ミケランジェロの生涯』

ミケランジェロを読む② ロマン・ロラン『ミケランジェロの生涯』 ロマン・ロランはミケランジェロを「悲劇の物語」として描いている。悩める人に悩みの友達を与えようと思いながら、さらに悩みを加えたかと気にしている。貧困、病気、不遜、人間の悪意、孤独…

木下長宏『ミケランジェロ』

ミケランジェロを読む① 木下長宏『ミケランジェロ』 木下氏はミケランジェロを「混沌(カオス)を生きようとした芸術家」という視点で描く。レオナルド・ダ・ビンチを「コスモス」的な理性と、秩序と科学的観察の人とし、ミケランジェロのカオス的考えと比較…

大江健三郎『晩年様式集』

大江健三郎『晩年様式集』 この大江氏の小説の最後に「形見の歌」があり、感動させられた。70歳のとき初孫をみて「この子の生きてゆく歳月は、その苛酷さにおいて 私の七十年を超えるだろう」で始まり、「否定性の確立とは、なまなかの希望に対してはもと…

北村亘『政令指定都市』

北村亘『政令指定都市』 2013年10月に政令指定都市・川崎市長選で、自公民相乗りの官僚候補を市民派の福田紀彦氏が破り当選した。その前にやはり政令指定都市・堺市で「大阪都構想」に反対する市長が維新の会の候補を破っている。私が住む横浜市では民…

合田正人『吉本隆明と柄谷行人』

合田正人『吉本隆明と柄谷行人』 現代思想を吉本氏と柄谷氏とを対比しながら、第三項として鶴見俊輔氏を入れて「いかに共同幻想論と交通空間論の対立と相補性を解体するかという意図」で合田氏が書きあげた力作だと思う。初期の吉本思想に柄谷思想は良き理解…

アリス・マンロー『イラクサ』

アリス・マンロー『イラクサ』 2013年ノーベル文学賞受賞のカナダの女性作家マンロー氏の短編小説集を読む。マンロー氏は短編小説しか書かないというが、短編一篇に一人の人間の人生が凝縮されていて、長編小説を読んだような気にさせる。チエホフに匹敵…

大野和基インタビュー編『知の最先端』

大野和基インタビュー編『知の最先端』 吉成真由美著『知の逆転』もそうだが、世界の知識人のインタビューは取材の準備など苦労が多く大変な仕事だと思う。この大野氏のインタビューもいま世界の先端にいる知識人へのインタビューで面白く読んだ。コロンビア…