2012-02-01から1ヶ月間の記事一覧

小野健吉『日本庭園』

小野健吉『日本庭園』 和辻哲郎は『風土』のなかで「日本の庭園において自然の美の醇化・理想化を見出す」と日本芸術の風土的性格の第一として、庭園を挙げている。加藤周一は『日本の庭』で西芳寺の庭の苔という素材そのものの美しさ、修学院離宮の樹木とい…

佐藤百合『経済大国インドネシア』

佐藤百合『経済大国インドネシア』 21世紀に入ってからのインドネシアでの民主主義革命と、BRIC(中国、インド、ロシア、ブラジル)に次ぐもう一つの「I」としてインドネシアが新興経済大国を歩む「安定と成長」の現在を、総合的視点で描いた本である…

柄谷行人『日本近代文学の起源』

柄谷行人『日本近代文学の起源』 この本が書かれた1970年代は日本の「近代文学」が変容を迎えようとしていた。近代批判もさかんに行われていた。文学の持つていたドロドロした「内面性の意味」が解体され、柄谷氏がいう「ジャンルの消滅」が起こり、私小…

中村光夫『風俗小説論』

中村光夫『風俗小説論』 日本近代文学における特徴である日本的近代リアリズム=私小説の発生、展開、変質を論じた文芸批評の古典である。中村の私小説批判は明解であり、それは小説だけでなく日本の近代批判にまでなっている。だが1950年の本だからフラ…

荒俣宏『プロレタリア文学はものすごい』

荒俣宏『プロレタリア文学はものすごい』 かつて小林多喜二『蟹工船』を読んだとき「劇画的」だと思った。荒俣氏はいまや忘れられた文学である大正から昭和にかけ左翼・労働運動と連動したプロレタリア文学を残酷なホラー小説や、官能的なエロ小説や、ミステ…

芥川龍之介句集』

『芥川竜之介俳句集』 芥川は詩人である。短編小説は散文詩のようだ。だが芥川は近代詩に向かわず江戸・元禄期の芭蕉の発句にその詩を注ぎ込んだ。この俳句集は明治34年から自殺する昭和2年にかけての1158句の俳句が収められていて、読むのが楽しい。…

ヒルスブルンナー『ドビュシーとその時代』

テオ・ヒルスブルンナー『ドビュシーとその時代』 フランスの19世紀末から20世紀にかけての芸術文化のなかで、作曲家ドビュシーを描いた本である。伝記でなく時代状況のなかでドビュシーを捉えようとしている。ドイツの作曲家ワグナーの影響に対しフラン…

野嶋剛『ふたつの故宮博物院』

野嶋剛『ふたつの故宮博物院』新聞記者が足で書いた中国における二つの故宮博物館の歴史と現状であるが、政治と戦争で北京と台北に引き裂かれた数奇な物語として面白く読める。孫文の辛亥革命で中華民国の成立と共に、中国の伝統的書画、陶磁器、図書などを…

宇野常寛・濱野智史『希望論』

宇野常寛・濱野智史『希望論』 30代の評論家宇野氏と情報社会論の濱野氏による日本の希望に関しての徹底討論である。サブカルチュアーとインターネットに大いなる希望をみる二人の討論は、2010年代の文化と社会論としても面白かった。ただあまりにもガ…

三谷隆正『幸福論』

幸福論を読む(その③) 三谷隆正『幸福論』 敗戦の前年1944年遺著として出された。三谷氏は内村鑑三の門下の無教会キリスト者である。その骨子は「動的幸福」論である。苦難の人生のなかで、戦いながら自らを新しい新生の命に創造していくことが幸福だい…

ラッセル『幸福論』

幸福論を読む(その②) ラッセル『幸福論』 ラッセルは不幸にさせる原因を「自我の牢獄」に閉じ込められ、自分の内に引き篭ることにあると見る。あまりにも強い自己没頭や自己否定は不幸のもとである。「自己中心的な情念を避けるとともに、絶えずわがことば…