2013-05-01から1ヶ月間の記事一覧

塩野七生『ローマ世界の終焉』

塩野七生『ローマ世界の終焉』(「ローマ人の物語15巻目」) 塩野氏の「ローマ人の物語」は、ローマ帝国の誕生から死までの長大な歴史物語である。それを最後の巻から読むのは邪道あろう。だが私はその衰亡史に興味があるので、最終巻から読み始めた。この…

樋口陽一『いま憲法改正をどう考えるのか』

樋口陽一『いま憲法改正をどう考えるか』 安倍政権は憲法改正を打ち出している。憲法学者の樋口氏が、その憲法観・歴史観を読み解こうとする。西欧近代の個人の人権重視と、国家権力によるその自由への侵害への制限を核とした立憲主義の視点は、樋口氏の著書…

サルトル『自由への道』(その1)

サルトル『自由への道』(その1) 「分別ざかり」 第二次世界大戦の寸前の1938年6月の3日間のパリで、34歳の自由を信条とする高校哲学教師マチウを囲む複数の人々の内的モノローグで構成された小説である。様々な自由が「分別ざかり」の人々を彩る…

南川高志『新・ローマ帝国衰亡史』

南川高志『新・ローマ帝国衰亡史』 ギボンの『ローマ帝国衰亡史』では、キリスト教と民族大移動が滅亡原因としてあげられ、ギボンは2世紀の両アントニウス帝の息子コンモドゥスから衰亡が始まるとした。南川氏は4世紀のコンスタンティヌス大帝から衰退の影…

寺尾隆吉『魔術的リアリズム』

寺尾隆吉『魔術的リアリズム』 20世紀のラテンアメリカ小説を、その技法である魔術的リアリズムで論じた本である。寺尾氏は、20世紀初めにアストゥリアスやカルペンティエールを出発点に、ルルフォを経由してガルシア・マルケス、ドノソにより完成した魔…

グッドウィン『リンカーン』(その3)

南北戦争は約60万人の戦死者を出している。第二次世界大戦では米兵死者30万人だから、いかに悲惨な内戦だったかがわかる。グットウィン氏の伝記を読むと、リンカーンが無能な将軍を激励するために、死の危険がある前線にたびたび訪れて兵士の歓迎をうけ…

平野克己『経済大陸アフリカ』

平野克己『経済大陸アフリカ』 6月1日横浜で第五回アフリカ開発会議(TICADV)が開かれる。平野氏の本はアフリカ経済論を、グローバルな視点から描いていて参考になる。いまやアフリカは、貧困削減の支援を受ける大陸から、各国各企業が競合して経済展開す…

三木成夫『内蔵とこころ』

三木成夫『内臓とこころ』 三木氏は「個体発生は宗族(系統)発生を繰り返す」という事実を、胎児の世界のなかに見た。胎内にみる4億年前の世界で、受胎1ヵ月で、小豆大からソラマメ大に成長するが、顔面の首筋に刻み込まれたエラの魚類を思わせるものが、…

グッドウィン『リンカーン』(その2)

グッドウィン『リンカーン』(その2) この伝記を読んでいると、トルストイの『戦争と平和』を連想してしまう。とくに南北戦争が始まってから、首都ワシントンでの人々の生き方や、戦場における戦闘や司令官の在り方など、グッドウィン氏は多量の書簡類など…

上野川修一『腸の不思議』

上野川修一『腸の不思議』 腎臓は脳に似て、いると思うが、さらに腸は「第二の脳」ともいわれる。(D・ガーション『セカンドブレイン』)上野川氏の本を読むと、腸は食物の吸収・消化の器官だけでなく、人体最大の免疫器官であり、脊髄と並ぶ一億個の神経細…

グッドウィン『リンカーン』

グッドウィン『リンカーン』(その1) 大著である。普通の伝記のようにリンカーンの出生からの生い立ちで始まるのではなく、1860年共和党大統領指名選で争った4人のことから書き出しているのが新鮮である。シワード、チェース、ベーツ、リンカーンの4…

坂井建雄『腎臓のはなし』

坂井建雄『腎臓のはなし』人間の生命は、自己組織化による内部環境の恒常性(ホメオスタシス)が必要である。腎臓はわずか130グラムのソラマメ状の臓器だが、寡黙だけれど細胞外液の量と成分を調節して内部環境を一定に保つ。坂井氏は尿がいかに血液から…

太田博太郎『日本の建築』

太田博太郎『日本の建築』 日本建築の歴史から文化を論じている。古代の古墳時代の建築については、貴族階級の高床建築からくる板敷きの切妻造と、竪穴住居からくる土間の庶民住宅の寄棟造りの二系統からなると太田氏はいう。古代に中国からイスが伝わったが…