2010-09-01から1ヶ月間の記事一覧

エスリン『演劇の解剖』

マーティン・エスリン『演劇の解剖』イギリスの演劇評論家でスタンフォード大学教授だったエスリンの演劇概論である。少々教科書的だが万遍なく、目配りが利き演劇とは何かがよくわかる。エスリンは演劇の直接性と具体性、つまり目の前で起きていることを無…

磯崎新『ル・コルビュジエとはだれか』八束はじめ『ル・コルビュジエ』

磯崎新『ル・コルビュジエとはだれか』 八束はじめ『ル・コルビュジエ』ポストモダンがいわれた時、建築界からモダニズム批判が始まったと言われた。確かに近代建築がテクノロジー(コンクリート・鉄・ガラス)とその生産様式によって成立した以上当然だろう…

波多野精一『基督教の起源』

波多野精一『基督教の起源』 加藤隆『歴史の中の『新約聖書』』波多野精一の本は、1908年刊行であり、思想史家の原始キリスト教に関する名著である。加藤氏の本は、2010年刊で、神学者による最新の新約聖書成立の研究である。どちらもユダヤ教とキリ…

川村二郎『内田百間論』

川村二郎『内田百輭論』 内田百輭の全体像を評論するのは難しい。川村氏は見事に全体像を評論している。小説、エッセイ、日記、紀行文(『阿呆列車』)まで論じている。副題に「無意味の涙」とある。 それは百輭の「言葉のない音楽を聴いて出る涙は一番本物…

東浩紀編『日本的想像力の未来』

東浩紀編『日本的想像力の未来』 マンガ、アニメ、ゲームや映画、絵画、コスプレなどの日本のポップカルチャーは「グローバル化」しているという。経済産業省もソフトコンテンツの海外輸出として力を入れ始めた。この「クール・ジャパン現象」について海外の…

三浦国雄『朱子伝』

三浦國雄『朱子伝』 12世紀中国・南宋時代の思想家である朱子の伝記である。朱子学の創設者であり江戸時代の日本の思想に大きな影響を与えた。朝鮮にも伝わり東アジアの体系的思想の一翼を荷なった。アジアの近代は朱子学批判から始まった。儒者の伝記は退…

カルヴィーノを読む

イタロ・カルヴィーノを読む 『くもの巣の道』 イタリア戦後文学者カルヴィーンノが1947年に出版したナチにたいして武装抵抗するパルチザン部隊を描いた作品である。イタリアも日本と同じように占領、冷戦、経済成長、高度消費社会、IT社会と発展し、…

吉田秀和『セザンヌ物語』

吉田秀和『セザンヌ物語』セザンヌの絵画と対話しながら芸術とは何かを探究した名著である。精神的品位をもつセザンヌの絵を精密に見ていくと、至るところで説明がつかない不思議な点があり、それが吉田さんを不安にして解明しようとする。何故セザンヌの絵…

マキューアン『アムステルダム』

イアン・マキューアン『アムステルダム』イギリスの現代小説でブッカー賞をもらった『アムステルダム』は、イギリスの政治家、作曲家、マスコミ編集長の三人を中心にして現代社会のモラル崩壊を扱っている。背景にはオランダで成立した安楽死法があり、最後…

ジマー『ナショナリズム』森嶋通夫『なぜ日本は没落するのか』

オリヴァー・ジマー『ナショナリズム』(1890−1940) ナショナリズムとは何かについては様々な考え方がある。この本はヨーロッパ史入門シリーズの一冊だから歴史的視点で書かれている。歴史的に見ればナショナリズムは18世紀末(フランス革命など…

マルケス『予告された殺人の記録』

ガルシア・マルケス『予告された殺人の記録』 マルケスの小説の傑作だ。マルケスの小説には、閉ざされた共同体と孤独な個人そして崩壊していく終末観がある。この小説にはそれらが総て含まれている。構成も凝縮されていて、ミステリーのように謎が解明されて…

井筒俊彦『イスラーム文化』

井筒俊彦『イスラーム文化』 イスラーム文化を宗教、法と倫理、内面への道の三つの文化的枠組みで捉えようとしている。宗教的思想が中心だから、文学や芸術はほとんど取上げていない。生活の根底には宗教があると井筒は見るから当然かもしれない。「コーラン…

四方田犬彦『七人の侍と』現代黒澤明再考』

四方田犬彦『「七人の侍」と現代―黒澤明再考』2010年は映画監督黒澤明の生誕100年という。この本はそれを狙ったかもしれないが、目配りも良く充実している。キューバ、コソヴォ、パレスチナでの「七人の侍」の評価や1954年に作られたこの映画が、…