2014-01-01から1年間の記事一覧

青木理『抵抗の拠点から』

青木理『抵抗の拠点から』 2014年言論界・メディア界の出来事では、「朝日新聞」の「慰安婦報道」の検証・取り消し紙面による過剰な朝日バッシングを、引き起こしたことがあげられる。フリー・ジャーナリスト青木氏は、この本で「朝日問題」の核心を、当…

水島宏明『内側から見たテレビ』

水島宏明『内側から見たテレビ』 水島氏は、札幌テレビや日本テレビで、ドキュメンタリー制作に携わっただけあって、いまテレビが抱えている問題を内側から的確に指摘している。劣化するテレビマンや番組を鋭く批判するが、ドキュメンタリーなど調査報道は時…

門奈直樹『ジャーナリズムは再生できるのか』

門奈直樹『ジャーナリズムは再生できるか』 1980年のサッチャー政権以来、英国のジャーナリズムは危機を迎えている。メディア王マードックによる「タイムズ」買収、大衆紙のタブロイド・ジャーナリズムの暴露的プライバシー侵害、ゆらぐ公共放送BBC、…

荻上チキ『ディズニープリンセスと幸せの法則』

荻上チキ『ディズニープリンセスと幸せの法則』 2014年公開されたディズニーアニメ「アナと雪の女王」は、日本でも254億円を超える大ヒットになった。「Let It Go」は、皆で歌っていた。 荻上氏は、ディズニープリンセスたちの物語の系譜を追…

ヌーデルマン『ピアノを弾く哲学者』

ヌーデルマン『ピアノを弾く哲学者』 面白い本である。サルトル、ニーチェ、ロラン・バルトという三人の哲学者がどうピアノを弾いたかを論じながら、3人の哲学との関連や、音楽論まで横断して考察している。 3人とも独自のピアノを弾くアマチュア演奏家だ…

松田浩『NHK』(新版)

松田浩『NHK』(新版) 2014年は、マスメディアの「公共性」と信頼が問われた時代だった。NHKは、経営人事に政府介入が行われた。朝日新聞は、慰安婦の「吉田証言」の虚偽を放置し、過ちの早期・謝罪を主張したコラムを、掲載拒否したのである。 …

ペソア『不穏の書 断章』

フェルナンド・ペソア『不穏の書、断章』 イタリアの作家・タブッキは、ポルトガルのペソアを「詩人にして変装の人」と呼んだ。(『夢のなかの夢』) 「私はなぜ、あらゆる人 あらゆる場ではないのか!」 「詩人はふりをするものだ /そのふりは完璧すぎて/…

ミシェル・レリス『オペラティック』

ミシェル・レリス『オペラティック』 レリスといえば、民族学者で作家であり、「幻のアフリカ」(平凡社)が翻訳されている。レリスが幼少期に両親に連れられてオペラをみてから、一生に渡りオペラ愛好家だったのを、初めて知った。この本は、没後未発表だっ…

ブキャナンら『赤字の民主主義』

ブキャナン/ワグナー『赤字の民主主義』 ノーベル経済学賞受賞のブキャナンの古典的名著で、1979年に翻訳されたが、2013年ブキャナン氏が死去し、今年再翻訳された。70年代先進国でケインズ政策を採ったため、財政赤字が急増したことに対する公共…

jジル・ド・ヴァン『イタリア・オペラ』

ジル・ド・ヴァン『イタリア・オペラ』 夜中寝られないとき、オペラを聴く。想像力で舞台を幻想すると、夢を見るようになる。「魔笛」「蝶々夫人」「トゥーランドット」「オテロ」「ばらの騎士」が、いま繰り返し聴く曲だ。イル・ド・ヴァン氏の本は、160…

宇野常寛、小林よしのりなど『ナショナリズムの現在』

宇野常寛・小林よしのりほか『ナショナリズムの現在』 ネット右翼(ネトウヨ)化し、高揚する排外主義とヘイトスピーチなどの日本のナシュナリズムを、討論・対談した本である。小林氏以外は、1970年代生まれの論客であり、右でも左でもない論の立て方が…

川崎賢子『宝塚というユートピア』

川崎賢子『宝塚というユートピア』 宝塚歌劇団は、2014年に創設100年を迎えた。昭和モダニズムを研究する川崎氏は、モダニズム文化に「伝統」を産み出す力があるという視点で、宝塚歌劇の歴史から、演劇論、ジェンダー論、劇団組織論など広く論じてい…

与那覇潤『中国化する日本』

輿那覇潤『中国化する日本』(増補版) 今年のサントリー学芸賞を受賞した福嶋亮太『復興文化論』は、座標軸に「中国化」を参照して、日本文化史を描いた。2011年に日本近代史を、「中国化」と「江戸時代化」という二項軸で斬り、日本近世・近代史の既存…

ギルマン『現代演劇の形成』

リチャード・ギルマン『現代劇の形成』 20世紀現代劇は、ギリシア悲劇以来の伝統演劇の革新を「反演劇」といっていいような極限まで推し進めた時といってもいい。ギルマンは、ビューヒナーから、イプセン、ストリンドベリ、チェーホフ、ピランデルロ、ブレ…

國井修『三大感染症の克服をめざす』

國井修『三大感染症の克服をめざす』(「医学界新聞」) 『WHOとは何者か』(「朝日新聞「GLOBE」) 2014年には、西アフリカで拡大し先進国にも感染者を出したエボラ出血熱が隆盛を極めた。12月には死者7000人を超える。インフルエンザも…

丸山宗利『昆虫はすごい』

丸山宗利『昆虫はすごい』 昆虫学者の丸山氏が書いた本を読むと、地球は「昆虫の星」と思えてしまう。見つかっただけで100万種、それも一部に過ぎず、その多様性はたしかにすごい。空を飛翔し、地下にもぐり、変態を行い、突然変異と自然選択でいまだ進化…

福嶋亮太『復興文化論』

福嶋亮太『復興文化論』 戦災や自然災害の復興期のエネルギーが、芸術などの文化創造の始まりに成るというのが、福嶋氏の視点である。白村江の敗戦、壬申の乱の7世紀後半、源平合戦、南北朝時代、応仁の乱、日露戦争、第二次世界大戦の災危の後の復興期とい…

ブラッドショー『猫的感覚』

ブラッドショー『猫的感覚』 動物行動学者が書いた猫の感覚や心理を描いた本だ。イヌに関しては、ローレンツ『人イヌにあう』(早川書房)という名著があるが、それに匹敵する。猫の歴史、生態、進化、人間との付き合い方、未来の猫の在り方まで述べられてい…

スーザン・ジョージ『金持が確実に世界を支配する方法』

スーザン・ジョージ『金持が確実に世界を支配する方法』 架空の富裕層の作業部会による架空報告書の形をとり、世界1%の富裕層が、富と権力で世界支配をいかに確実にするかの、必勝戦略を書いている。原題は「民主主義をお払い箱にしろ」である。1976年…

萱野稔人『国家とはなにか』

萱野稔人『国家とはなにか』 国家論は多様にある。近年ではアンダーソンによる「想像の共同体」論が持て囃された。萱野氏の国家論は、「想像の共同体」論とは対極にあり、「暴力かかわる運動」という考え方である。バリバールやフーコー、ドゥルーズ=ガタリ…

ゴーティマ『ジャンプ』

ナディン・ゴーディマ『ジャンプ』 人種差別(アパルトヘイト)と、それへの抵抗がいかに個々人に残酷な生き方を強いたかを、南アフリカの女性作家ゴーディマが描いた短編十一編が収められているこの本でわかる。 この小説集は、1991年に出版されている…

山根一眞『「はやぶさ2」の挑戦』

山根一眞『「はやぶさ2」の大挑戦』 小惑星探査機「はやぶさ」が、小惑星イトカワの微粒子を60億キロの宇宙航海から持ち帰ったのが、2010年だった。2014年11月30日に「はやぶさ2」が、地球から3億キロ離れた小惑星「1999JU3」に再び…

『妻を失う』

『妻を失う』(講談社文芸文庫編) 私は、2012年に妻を癌で亡くした。その喪失感は、巨大な岩に囲まれた物質に圧迫されているようで、死に親近性を強く持つようになり、夜も熟睡出来なくなった。世界が変わってしまった。この離別作品集は、妻に先立たれ…

柴崎文一『アメリカ自然思想の源流』

柴崎文一『アメリカ自然思想の源流』 20世紀アメリカの環境破壊を告発した『沈黙の春』『失われた森』などで、自然環境運動を訴えたレイチェル・カーソンの自然思想の根底には、19世紀からのオーデュボンやソーロー、ミューアというアメリカ自然思想があ…

三浦哲哉『映画とは何か』

三浦哲哉『映画とは何か』 いま映画は「フイルムからデジタルへ」という変革に直面している。観賞も、映画館からテレビ、さらにPCやモバイル機器と多様化し「動画化」ともいわれる。映画は二極化し、娯楽・情報スペクタクル映画と芸術・美学映画に分かれ、…

高木昌史『ヘルダーリンと現代』

高木昌史『ヘルダーリンと現代』 ドイツの詩人・ヘルダーリンは、フランス革命期に多くの詩や戯曲を作り、後半生36年間ネッカル河畔の塔に狂気のため閉じこめられ、19世紀半ばに死んだ。 ヘリダーリン評価は20世紀に入っても高く、高木氏は詩人たちや…

上川龍之進『日本銀行と政治』

上川龍之進『日本銀行と政治』 上川氏は、この本で日銀がいかに政治に屈服していったかの「日銀敗北の歴史」を描いている。二度の金融緩和の資金流入で、株高円安の状況が「日銀相場」といわれる危うい時期に、この本を読むと、デフレとバブルの循環が来そう…

山下博司『古代インドの思想』

山下博司『古代インドの思想』 インド古代思想となっているが、気候変動や風土的自然の側面から古代インド世界の文明と宗教を捉えた面白い本である。中村元の名著『インド人の思惟方法』(春秋社)は、思想に集中しているし、これも名著である辻直四郎『イン…

デイリー『「定常経済」は可能だ!』

ハーマン・デイリー『「定常経済」は可能だ!』 有限の地球において、環境危機、エネルギー資源や水・食料の不足、貧富格差の増大、高齢化社会という状況に来ているのに、相変わらず「経済成長=GDP至上主義」が進んでいる。経済成長しパイが大きくなれば…

『パウル・ツェラン詩文集』

『パウル・ツェラン詩文集』 ツェランの詩「かつて、死に人が群れていたころ/あなたは身をひそませた、わたしのなかに。」(「かつて」) 「あなたがわたしのなかで死に絶えるときーーちぎられる最後の息の結び目のなかに/なおもあなたは/隠れこむ、/一…