2015-10-01から1ヶ月間の記事一覧

チョムスキー『我々はどのような生き物なのか』

チョムスキー『我々はどのような生き物なのか』 アメリカの言語学者でラディカルな政治活動家・チョムスキーが2014年に来日し、上智大学でおこなった講演や対話を纏めたもので、チョムスキーの全体像が浮かび上がってくる。言語学と政治思想の両方をつな…

アレクシエービッチ『チェルノブイリの祈り』

アレクシエービッチ『チェルノブイリの祈り』 20世紀史は、アウシュビッツ以後とチェルノブイリ以後として語られる。ヒロシマ・ナガサキ以後とも。2015年ノーベル文学賞受賞のアレクシエービッチが、原発事故以後10年近くかけ、原発事故被災地で、丹…

山下祐二・橋本麻里『驚くべき日本美術』

山下祐二・橋本麻里『驚くべき日本美術』 20世紀末から、日本美術へのブームが続いている。長谷川等伯展、阿修羅展、鳥獣戯画展は満員だし、さらに伊藤若沖、長沢芦雪はじめ「奇想の系譜」の人気も高い。ポストモダン的な視点で、日本美術を基盤に刷新して…

森田真生『数学する身体』

森田真生『数学する身体』 30歳という若い数学者・森田氏の数学論であり、面白い。数学の歴史を辿りながら、数学する身体から考えていく。さらに、「数学する心」にまで入り込んでいくから、魅力的である。 森田氏は述べている。「数える」という行為から…

保阪正康『昭和史のかたち』

保阪正康『昭和史のかたち』 昭和史の全体像を捉えるのは難題である。戦後歴史学者・唐山茂樹・今井清一・藤原彰『昭和史』(岩波新書)は、唯物史観という二元的図式を基礎にした昭和史の名著があるが、人間が描かれていないなど批判もあった。保阪氏は、昭…

トマ・ピゲティ『新・資本論』

トマ・ピケティ『新・資本論』フランスの経済学者ピケティ氏が、日刊紙リベラシオンに2004年から2014年まで書いた経済時評のうち83本が収められている。サルコジからオランドの政治批判、ギリシア、キプロスなどの経済危機、EUの苦悩、税制、社…

鈴木厚人『ニュートリノでわかる宇宙・素粒子の謎』

鈴木厚人『ニュートリノでわかる宇宙・素粒子の謎』 2002年に小柴正俊氏が「超新星ニュートリノ」を検出し、ノーベル賞に輝いたが、2015年にも再びニュートリノ研究で日本人が物理学賞を受賞した。なぜ日本でニュートリノ研究が盛んなのか。第一は湯…

グッドール『音楽史を変えた五つの発明』

グッドール『音楽史を変えた五つの発明』 グッドール氏は、英国の作曲家で、ミサ曲からミュージカルまで多くの作曲を手がけている。なぜ西欧クラシックが独特な音楽として発明されたかを、アジア、アフリカの民族音楽をも念頭に置きながら分析している。 西…

ミシェル・セール『世界戦争』

ミシェル・セール『世界戦争』 フランスの哲学者・セール氏は1930年生まれだから、世界大戦など戦争を経験している。海軍兵学校から海軍で兵役につき。高等師範学校を卒業した異色の思想家である。だから戦争論や戦争史を期待して読むとまったく見当はず…

姜尚中『悪の力』

姜尚中『悪の力』 姜氏は、現代社会における「悪意に満ちた社会」を考えていく。川崎市中一男子殺害事件、名古屋大女子学生殺人。傷害事件からシステム悪としての企業悪、さらにナチ・ドイツのホロコースト、イスラム国のテロまで「悪」として捉えていく。 …

アレクシエーヴィチ『死に魅入られた人びと』

アレクシエーヴィチ『死に魅入られた人びと』 2015年ノーベル文学賞にきまったアレクシエーヴィチ氏を読む。同氏はベラルーシ大学ジャーナリズム学部を卒業してジャーナリストになった。インタビューを中心にしたドキュメンタリーの手法を使い、質の高い…

寺山修司『戦後詩』

寺山修司『戦後詩』 寺山修司(1935−1983年)が、1965年に戦後詩を省察した名著だが、寺山の詩歌を理解するためにも欠かせない本だ。戦後詩のアンソロジーとしても読める。 活字に頼らず、言葉の標準語化にまきこまれず、いかなる代理人にも頼ら…

ジョン・クレブス『食』

ジョン・クレブス『食』 動物行動学者で、英国食品基準庁の初代長官を務め、狂牛病や口蹄疫などの発生に取り組んだクレブス氏の現代の「食」に関する総括的な本で興味深い。 この本には古代人の雑食性の進化の歴史から、味覚による食物の好き嫌い、「うま味…

ブルガーコフ『巨匠とマルガリータ』

ブルガーコフ『巨匠とマルガリータ』 ウクライナの作家・劇作家ブルガーコフ(1891−1940年)の幻想小説の傑作である。ソ連時代を生きたキエフ大学医学部を出たブルガーコフは、医者で演劇家というチエホフに経歴は似ている。だが、モスクワ芸術座に…

加藤晴久『ブルデユー 闘う知識人』

加藤晴久『ブルデュー 闘う知識人』 20世紀フランスの社会学者・ブルデュー(1930−2002年)の批判的知識人としての生き方や思想を、描いた本である。加藤氏はブルデユーと長い間親交があったためか、単なる紹介ではなく、その人間性に迫っていて興…

『グリンバーク批評選集』

『グリンバーク批評選集』 アメリカの芸術批評家・グリンバーク氏の美術論集である。グリンバーク氏といえば、ポロックなどアメリカ抽象表現主義の画家たちを見つけ、評価したことで知られる。 「モダニズイム」を、芸術様式として古典主義やロマン主義のよ…

ピンチョン『競売ナンバー49の叫び』

トマス・ピンチョン『競売ナンバー49の叫び』 現代アメリカの作家・ピンチョンの小説は、小説の混沌性を特徴としている。「メタフィクション」ともいわれるが、私はその雑多・混沌の裏には、アメリカ社会に対する論理一貫性のある認識があるように思う。 …

小西甚一『日本文藝の詩学』

小西甚一『日本文藝の詩学』 小西氏は国文学者だが、アメリカ・スタンフォード大客員教授など海外で教えた人である。印象批評や本文批判を避け、作品・テクストを精査し、何故その作品が感動させるかを緻密におこなう「分析批評」の立場をとる。 この本では…

ストーン『オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史』(3)

ストーン&カズニック『オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史』(3) 「帝国の緩やかな黄昏」という副題がついているように、3巻では、カーター、クリントン、レーガン、ブッシュ二代、オバマまでの大統領時代が描かれている。冷戦終結、ソ連崩…