2015-01-01から1ヶ月間の記事一覧

池内恵『イスラーム国の衝撃』

池内恵『イスラーム国の衝撃』 池内氏は、イスーム政治思想史で9・11以後のクローバル・ジハードの分散化のメットワーク構造を分析してきた。また、中東の比較政治学で、2011年の「アラブの春」のアラブ諸国の社会変動を研究してきた。その池内氏が、…

木畑洋一『二〇世紀の歴史』

木畑洋一『二〇世紀の歴史』 世界史を、これまでの西欧中心史観から脱却して描こうとする歴史学の動きがある。グローバル・ヒストリーの視点である。木畑氏のこの本は、二〇世紀の世界史を「帝国主義の時代」という視点で通史を描く。1870年からソ連崩壊…

プリーモ・レーヴィ『休戦』

プリーモ・レーヴィ『休戦』 2015年1月27日は、ナチスドイツのアウシュビッツ強制収容所しが、ソ連軍によって解放されてから70年になる。この記念式典が開かれ、独、仏、ポーランド大統領らが出席した。元収容者も高齢のため、最後の出席といわれる…

藤田真一『蕪村』

『与謝蕪村集』 藤田真一『蕪村』 詩人・大岡信氏は、芭蕉を求道者、蕪村は芸術家と言っていた。私は、蕪村は両義性の人だと思う。俳諧と文人画、俗と超俗、江戸(結城や北関東)と京都(丹後、讃岐)、芭蕉と陶淵明や李白など漢詩、俳句と自由詩(俳詩)、…

NHK取材班『福島第一原発事故7つの謎』

NHKスペシャル「メルトダウン」取材班『福島第一原発事故7つの謎』 福島原発事故のような巨大技術事故が起きた時、人間組織はどう対応していくのか。NHK取材班が総力を挙げて、500人の関係者取材、政府事故調、東電吉田調書、東電極秘メモ、テレビ…

吉川浩満『理不尽な進化』

吉川浩満『理不尽な進化』 吉川氏は、進化論を自然科学と人文学・歴史学、説明と理解、決定論と偶発論の「中間」にある理論という。この吉川氏の本こそ、文系と理系を超えた横断的な中間領域を思想化した本だと思う。知的なスリルに満ちている。生物学者ドー…

川端裕人『「研究室」に行ってみた』

川端裕人『「研究室」に行ってみた』 この本で取り上げられている研究者は、文理の壁や枠を突破した自由な研究精神の持ち主である。外国の研究室で学び、フィールドワークや実験など「冒険心」を持つ。川端氏が描いた6人の研究者像は、魅力的である。 前野…

なだいなだ『江戸狂歌』

なだいなだ『江戸狂歌』 精神科医のなだいなだが、江戸狂歌を論じたもので面白い。明治以後の近代文学に笑いの傑作が見当たらないが、18世紀江戸・天明期の狂歌になだいなだは ユーモア・風刺文学を見出す。明治維新は、ブルジョワジーの笑いを押さえつけ…

イーヴリン・ウォー『大転落』

イーヴリン・ウォーの小説を読む① イーヴリン・ウォー『大転落』 吉田健一は、『英国の近代文学』(筑摩書房)で、プルースト『失われた時を求めて』と、ウォーの小説(『ブライヅヘッドふたたび』)を近代文学の典型だとしている。どちらも上流社会を回想に…

ディアク『科学は大災害を予測できるか』

ディアク『科学は大災害を予測できるか』 今日は阪神淡路大震災から20年である。阪神以後の地震予測は、活断層の評価は進んだが、四分の一はデータ不足で、発生確率は不明のままだという。地表にずれが現れない大地震や、地表で確認できる長さが短くても大…

ドーキンス『進化とは何か』

R・ドーキンス『進化とは何か』 個体は遺伝子が自己複製する乗り物に過ぎないという『利己的な遺伝子』を書いた生物学者ドーキンス氏が、ファラデーの『ロウソクの科学』にならい、進化論を少年少女向けに講義したものである。高度な内容をやさしく、200…

頼住光子『正法眼蔵入門』

頼住光子『正法眼蔵入門』 「自己をはこびて万法を修証するを迷とす。万法すすみて自己を修証するはさとるなり」 「花は愛惜にちり、草は棄嫌におふるのみなり」 加藤周一によると、『正法眼蔵』の文章は13世紀日本語散文の傑作だという。(「日本文学史序…

オリヴァー・サックス『音楽嗜好症』

オリヴァー・サックス『音楽嗜好症』サックス氏は脳神経医で、映画にもなった「レナードの朝」の作者でもある。この本では、音楽を脳神経という生理学的視点から見ている。音楽とは何かとともに、人間の脳の不思議さを、脳科学で少しだけ解明しようとしてい…

青山弘之『「アラブの心臓」に何が起きているのか』

青山弘之編『「アラブの心臓」に何が起きているか』 「アラブの心臓」とは、エジプト、シリア、イラク、レバノン、ヨルダン、パレスチナのことである。自由と民主化運動の「アラブの春」以来、この諸国は混沌なドミノ状況にある。青山氏らは、混乱の原因を探…

木村幹『日韓歴史認識とは何か』

木村幹『日韓歴史認識問題とは何か』 木村氏によれば、歴史認識は植民地期の「過去」の問題である以上に、1945年から70年に渡る「現代」の問題だという。木村氏は2001年金大中大統領と小泉首相の合意による「日韓歴史共同研究」に参加したが、両国…

長谷部浩『野田秀樹の演劇』

長谷部浩『野田秀樹の演劇』 1980年代駒場小劇場から出発した野田秀樹の演劇は、身体の速度と、言葉遊びのめくるめく舞台を創造した。だが、92年「夢の遊眠社」を解散し、1年間英国に留学してからの野田演劇は、大きく変貌している。長谷部氏は、94…

『新古今和歌集』

『新古今和歌集』 新古今は2000首の和歌が収められており、全部に目を通すのは大変である。後鳥羽院が、すべてを暗記していたとすれば凄い。(古代口承の稗田阿礼のように、韻律・リズムで謡い記憶したのか)春夏秋冬から神祇・釈教まで20卷の配列も、…

速水健朗『フード左翼とフード右翼』

速水健朗『フード左翼とフード右翼』 面白い本だ。政治意識を「食」の在り方で論じている。速水氏は食のマトリックスを横軸に「地域主義」と「グローバリズム」をとり、縦軸に「健康志向」と安さ・量の重視の「ジャンク志向」を置いて見る。 速水氏によると…

横山智『納豆の起源』

横山智『納豆の起源』 凄い本である。横山氏は地理学者だが、文化人類学の著作としてもいい。15年間に渡り、納豆の起源をもとめて、ラオス、タイ、ミャンマー、インド・ネパールの山村までフィールドワークをしている。納豆を作っている農婦・山民を訪ね歩…