2012-03-01から1ヶ月間の記事一覧

中野美代子『乾隆帝』

中野美代子『乾隆帝』 中国史を読んでいて思うのは、なぜ中国がヨーロッパ史のように複数の国に分割しなかったかという問題に突きあたる。ロ−マ帝国にゲルマン諸族が侵略する民族移動で現在の複数の国々が成立した。中国も何回もモンゴルなど遊牧諸民族が侵…

ソーカル「知の欺瞞」

アラン・ソーカル ジャン・ブリクモン 『「知」の欺瞞―ポストモダン思想における科学の濫用』 この本は、モストモダン思想における自然科学の利用がいかに誤解と過ちに満ちているかが指摘されている。それもラカンやクリステヴァ、ボードリャール、ドゥルー…

オニール『楡の木陰の欲望』

オニール『楡の木陰の欲望』 ウィリアムスの戯曲と同じようにオニールの戯曲も家族の枠のなかでのエゴイズムの葛藤と孤独、それからの解放の夢を描いている。アメリカ文学者・佐伯彰一氏は家族劇という形をとるのは、アメリカという歴史の浅い人工的雑種社会…

ウイリアムズ『ガラスの動物園』

テネシー・ウィリアムズ『ガラスの動物園』 アメリカ20世紀の劇作家ウィリアムズの傑作戯曲だ。家族が外部にたいしては一体化するが、内部では親子相互は孤独であり食い違いをもつため、愛情があるだけに干渉が強くなり、奥深い断絶になるという家族悲劇であ…

高橋敏『国定忠治』

高橋敏『国定忠治』 国定忠治といえば大衆芸能では任侠の親分として赤城山に立て篭もったヒーローとして描かれている。果たして実像はどうなのかを歴史学者・高橋氏が資料や上州の現地を調査して書いた本で面白い。天保の改革から嘉永のペリー黒船来港までの…

ポンティング『緑の世界史』

クライブ・ポンティング『緑の世界史』 環境史からみた世界史で傑作である。過去の歴史といっても、未来の行く末が見えてくる。ギリシャのヘシオドスは人類史を金の時代から銀の時代そして鉄の時代に頽落していくと描いたが、私はポインティングの本を読んで…

松浦玲『新撰組』

松浦玲『新選組』 松浦氏は、新撰組研究において近藤勇が京都から郷里武州多摩の知友に書いた長い手紙を読み込み、新撰組の歴史を再構成しようとした。社会が激変する時代に、新撰組はどう生きたのかがわかり面白い。新撰組の成立は、幕府が公募した幕臣でな…

イ・ビョンフン『韓流時代劇の魅力』

イ・ビョンフン『韓流時代劇の魅力』 日本のテレビでも韓国のドラマが人気である。日本のテレビドラマが低調ということもあるが、やはり韓流ドラマは面白い。韓国人はドラマ好きで製作本数も多いし、週2話ずつ放映する国はないだろう。ドラマの高視聴率も韓…

マクニール『世界史』

ウイリアム・H・マクニール『世界史』 グローバル時代の世界史として書かれている。20世紀半ばにトインビーによって複数の世界文明の遭遇と「挑戦と応戦」による世界史『歴史の研究』が書かれたが、マクニールの世界史は半世紀後に書かれた世界史で、ソ連…

国立歴史民俗博物館『被災地の博物館に聞く』

国立歴史民俗博物館編『被災地の博物館に聞く』 東日本大震災は地域博物館を壊し、歴史・文化財資料も多く津波で被害を被った。岩手県陸前高田市立博物館は壊滅し職員全員が犠牲になり、国・県指定文化財は水没した。昭和後期に地域博物館が多く建設され、自…

成田龍一『近現代日本史と歴史学』

成田龍一『近現代日本史と歴史学』 明治維新から戦後社会まで近現代日本史が、史料の発掘や新歴史解釈による歴史像の変化でいかに書き換えられてきたかを、400冊を超える近現代日本史学の研究書を主に辿った本である。近現代史は、現在の問題意識やイデオ…

ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』

ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』 私はこの本を読んでいて梅棹忠夫の「生態史観」を思い出していた。どちらの著者も生物学者であり、生物地理学の視点が強い。人類史を民族や人種の優劣で見るのではなく、環境・地理・気候・動植物の生態系、人口な…

吉田健一『英国の文学』

吉田健一『英国の文学』 何回も読みたくなる。国民性論は難しいが、この本は文学を通してみた英国論である。いまや文芸批評の古典と言っていいだろう。20世紀以後の「近代文学」は除外されているが、それは別に論じた『英国の近代文学』があるからだ。この…

お山慶太『寺田寅彦』

小山慶太『寺田寅彦』 東日本大震災以後、20世紀始めの文人・物理学者寺田寅彦の本が読まれている。専門の学術論文約260編とそれに匹敵する数のエッセイは、漱石門下だったとはいえ近代日本が産んだ随筆家として輝く。1915年には「地球物理学」を出…