2010-10-01から1ヶ月間の記事一覧

『アメリカの黒人演説集』

『アメリカの黒人演説集』(荒このみ編訳) アメリカの黒人21人の演説が集められている。キング牧師、マルコムX、モリスン、オバマまで含まれている。黒人女性は7人でフェミニズムと黒人差別の二重の重荷からの開放の訴えに迫力がある。1851年ソジャ…

『奇妙な果実 ビリー・ホリデイ自伝』

『奇妙な果実』 ビリー・ホリデイ自伝 壮絶な一生である。20世紀アメリカの黒人歌手ビリー・ホリデイが自ら語った自伝は、黒人の苦難の生き方が赤裸々に描き出されている。ボルチモアの貧乏夫婦のもと生まれた時、ビリーの母は13歳だった。10歳にレイ…

ユクスキュル『生物から見た世界』

ユクスキュル/クリサート『生物から見た世界』生物多様性とは何なのか。それは自然の多様性とつながっている。ユクスキュルは環境と「環世界」を分けて考えている。環世界とは、動植物が環境をその主体性で意味を与え構築した世界ととらえる。環世界は主体な…

川北稔『イギリス近代史講義』

川北稔『イギリス近代史講義』戦後経済史学で大塚久雄の仕事は「近代主義」といわれた。私も若いとき『近代化の人間的基礎』を読んだ。ロビンソン・クルソーに代表されるヨーマンがピューリタンの精神で禁欲に働き合理主義的生活を営み、世界初の工業化の産…

石井宏『反音楽史』

石井宏『反音楽史』 石井氏の視点はなぜ日本の音楽室に3楽聖(バッハ、ベートウベン、ブラームス)の肖像が飾っているのか、から始まる。その上で作曲家中心(譜面重視)でなく演奏家、聴衆も踏めた「音楽の場」という総合性を重視する。またクラシックとジ…

宮本常一『イサベラ・バートの奥地紀行を読む』

宮本常一『イザベラ・バートの「日本奥地紀行」を読む』民俗学者宮本常一は、日本各地を16万キロ歩き民家1千軒に泊まったという大旅行家だった。イザベラ・バードは、イギリスの19世紀女性地理学者で、朝鮮、中国、インドなど世界中を旅行した。明治初…

ハウフ『隊商(キャラバン)』

ハウフ『隊商(キャラバン)』中学生のとき、父の本棚にハウフの『隊商』があった。その題に惹かれ読んだ。いままったく、内容は記憶にない。岩波少年文庫創刊60年記念リクエスト復刊で本屋に並んでいた。懐かしく買って読んだ。砂漠の中カイロに向かう隊…

『井伏鱒二詩集』

『井伏鱒二詩集』 井伏鱒二の詩は笑いがある。それでいて哀愁がある。日常の感性を普通の言葉で描く。が、余裕がある「大人風」であり、品格がある。しかし高踏には脱しない。詩人・茨木のり子は、これほど愉快になった詩集はこれまでなかったと言い、悲愴味…

暮沢剛己『ル・コルビュジエ』

暮沢剛巳『ル・コルビュジエ』 「近代建築を広報した男」と副題がついているように、暮沢氏はメディア建築家としてのコルビュジエの活動に焦点を合わせている。近代建築の5原則、ドミノ・システム、モデュロールなど機能主義の規範や住宅の基準寸法は、メデ…

スクリーチ『春画」中野美代子『中国春画論序説』

T・スクリーチ『春画』 中野美代子『中国春画論序説』春画とは何かを明晰に分析した本である。スクリーチ著の『春画』は18世紀江戸時代の春画を綿密に検討し、浮世絵と春画は一体のものであり、江戸のセックス生活のなかでポルノグラフィーとしてとらえる…

石川九楊『書とはどういう芸術化』

石川九楊『書とはどういう芸術か』 かつて大仏次郎の生原稿(『天皇の世紀』)を見たことがある。自分用の用紙に万年筆で書かれ、楷書風で落ち着きがあり品格のある書体に惚れ惚れした。石川氏はワープロやパソコンの文体は書字的でなく、発声的いやおしゃべ…

 末廣昭『タイ 中進国の模索』 

末廣昭『タイ 中進国の模索』タイは21世紀に入って政治的に不安定になっている。08年の国際空港の占拠、首都バンコックの騒乱、非常事態宣言など日本でも大きく報道された。この本は『タイ 開発と民主主義』の続編としてタイ現代史を描いている。タイの…

ル・クレジオ『メキシコの夢』『悪魔祓い』

ル・クレジオ『メキシコの夢』 ル・クレジオ『悪魔祓い』 09年ノーベル文学賞受賞者フランスの作家ル・クレジオが「わたしはインディオなのである」(『悪魔祓い』)というのを私は驚愕して読んだ。この作家はメキシコに住みそこの大学に滞在し、マヤ族の…

日高敏隆『動物にとっ社会とは何か』

日高敏隆『動物にとって社会とは何か』日高氏が亡くなった。また生物多様性の国際会議も始まった。そこでこの本を読む。動物の「種の社会」の分析で面白い。日高氏によれば動物で同じ種に属するとは「二つの個体が相互に交配可能の場合」をいう。その交配に…

鶴見良行『東南アジアを知る』

鶴見良行『東南アジアを知る』村井吉敬『エビと日本人』(岩波新書)は41刷のロングセラーになっている。この先駆けを作ったのが、東南アジアをめぐる「歩く民間学」といわれた鶴見だった。鶴見は1960年代からベトナム反戦運動に関わっていたが、70…

加藤周一ー日本近代文学者の型』

『加藤周一著作集⑱巻―近代日本文学者の型』 『加藤周一著作集』(全24巻・鷲巣力編)の残されていた⑱巻がとうとう刊行され完結になった。この巻には「鴎外・茂吉・杢太郎」が3分の1の量で含まれており、加藤氏は死の直前まで書き上げたいと思っていた。…

道浦母都子『男流歌人列伝』

道浦母都子『男流歌人列伝』 女流歌人による男性歌人論である。鉄幹、子規、啄木、牧水、茂吉など近代歌人15人が取り上げられている。男性歌人の「相聞歌」を中心に、恋愛や結婚した妻への情念を核に歌人に迫ろうとしている。女性の視点からの男性歌人論で…

坪井善明『ヴェトナム』

坪井善明『ヴェトナム』―「豊かさ」の夜明け私はヴェトナム戦争には大きな影響を受けた。またその後の社会主義国同士の中越戦争も衝撃だった。ヴェトナム現代史を知りたいと思い、この本を読む。ヴェトナム近現代史は戦争の連続だ。19世紀末フランスの侵略…

末廣昭『タイ開発と民主主義』

末廣昭『タイ 開発と民主主義』2010年になってタイは激動している。タクシン元首相派によるバンコックでの大規模集会という政争がある。ASEANは2018年に中国、韓国、日本、インドと自由貿易協定を結び、関税が撤廃される。その利益をみこし、各…

斎藤環『戦闘美少女の精神分析』

斎藤環『戦闘美少女の精神分析』この本は2000年に刊行され、06年に文庫版になり、10年には英訳された。おたく論、アニメ論としてはすでに「古典」である。ラカン派の精神科医が書いたのも面白い。ナウシカやセーラームーン、綾波レイなど無垢な可愛…

佐藤克文『ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ』

佐藤克文『ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ』 副題に「ハイテク海洋動物学への招待」とある。ペンギンやアザラシさらにウミガメの背中に「データロガー」というハイテク機器を取り付け、水生生物の生態や行動を探究するもので、日本は世界でも先端研…