2011-02-01から1ヶ月間の記事一覧

木村栄一『ラテンアメリカ十大小説』

木村栄一『ラテンアメリカ十大小説』20世紀後半はラテンアメリカの小説時代だった。私もその小説世界に魅力を感じ幾つか読んだ。日本の小説にない全体性、重層性、物語性、時空性、猥雑性などに引かれた。木村氏の本はそこから十大小説を選び、作家と小説…

ジムソン『ゴシックの大聖堂』

O・フォン・ジムソン『ゴシックの大聖堂』 フランスに旅行しシャルトル大聖堂を見たとき、西欧中世の文化に驚いた記憶がある。ジムソンの本は12世紀のサン・ドニ修道院とシャルトルの二つを中心に、建築様式は勿論、宗教、哲学から政治、経済にいたる大聖…

小田実『HIROSIMA』

小田実『HIROSHIMA』広島、長崎原爆投下は相互の国家が核で戦う「核戦争」ではないという意見がある。とんでもない。その意見は日米共犯の戦後体制が作り出した虚構だ。日本が核兵器を持たなかったからといって、原因を作り出したのだから「核戦争…

梅棹忠夫『狩猟と遊牧の世界』

梅棹忠夫『狩猟と遊牧の世界』人類史を採集・狩猟、牧畜、農耕、産業の段階にわけ、地球規模で考えた人類学の名著である。梅棹はモンゴルからシベリアのツングース、アフガンや東アフリカ・ダトーガ遊牧民などのフィールドワークを基に、自然社会の進化を辿…

小田実『大地と星輝く天の子』

小田実『大地と星輝く天の子』 この小説は古代ギリシャ・アテネを舞台にソクラテスの裁判と死を核としたものである。だがペロポネソス戦争で敗戦し政争が繰り返されるアテネで生きる雑多な民衆たちの生き様が描かれている。30人も登場人物がおり、市民、奴…

NHK取材班『アフリカ』

NHKスペシャル取材班『アフリカ』ゼロ年代にアフリカに新しい風が吹き始めた。この本はグローバリゼイションと豊富な地下資源、高度成長、貧富の格差、民衆の小規模な地場産業の努力、多民族(部族)共存、虹の国(南アフリカ)の努力、地域共同体への始…

赤坂憲雄『岡本太郎という思想』

赤坂憲雄『岡本太郎という思想』 大阪万博の「太陽の塔」、東京・渋谷駅の「明日の神話」とい岡本太郎の作品は戦後のモニュメントとして、原爆や戦争の死と、生の再生の芸術作品として力強い躍動感を示し今も残されている。その岡本の思想を、民俗学・日本思…

松本仁一『アフリカ・レポート』

松本仁一『アフリカ・レポート』 08年出版のアフリカの現状をジャーナリスト・松本氏が綿密な取材を基に書いている。 この本ではジンバブエ、南アフリカ共和国、ウガンダ、ナイジエリア、ケニアが中心に描かれている。つまり政府幹部が利権を追い求め、国…

宮本正興ら『新書アフリカ史』

宮本正興+松田素二=編『新書アフリカ史』 新書といっても600ページあり研究者16人が執筆し、古代から現代までの歴史を集大成している。「歴史なき大陸」といわれたアフリカが、口承伝承も含め激動の歴史をえてきたことが浮かび上がってくる・この本の…

千葉伸夫『原節子』

千葉伸夫『原節子』 「朝日新聞」beランキング(2011年2月12日)の「あなたが選ぶ昭和の名女優」では、原節子は17位に選ばれている。戦前派は高峰秀子、杉村春子など数少ない。演技と美貌の二点が基準となっている。原を伝説の女優の伝記として描い…

木田元『反哲学史』

木田元『反哲学史』 木田元『反哲学入門』 木田氏によれば、哲学とは「あるとされるものがなんであり、どういうあり方をしているか」を追求する「ある」についての西洋文化圏の特殊な学問である。この2冊は存在論を通してみた西洋哲学史である。プラトン以…

国立歴史民俗博物館編『日本建築は特異なのか』

国立歴史民俗博物館編『日本建築は特異なのか』 いま東アジアという地域が重要な概念になってきている。2009年に国立歴史民俗博物館で企画展示された東アジア(中国、韓国、日本)の建築文化の共通性と特異性を比較展示したカタログで、建築を通して文化…

山田宏一『友よ映画よ』

山田宏一『友よ 映画よ』 「わがヌーベルヴァーク誌」と副題にあるように、195年代末から1984年監督トリュフォーの死までのフランス映画の新しい波の在り方を描いている。山田氏はその中核の機関誌「カイエ・ディユ・シネマ」の渦中にいて、友人とし…

ブラウン『なぜ科学を語ってすれ違うのか』

J・R・ブラウン『なぜ科学を語ってすれ違うのか』科学的知識は客観的で合理的・普遍的なのか。ポストモダン思想は自然科学の考えを相対化しようとする。科学が権威をもつ現代社会で、その客観・普遍・絶対に疑義を挟む思想対立に、カナダの科学哲学者・ブ…

井上章一『法隆寺への精神史』

井上章一『法隆寺への精神史』 法隆寺を巡る言説史である。法隆寺の柱のエンタシス(胴膨らみ)が古代ギリシャ伝来説なのかと、伽藍配置の非左右対称(アシンメトリー)が独創的日本的美学なのかを巡る明治時代から平成までの言説が紹介されていて、思想史を…

袴田茂樹ら『現代ロシアを見る眼』

木村汎・袴田茂樹・山内聡彦『現代ロシアを見る眼』 ソ連崩壊してからロシアのゼロ年代つまりプーチンの10年を描いた本である。筆者たちの結論は「奇妙なハイブリット(混合体)」だという。「政治体制としては家父長的専制、官僚的権威主義、自由民主主義…

作田啓一『ルソー』

作田啓一『ルソー』ルソーは「水晶のような透明な心」を自己理想とした。だがルソーを読むたびにその複雑で変動激しい矛盾に満ちた著作に苦労する。社会学者作田氏のこの本を読むとルソーの一貫した体系的思想家が浮かび上がってきて頭がすっきりした。個人…

蓮実重彦『監督小津安二郎』

蓮實重彦『監督 小津安二郎』世界映画界でも小津作品の評価は高い。蓮實氏は小津的なもとして、否定形で語られるカメラの位置が変わらない、移動撮影がない、俯巌がないとか、俳句的とかもののあわれとか幽玄といった「紋切型」を批判し、過剰な映像の戯れか…

井上章一『つくられた桂離宮神話』

井上章一『つくられた桂離宮神話』 「わたしには桂離宮の良さがよくわからない」という井上氏の日本文化史の視点による桂離宮論である。桂離宮の評価・解釈が時代状況によりいかに変化してきたかを辿り面白い。ここで「桂離宮神話」というのは、1930年代…