2014-09-01から1ヶ月間の記事一覧

カー『ニッポン景観論』

アレックス・カー『ニッポン景観論』 カー氏は、1964年の東京オリンピックの時12歳で、父の転勤で米軍基地に暮らした。70年代前半イェール大学で日本文化を学びながら、徳島県祖谷の古民家にほれ込み、住むようになる。日本の田園風景や京都の町並み…

三浦展『新東京風景論』

三浦展『新東京風景論』 東京オリンピックの高度成長期に、東京には数多くの高速道路が創られた。歴史的建造物の日本橋に高速道路が覆いかぶさった。いままた歴史的建造物の国立競技場を破壊し、神宮の森に巨大な無機質な競技場が建造されようとしている。三…

岩切友里子『国芳』

岩切友里子『国芳』 江戸末期の浮世絵師・国芳の「人をばかにした人だ」(1847年)という戯画は、沢山の人体を集めて顔を描いている。私はこの絵を見て、16世紀のマニエリスムの画家アルチンボルドの動物や野菜で構成された肖像画を連想した。(ホッケ…

朝日新聞特別報道部編『原発利権を追う』

朝日新聞特別報道部編『原発利権を追う』 電力をめぐるカネと権力構造を明らかにしたニュー・ジャーナリズムの傑作である。東京地検も匙を投げた「電官政複合体」の存在を、新聞記者の取材で明らかにした仕事に敬意を表したい。いま歴史の関係者から話を聞き…

バルザック『オノリーヌ』

バルザックを読む(8) バルザック『オノリーヌ』 バルザックの時代19世紀のフランス貴族社会では、結婚は家柄と財産が重視され、男社会であったため、妻の立場は弱かった。バルザックは、女性の立場を擁護し、結婚制度の矛盾を描いた小説が多い。この「…

エーコ×カリエール『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』

エーコ×カリエール『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』 電子書籍時代が始まっている。老愛書家の作家ウンベルト・エーコ氏と脚本家・作家カリエール氏が、ヨーロッパ的知性で紙の書物を縦横無尽に語り合う。優れた対談は、二人の息があっているとと…

福井健策『誰が「知」を独占するのか』

福井健策『誰が「知」を独占するのか』 副題は「デジタルアーカイブ戦争」とある。アーカイブとは,過去の情報資産である著作物、音楽、映像などを収集・公開する図書館である。それをデジタル化により、数千点のコンテンツをデータベースで公開する。「知の…

ドッジ『イラク戦争は民主主義をもたらしたのか』

トビー・ドッジ『イラク戦争は民主主義をもたらしたのか』 アメリカが、「イスラム国」掃討作戦でイラク空爆に踏み切った。シリア領内に空爆拡大もあるという。ドッジ氏は英国・国際戦略研究所に属し、ロンドン・スクール・オブ・エコノミックス教授だが、こ…

高橋哲雄『スコットランド歴史を歩く』

高橋哲雄『スコットランド 歴史を歩く』 スコットランド独立の住民投票が行われ、否決された。高橋氏の本は、英国史において、スコットランドはどういう歴史を辿ったかを、歩いて旅して明らかにしようとする。イギリスのなかで、スコットランドはタータン柄…

紀貫之『土佐日記』

紀貫之『土佐日記』 平安朝のこの日記は、紀行・日記文学として有名である。読んでみて、本当に紀行日記なのか疑問に思った。タブッキ『インド夜想曲』のように、精緻な虚構のうえに、人工的・遊戯的に創作された幻想文学ではないかと思った。紀行に必要な新…

川合康三『杜甫』

川合康三『杜甫』 私は漢詩を読むとき、翻訳の読み下し文を読む前に、五言や七言律詩の漢字の姿を、絵画を見るように凝視する。すると、意味も分からず、読めない難字にもかかわらず、漢字からリズムが聴こえてくるように思えるのだ。例えば杜甫の有名な「春…

タブッキ『供述によるとペレイラは』

アントニオ・タブッキ『供述によるとペレイラは』 1994年のタブッキのこの小説は、これまでの遊戯性の強く、幻想的小説とは異なり、1938年スペイン市民戦争下、ドイツではヒトラーが政権を取った時代のファシスト政権のポルトガルを舞台にした現実社…

パヴェーゼ『短編集』

パヴェーゼ『短編集』 パヴェーゼの短編を読むと、その自然風景は抒情性に富み、散文詩のような描写がある。だが内容は、孤独、憂愁、男女の愛憎、裏切り、死などの情景が漂ってくる。寂しさの感覚が空虚さとともに、にじみ出てくる。 「流刑地」では、イタ…

タブッキ『夢のなかの夢』

タブッキ『夢のなかの夢』 他人の夢を夢見ることが出来るのだろうか。見てみたい。この小説は、タブッキが、自らが好きな芸術家など20人の夢を描いたものである。それも錚々たる人たちで、ラブレー、ゴヤ、ランボー、ロルカ、チェーホフ、ドビュシーなど。…

松山巌『須賀敦子の方へ』

松山巌『須賀敦子の方へ』 私は、須賀敦子といえばギンズブルグやタブッキなどイタリア文学の翻訳数冊と、エッセイ『ユルスナールの靴』(河出文庫)『トリエステの坂道』(新潮文庫)くらいしか読んでいなかった。松山氏は、生前須賀と親しく、また没後全集…

パヴェーゼ『月と篝火』

パヴェーゼ『月と篝火』 20世紀イタリアの小説家パヴェーゼの小説は、「物語詩」のように読める。貧しい北イタリアの丘陵地帯の農村風景が、抒情詩のように描かれている。夏至の夜に収穫の豊作を願い、再生と豊饒のため篝火を焚く。この小説は土着的な祭り…

タブッキ『インド夜想曲』

アントニオ・タブッキ『インド夜想曲』 イタリアの作家・タブッキは、これは不眠の本であるだけでなく、旅の本であるという。出てくる場所のインド・ボンベイ、マドラス、ゴアの地名の一覧まで表示している。巻頭にはモリス・ブランショの夜に熟睡しない人間…

木村敏『臨床哲学講義』

木村敏『臨床哲学講義』 木村氏は精神医学者であり、精神病理学の研究者でもあるが、患者と出会い、患者と対話し、心を病むとは人間にとっての生き方にどういう変化・危機を与えるか追及し、治療する「臨床」に徹し、それを臨床哲学として形成した。 この本…

岡田尊司『愛着障害』

岡田尊司『愛着障害』 岡田氏は、精神科医として長年パーソナリティ障害や発達障害の若者の治療に携わってきた。幼児期からの親や養育者への愛着が、その後の人格形成や対人関係の土台に成ると考え、この本で深く考察している。 幼児期の父母や養父母などと…

坂井孝一『源実朝』

坂井孝一『源実朝』 「山は裂け 海は浅せなむ 世なりとも 君にふた心 わがあらめやも」 鎌倉八幡宮で暗殺された悲劇の源氏三代将軍・実朝は、「金塊和歌集」の歌人として、繊細な貴公子、死を予感した憂愁と孤独の人、後鳥羽院の寵児、また北条氏の操り人形…

平田オリザ『演劇のことば』

平田オリザ『演劇のことば』 2014年は築地小劇場開業90周年で、日本の演劇は、まだまだ若いと平田氏はいう。日本演劇通史だが、なぜ日本の演劇は熱苦しいのかを平田氏の見方で書いている。明治維新以後、美術や音楽に比べ、近代化が遅くそこで歪みが生…

岡田温司『イタリアン・セオリー』

岡田温司『イタリアン・セオリー』 20世紀末は日本では、フランス現代思想が隆盛した。ドゥルーズ、デリダ、フーコー、レヴィ=ストロース、ラカンなど多くが翻訳されている。だが、イタリア現代思想は、マイナーな思想と見られている。だが21世紀にはい…

佐伯和人『世界はなぜ月をめざすのか』

佐伯和人『世界はなぜ月をめざすのか』 佐伯氏の本を読むと、いま月探査ブーム(中国は2013年月着陸に成功)であり、人類の次のフロンティアに成ってきていることが分かる。日本は「はやぶさ」の小惑星探査で沸いたが、2007年の月周回衛星「かぐや」…