2014-05-01から1ヶ月間の記事一覧

森まゆみ編『異議あり!新国立競技場』

森まゆみ編『異議あり!新国立競技場』 オリンピック誘致が、「国策」のように挙国一致で行われてしまった。戦争突入のような勢いに、唖然とする。森氏は「神宮外苑と国立競技場を未来へ手わたす会」共同代表である。市民の立場から立ち退きの可能性がある都…

土屋恵一郎『能、ドラマが立ち現れるとき』

土屋恵一郎『能、ドラマが立ち現われるとき』 能「井筒」から「砧」まで10作品論であるが、土屋氏が見た能上演における名人の演じ方が同時に述べられていて、能ドラマの現場にいるように、作品が生き生きと浮かび上がってくる。 土屋氏は、世阿弥などの能…

赤坂真理『愛と暴力の戦後とその後』

赤坂真理『愛と暴力の戦後とその後』 作家・赤坂氏はいう。「研究者ではない一人のごく普通の日本人が、自国の近現代史を知ろうともがいた一つの記録である」と。東京オリンピックの1964年生まれの赤坂氏が、驚異の戦後復興のオリンピックという象徴は、…

西部忠『貨幣という謎』

西部忠『貨幣という謎』 「貨幣が市場を作る」「観念の自己実現としての貨幣」「貨幣を変えれば市場も変わる」という西部貨幣論が明確になってきた考えさせられる本である。貨幣論といえば、岩井克人氏の名著『貨幣論』(筑摩書房)があるが、西部氏は「予想…

土屋恵一郎『能、世阿弥の「現在」」』

土屋恵一郎『能、世阿弥の「現在」』 能芸論の傑作だろう。世阿弥は能を祭儀的、芸能史的な共同体の文脈から解き放って、都市の不安定な気分のなかで変化する人気を重視した。その上で、身体的・官能的・触感的な「現在」の自由さの芸術にしたと、土屋氏は主…

バルザック『サラジーヌ』

バルザック雑読(4) バルザック『サラジーヌ』 1968年パリ五月革命後に発表されたロラン・バルト『S/Z』(みすず書房)は、「物語の構造分析序説」であり、バルザックの「サラジーヌ」という中編小説を題材にし、バルザック再創造を行っている。主…

ハイト『社会はなぜ左と右にわかれるのか』

ジョナサン・ハイト『社会はなぜ左と右にわかれるのか』 米国の道徳心理学者ハイト氏が、現代アメリカの政治・文化闘争などリベラルと保守の分断状況と対立を、いかに緩和するかを道徳面から分析した本である。アメリカ社会は、保守主義とリベラルが、政治的…

小野俊太郎『ゴジラの精神史』

小野俊太郎『ゴジラの精神史』 怪獣映画「ゴジラ」は1954年公開だから、今年で還暦に成る。いままたハリウッド映画で「GODZILLA」が作られヒットしている。東宝が制作したゴジラ映画は28本になる。なぜゴジラは滅びないのかを、小野氏は精神史…

下村脩『光る生物の話』

下村脩『光る生物の話』 光る生物ほど不思議な生き物はいない。生物の発光は白熱光でなく、熱を出さない冷光だという。動物界では150科550属に発光種が含まれている。90%が海洋中という。だがホタル、ミミズ、キノコなど陸上生物も含まれる。何故光…

バルザック『ツールの司祭 赤い宿屋』

バルザック雑読(3)) バルザック『ツールの司祭 赤い宿屋』 「ツールの司祭」はバルザック中編の傑作だろう。19世紀フランス王政復古時代の地方都市ツールを舞台に、善良だが愚鈍な助祭神父が、権力に野心を持ち、ルサンチマンに燃えて、雌伏していた修…

松竹伸幸『集団的自衛権の深層』

松竹伸幸『集団的自衛権の深層』 安倍首相が集団的自衛権行使を検討すると表明した日、松竹氏のこの本を読む。集団的自衛権は、自明でもなく当然の権利でもないことを、過去の歴史、国連憲章、国際法などを綿密に辿って説明している。なぜ、明文改憲でなく、…

バルザック『知られざる傑作』

バルザック雑読(2) バルザック『知られざる傑作』 バルザックの短編も面白い。激しい情熱とその挫折を描いた短編がいくつかある。「砂漠の情熱」は、エジプト戦線で囚われた兵士が砂漠に脱走し、ナツメヤシある丘の洞窟にかくれ、そこを住みかとしている…

バルザック『ゴブセック 毬打つ猫の店』

バルザック雑読(1) バルザック『ゴブセック 毬打つ猫の店』 この二作は、バルザックの小説「人間喜劇」の始めに置かれた1830年代フランス革命以後の「私生活」を扱ったものである。フランス革命が「公の街路」での劇的闘争であるとすると、王政復古後…

H・クローフォード『ウイルス』

クローフォード『ウイルス』 英国の医学者クローフォードによる「ミクロの賢い寄生体」ウイルスの全体像を描いた本である。人類文明は、天然痘、インフルエンザ、はしか、ノロウイルス、ポリオ、SARS、AiDSなどのウイルス感染症との闘いの歴史であり…

クレマン『レヴィ=ストロース』

カトリーヌ・クレマン『レヴィ=ストロース』 20世紀最大の文化人類学者で構造主義の思想家レヴィ=ストロースを、個人的にも親しいクレマンが、その全体像に肉薄しようとしている本である。『親族の基本構造』『神話論理』を中心に置いている。クレマンは…

大西裕『先進国・韓国の憂鬱』

大西裕『先進国・韓国の憂欝』 アジア通貨危機以後の韓国の金大中、盧武鉉、李明博、朴槿恵の4代の大統領を通じて韓国の政権がなにをしようとしてきたかを追求した力作である。日本も直面している少子高齢化、経済格差、グローバル化が、いかに韓国でも大き…

ワルドバウアー『虫と文明』

ワルドバウアー『虫と文明』 アメリカの昆虫学者が書いた人類文明と昆虫の関わりの本である。人間の暮らしに恩恵を与え、喜びを味わわせてくれる昆虫が取り上げられているから、「害虫」は除外されている。人に好かれる昆虫として、テントウムシはアブラムシ…

榊原悟『日本絵画のあそび』

榊原悟『日本絵画のあそび』 日本美術は、洒落た視覚のマジックに満ちていて眼の極楽に誘うというのが、榊原氏の見方である。まず榊原氏があげるのは「誇張と即興」である。平安朝時代に「をこ絵」があり、パフォーマンス性があった。その即興性は葛飾北斎の…

山口晃『ヘンな日本美術史』

山口晃『ヘンな日本美術史』 西欧絵画の正統である遠近法・透視図法的写実とは違う前近代の日本のヘンな絵画を、巧妙な仕掛け絵画を描いている画家・山口晃氏が拾い上げて論じているから、この本は面白い。日本文化論としても読める。 山口氏は雪舟の絵を論…

『孫子』

『孫子』 「彼を知りて己を知れば、百戦して殆うからず」 「兵とは国の大事なり。死生の地、存亡の道、察せざるべからざるなり」 フランスの思想家ロジェ・カイヨワの『戦争論』(法政大学出版局)を読んでいたら、古代中国の戦争法として、『孫子』を取り上…