2011-05-01から1ヶ月間の記事一覧

サットン『イスラム芸術の幾何学』

ダウド・サットン『イスラム芸術の幾何学』 イスラムの工芸美術のデザインを見ていると、モチーフの反復とリズムによって、音楽を聴いているような恍惚感に陥って行く。不思議な魅力がある。この本はイスラム芸術に使われたデザインを幾何学的な図形として分…

カルヴィーノ『アメリカ講義』

カルヴィーノ『アメリカ講義』 かつてイタリアの作家カルヴィーノの『なぜ古典を読むのか』(須賀敦子訳・みすず書房)を読んだ時、ホメロス、クセノポン、ガリレオ、スタンダール、コンラッド、ヘミングウェイ、ボルヘスなど古典の該博な読みに驚嘆したもの…

岡百合子『朝鮮・韓国の歴史』

岡百合子『朝鮮・韓国の歴史』 長い間、中・高校で社会科の教師をしていて在日朝鮮人の作家と結婚した岡さんが、本物の朝鮮・韓国史を教えようと苦心して研究して書いた。「中・高校生のための」という題が付けられているが、中身は深い。岡氏がいうように、…

小倉紀蔵『韓国は一個の哲学である』

小倉紀藏『韓国は一個の哲学である』 卓抜な韓国論である。書き出だしで韓国とは「道徳志向性国家である」と始まるのでびっくりする。韓国のTVドラマは理屈で固められた感情の激突で、恋人たちは道徳を叫び、言葉の主体間の闘いであり、日本のドラマは感覚…

柄谷行人・中上健次全対話』

『柄谷行人 中上健次全対話』 1968年にまだ無名の批評家と小説家が新人文学賞落選で出会い、中上の1992年の死までその友情は続く。この本はその間4回の対談と韓国に行っていた中上と柄谷の往復の手紙が収録されている。本音をぶつけ合い、日本文学…

アレクサンダー『塔の思想』バルト『エッフェル塔』

マグダ・R・アレクサンダー『塔の思想』 ロラン・バルト『エッフェル塔』 世界一の電波塔「東京スカイツリー」は、634㍍に2011年5月に到達した。「東京タワー」とともに首都に二つの塔が聳え立つ。なぜ塔を作るのかを建築史的な視点で論じたのが『…

ロヨラ『霊操』

イグナチオ・デ・ロヨラ『霊操』 16世紀カトリック教でイエスズ会を創立したロヨラの神秘体験を基に書かれた宗教的思想と修行法である。訳者で解説を書いている門脇佳吉氏が言うように、先に読んだ道元の禅仏教と似通う点が多い。道元では座禅、ロヨラは観…

『正法眼蔵随聞記』

『正法眼蔵随聞記』(古田紹欽訳注) 禅の宗教思想家道元の語録を弟子が筆記したもので13世紀の本である。道元の思想は『正法眼蔵』に書かれているが、随聞記では道元の修行や出家、仏法、倫理が語られている。まず無常観。命は不確定で危険の状態も続く。…

米沢冨美子『人物で語る物理入門』

米沢冨美子『人物で語る物理入門』(上、下巻) 20世紀の科学革命を担った科学者の伝記的スケッチをしながら、電磁気学、相対論、量子力学、物性物理、複雑系まで、数式を使わずやさしい言い回しで書かれていて、私たちの意識変革を迫る本である。人物はマ…

アレック・ロス『20世紀を語る音楽』2

アレックス・ロス『20世紀を語る音楽』(2) 2冊目はヒットラーの音楽観から始まり、2000年までの音楽を語る。冷戦時代の50年代ブーレーズとケージの音楽、バーンスタインとブリテンの音楽、60年代のメシアンとリゲティの作品から「ベートーヴェ…

バタイユ『沈黙の絵画』

ジョルジュ・バタイユ『沈黙の絵画』 この本はマネ論、印象主義、ゴヤ論、レオナルド・ダ・ヴィンチ論が収められている。マネ論が長編であり、あとは、小論文である。バタイユの芸術論にある芸術の否定性・不可能性の情念に基づいた考察である。マネでは、「…

河合隼雄・松岡和子『快読シェイクスピア』

河合隼雄・松岡和子『快読シェイクスピア』 臨床心理学者・河合氏とシェイクスピア全戯曲を翻訳している松岡氏の対談である。心理学から解釈しようという本は、ロジヤーズ=ガードナー『ユングとシェイクスピア』(みすず書房)があったが、それは「オセロー…

アルックス・ロス『20世紀を語る音楽」(1)

アレックス・ロス『20世紀を語る音楽』(Ⅰ)音楽の20世紀史だが、政治・社会のかかわりも書かれ面白い。ロスは調性音楽と非調性音楽を縦軸に、前衛音楽と大衆音楽を横軸にし、ヨーロッパからアメリカ、ロシアの広い地域まで描き、さらに20世紀の特徴で…

松岡正剛『山水思想』

松岡正剛『山水思想』 雪舟や長谷川等伯の山水画を見ていると、湿り気や山の冷気、水の流れ、雪の当たる微妙な痛さ、竹や松が皮膚にさわるような触覚空間を感じる。山水の中に居る皮膚感覚だ。松岡氏の本を読んで等伯の「松林図」の背景には、南宋画の湿潤の…

シェイクスピア『間違い喜劇』

シェイクスピア『間違いの喜劇』『十二夜』にも一卵性双生児がでてきたが、『間違いの喜劇』では、二組の双生児が登場し、周りの人々の取り違えからドタバタの喜劇が起こる設定なのである。シラキューズの商人夫妻が実子の双子と養子の双子と海で難破し、生…

シェイクスピア『十二夜』

シェイクスピア『十二夜』 最初のオーシーノー公爵のセリフ「恋はまことに変幻自在、気まぐれのままにあっという間に千言万化する」と最後の道化の歌「わるさは笑ってすまされた、雨は毎日降るものさ」にこのドラマは尽きる。吉田健一氏は、悪ふざけと凝った…

東アジア出版人会議編『東アジア人文書100』

東アジア出版人会議編『東アジア人文書100』 前近代には東アジア読書共同体が存在し、書物交流が行われていた。日本における仏典や漢詩、朱子学などはその基盤の上に花咲いた。近代になり脱亜入欧で西欧の書物に輸入がさかんになり、戦争・侵略・植民地化…

犬丸治『市川海老蔵』

犬丸治『市川海老蔵』 2010年歌舞伎俳優市川海老蔵が、殴打事件で無期限謹慎になった。犬丸氏のこの本は十一代目海老蔵を通して11代の海老蔵、団十郎の歴史を見ながら現代社会と歌舞伎、現代における芸のあるべき姿を考えたものである。「弁天小僧」「…

宮下徹『ゲルニカ ピカソが描いた不安と予感』

宮下誠『ゲルニカ ピカソが描いた不安と予感』 私はピカソの「ゲルニカ」を見ると叫喚が聞こえ、爆発音が響いてくる。特に左の死児を抱え首を仰向けに曲げている母親の呻きや、その隣にいる馬の瀕死の嘶きや、右の両手を開き落下する女性の金切なり声まで幻…

コーフィールド『太陽系はここまでわかつた』

R・コーフィールド『太陽系はここまでわかった』 この本は、人類の1950年代からの宇宙探査機の歴史と、その観測データによる今わかっている太陽系惑星の状況を述べたものである。2010年に日本の小惑星探査機「はやぶさ」の小惑星イトカワのサンプル…

渡辺保『江戸演劇史(下)

渡辺保『江戸演劇史(下)』 下巻は18世紀半ばから文化文政の19世紀を経て幕末までの演劇史である。明和・天明の歌舞伎全盛時代は四代目団十郎と作者・桜田治助の時代で、治助の世界は奇抜な趣向とパロディ、多層な構造をもつと渡辺氏はいう。ドラマは世…