グッドール『音楽史を変えた五つの発明』

グッドール『音楽史を変えた五つの発明』

グッドール氏は、英国の作曲家で、ミサ曲からミュージカルまで多くの作曲を手がけている。なぜ西欧クラシックが独特な音楽として発明されたかを、アジア、アフリカの民族音楽をも念頭に置きながら分析している。
西欧1000年の音楽史において、五つの発明が転回点になった。「楽譜、オペラ、ピアノ、平均律、蓄音機」だ。グッドール氏の本を読んでいると、西欧音楽が、数学的な合理主義と、機械的技術主義のうえに成り立ってきたかがわかる。
11世紀にグイードが音階の原型を考え出し旋法を理解しやすくし、対位法、和声と数学的対比を明確化し、それを記譜出来るよう楽譜化したことは、西欧合理思想からでている。記譜法の発明は19、20世紀のエジソンによる録音技術の発見により、蓄音機の発明になる。紙から電子技術の録音の発展は、クラシック音楽の伝承性を高めていく。
18世紀のクリストフォリによる音量を調整できる鍵盤楽器の発明こそ、西欧音楽を画期的に変えた大発明である。グッドール氏は、ピアノを蒸気機関の発明に例えている。この「音楽機械」が、モーッアルトからの作曲の基本を形づくって行くというのだ。西欧以外では、素晴らしい多様な楽器があったのに、ピアノが出来なかったのは何故かも分析していて面白い。
    「平均律」の発明こそ、グッドール氏が西欧音楽の独自性というものだ。音の「ピタゴラス・コンマ」の解決のための「人工的な音楽言語」の発明で、自然の音と違う世界を作り出した。15世紀のダンスタブルが偶然の過程で、調性・調律を考え出したことが、バッハ以来の古典音楽の発展につながっていく。
革命を引き起こしたというオペラの発明を、グッドール氏が重視しているのも興味深い。音楽、舞台装置、演劇の三位一体のオペラは、ルネッサンス期イタリアで発明された。そこには恋愛の情念から、政治的なナショナリズムまで盛り込まれ、西欧音楽の目玉になる。
ジャズ、ポピュラー音楽、ロック、ミュージカルなど、さらに中国音楽までの広い視野から、クラシック音楽を再考しているのが面白い。(白水社、松村哲哉訳)