2012-05-01から1ヶ月間の記事一覧

樋口隆一『バッハ探究』

樋口隆一『バッハ探究』 音楽学者のバッハ研究であり、音楽的にかなり難しい分析もあるが、現代のバッハ音楽の核心に迫ろうとしている。樋口氏はバッハの芸術を理解するためには、ルター派プロテスタント教会音楽の伝統と、音楽家家系としてのバッハ一族とし…

小林忠『江戸の絵を読む』

小林忠『江戸の絵を読む』 浮世絵師鈴木春信の『雪中相合傘』は、私が好きな絵だ。小林氏は、春信の絵画世界は主題の見立や図柄の借用など、本歌取りの趣向が幾重にも重ねられており、その謎をとけば多義的・多重的な絵の読みが楽しめるという。この本は江戸…

福岡伸一『動的平衡』

福岡伸一『動的平衡』『動的平衡2』 生物学者福岡氏の生物学的エッセイである。分子生物学の研究者であるが、美術や音楽など芸術にも造詣が深く、その生命観は哲学的でもある。『動的平衡2』では、美は動的平衡に宿るとし、ダ・ビンチの水の「渦巻描」から…

苅部直『政治学』

苅部直『ヒューマニティーズ・政治学』 苅部氏の「政治」の定義は、異なる考えを持つ主体(個人、企業、NPO、政党など)同士が、お互いに異なることを見極めた上で、それでも共に生きようとして交渉と妥協を繰り返し一歩一歩実現していく地味な活動だとい…

松原隆彦『宇宙に外側はあるのか』」

松原隆彦『宇宙に外側はあるのか』 ビックバン以後の現代宇宙論の問題点を描いている。現代宇宙論では確立した宇宙理論と、臆測にすぎない仮説とをわけるのは難しいが、松原氏の本はそこをはっきりさせようとしているのが好感をもてた。観測・実証できない領…

サイモン・シン『宇宙創成』

サイモン・シン『宇宙創成』 日本本州で129年ぶりとなる金環日食の時、この本を読む。シンは宇宙論の歴史を辿り、宇宙の始まりがビッグバンで起こったことが発見・実証されていく過程が書かれているが、同時に科学的精神とは何かがわかる。カール・セーガ…

岡倉天心『茶の本』」

岡倉天心『茶の本』・『東洋の理想』 東日本大震災の津波で流失した明治美術指導者だった岡倉天心の茨城県五浦海岸の六角堂が再建された。東京のデパートでは再建記念の「五浦と岡倉天心の遺産展」も開かれた。天心の著作を読むと、明治時代に西欧文明への懐…

石牟礼道子『苦海浄土』

石牟礼道子『苦海浄土』 水俣病の公式確認から56年慰霊式が5月1日に行われた、水俣病被害者救済法による救済策申請が7月に締め切られる。政治決着という幕引きは再三行われようとしてきたが、司法では福岡高裁は、感覚障害があったのに認定しなかった女…

和田春樹『北朝鮮現代史』

和田春樹『北朝鮮現代史』 1948年建国した朝鮮民主主義人民共和国の金日成から金正日の死までの歴史を辿り、北朝鮮とはどういう国家かを和田氏は丁寧に北朝鮮の内部資料、中国やソ連の史料を基に 解明しようとしている。労作である。国家モデルとしては…