2014-02-01から1ヶ月間の記事一覧

エリオット『荒地』『キャッツ』

T・S・エリオット『荒地』『キヤッツ』 エリオットの詩集『荒地』は戦後日本現代詩に大きな影響を与えた。第一次世界大戦後の1922年に出版された。戦争の荒廃とヨーロッパ文明の衰弱がこの詩に色濃く出ている。エリオットは、その精神風景を、聖杯伝説…

林達夫『林達夫評論集』

林達夫『林達夫評論集』 林達夫(1896−1984年)といえば。「ファーブル昆虫記」の共訳者であり、「思想」(岩波書店)や「世界大百科事典」(平凡社)の編集者であった批評家である。いま中川久定編の岩波文庫版を読んで、その多声性・複合性(ポリ…

フォーティ『生きた化石生命40億年史』

リチャード・フォーティ『生きた化石 生命40億年史』 三葉虫研究の権威である古生物学者・フォーティが、何十億年も生存してきた「生きた化石」を求めて世界各地の棲息地を訪ねる旅をしながら、生命40億年史を描いていく。だが、その視点には、絶滅危機…

井出洋一郎『「農民画家」ミレーの真実』

井出洋一郎『「農民画家」ミレーの真実』 「晩鐘」「種まく人」で有名な画家ミレーは、教科書にも載り、「道徳・信仰・清貧・農民」のイメージが根付いている。生誕200年になる今、「画家」としての真のミレーに迫ろうとした本で面白い。井出氏が、日本で…

小出裕章『100年後の人々へ』

小出裕章『100年後の人々へ』 原子核工学者で、42年前の女川原子力発電所建設反対運動に参加してから、一貫して反原発の立場に立つ小出氏が、福島原発事故の3年目に率直に自分の在り方を語っていて、好感をもった。生きている間は原発ゼロを諦めず、生…

服部英雄『河原ノ者・非人・秀吉』

服部英雄『河原ノ者・非人・秀吉』 日本中世史学者の被差別民衆史の力作である。第66回毎日出版文化賞を受賞している。服部氏によれば、中世の非差別民は「河原ノ者」がおり、皮革制作が主のしごとであり、刑吏、清掃、井戸掘り、作庭などの土木工事、野犬…

許光俊『クラシック魔の遊戯あるいは標題音楽の現象学』

許光俊『クラシック魔の遊戯あるいは標題音楽の現象学』 クラシックの標題音楽4曲の演奏を聴き比べた音楽批評の傑作だと思う。吉田秀和以後読んだ音楽評論としては、私は感心した。許氏は聴き比べを、差異と遊ぶというが、相対主義に見えて、理想の音楽演奏…

デュルケム『社会学的方法の基準』

デュルケム『社会学的方法の基準』 社会学という学問は若い学問である。19世紀末から20世紀にかけて、ジンメル。マックス・ウェバー、そしてデュルケムが学問として形成しようと苦心している。だから三者とも「社会学とは何か」の方法論の古典的本を出し…

フィリップ・ボール『元素』

フィリップ・ボール『元素』 化学学者が書いた元素をめぐる文明史である。元素の本は多くあるが、文系の人が読んでも面白い。もはや成分に分かれない単体に触れると、万物の素材だと、心が躍るというボール氏は、物質世界と人間の関わりを描いていく。17世…

プルースト『失われた時を求めて』(②)

プルースト『失われた時を求めて』(②) 『花咲く乙女たちのかげに』 この卷は、話者の青春期の恋愛と、将来に天職となる芸術家(小説家ベルゴットと画家エルスチール)との出会いが描かれている。第一部「スワン夫人をめぐって」では、初恋の相手スワンの娘…

河村英和『観光大国スイスの誕生』

河村英和『観光大国スイスの誕生』 2014年は、日本とスイスが国交樹立してから150周年にあたり「スイス・デイズ」など様々なイベントが行われる。河村氏はイタリアのホテル建築文化史が専門だが、スイスのホテル史の影響が大だとし、この本を書いたと…

池上裕子『織田信長』

池上祐子『織田信長』 戦国時代の研究で知られる日本史学者の織田信長の評伝であり、多くの文献資料を基にした力作である。織田信長に関しては、多くの本が書かれている。一長一短があり、全体が見えなかったが、池上氏は信長に肉薄し、等身大の信長像を提示…

根本敬『物語 ビルマの歴史』

根本敬『物語 ビルマの歴史』 なぜ「ミャンマーの歴史」でないのかを根本氏はこういう。1948年独立時から「ミャンマー」であり、英語では「バーマ(ビルマ)」だったが、1989年クーデターで成立した軍事政権が英語名称をミヤンマーに統一した。王朝…

呉座勇一『戦争の日本中世史』

呉座勇一『戦争の日本中世史』 日本中世は戦乱が相次いだ「戦争の時代」である。30代若手の日本中世史研究の呉座氏が、蒙古襲来から応仁の乱までの時代を、戦争そのものの分析を行った本である。戦後歴史学(唯物史観、階級闘争史観)の枠を取り払い、戦争…

『ラ・ロシュフコー箴言集』

『ラ・ロシュフコー箴言集』 「書物より人間を研究することがいっそう必要である」 「われわれが美徳と思いこんでいるものは、往々にして、さまざまな行為とさまざまな欲の寄せ集めに過ぎない」 「自己愛こそはあらゆる阿諛追従の徒の中の最たるものである」…