2011-11-01から1ヶ月間の記事一覧

瀬戸内寂聴『寂聴と読む源氏物語』

女性作家と「源氏物語」(その①)瀬戸内寂聴『寂聴と読む源氏物語』 瀬戸内氏によれば、「源氏物語」にはたくさんの恋愛が書かれているが、突き詰めると人間の孤独と愛の激しさ、喜び、むなしさがあるという。瀬戸内氏は、誰かを愛したら愛した瞬間に苦しみ…

本郷和人「謎とき平清盛』

本郷和人『謎とき平清盛』 題名とは違い謎ときというよりも、古代国家の崩壊と中世にいたる「史論」をデッサンしている本格的歴史書だと思う。確かに清盛が白河上皇の落胤なのかとか、平家は武士か貴族かなど謎ときの話題にも迫っているが、それも本郷氏の古…

ウォーカー『スノーボール・アース』

ガブリエル・ウォーカー『スノーボール・アース』 大陸移動説に匹敵する地球史の科学革命としていま「全地球凍結」仮説が論争になっている。5億年から7億年にかけて全地球が氷も世界になり凍結していたが、その氷が解けたときカンブリア紀の多細胞生物の多…

松沢哲郎『想像するちから』

松沢哲郎『想像するちから』 副題が「チンパンジーが教えてくれる人間の心」とあるように、チンパンジーの認知科学から見た人間論である。松沢氏は京都大・霊長類研究所で「アイ・プロジエクト」というチンパンジーの心の研究をし、またアフリカ・ギアナで野…

折口信夫「歌の話 歌の円寂する時』

折口信夫『歌の話 歌の円寂する時』 釈迢空という歌人であった国文学者・折口信夫の和歌論である。「歌の話」では和歌の発生を神の信仰から述べ、神のものがたり(諺)にたいし、人間の「かけあい」から歌が出てきたという。 「女流短歌史」でも古代の祭りの…

堀田善衛『方丈記私記』『故園風来抄』

堀田善衛『方丈記私記』 堀田善衛『故園風来抄』 堀田は『方丈記』を古典鑑賞でも解釈でもなく「経験」から読んだという。安元3年若き鴨長明が見た京都大火を、堀田は1945年3月10日の東京大空襲の経験から読んでいる。何も無い焼け跡の平べったい場…

田中修『ふしぎな植物学』

田中修『ふしぎの植物学』 草食男子とか植物人間とか植物はかんばしくない表現に使われる。だがこの本を読むと生態系の食物連鎖の根源に植物があり、その生物としての知恵や生きる工夫は見事なものであることがわかる。人口70億人を超えた地球で食糧は不足…

塚原文『20世紀思想を読み解く』

塚原史『20世紀思想を読み解く』 「人間はなぜ非人間的になれるか」を中軸として20世紀思想を考えようとした本である。前衛芸術(アヴァンギャルド)から全体主義を通って、高度消費社会とグローバル世界、メディア(現実とイメージの逆転)を横軸にし、…

ゴーゴリ・魯迅・色川武大『狂人日記』

ゴーゴリ『狂人日記』 魯迅『狂人日記』 色川武大『狂人日記』 三冊の小説『狂人日記』を読んだ。ゴーゴリと魯迅は強迫妄想が強く、色川は幻覚・幻聴が狂気とともに現れる。ゴーゴリと魯迅は社会風刺のための狂人だが、色川は家族や恋人など対人関係の葛藤で…

デュビュイ『ツナミの小形而上学』

ジャン・ピエール・デュピュイ『ツナミの小形而上学』 フランスの科学哲学者・デュピュイは、人類における「有限化した未来」の破局の到来が、悪を働くシステムが人々から独立に存在しているからだと考え、「未来倫理」を重視する。自らを「覚醒した破局論」…

ヘルマン・ヘッセ『シッタルダ』

ヘルマン・ヘッセ『シッダールタ』 ヘッセが第一次世界大戦後、戦争犠牲者慰問の仕事で、ノイローゼになり、スイスでヒッピー的生活をしていた時の宗教体験をもとに書かれた。「インドの詩」という副題がついている。悟りにたするまでの求道者の体験、ただ一…

宮崎駿『本のとびら』

宮崎駿『本へのとびら』 アニメ映画監督・宮崎さんの原点には児童文学があることがよくわかる本である。大学時代に児童文学研究会にはいっていたのも始めて知った。この本は戦後児童文学者・石井桃子さんがつくった岩波少年文庫からお薦めの50点を選んでコ…

後藤和久『決着 恐竜絶滅論争』

後藤和久『決着!恐竜絶滅論争』 2010年に地質、生物学、地球物理学者ら41人がメキシコ・ユカタン半島に6550万年前白亜紀末に小惑星が衝突したことが、恐竜絶滅の引き金になったと科学誌「サイエンス」に発表、恐竜絶滅論争決着宣言といわれた。後…

石川創『クジラは海の資源か神獣か』

石川創『クジラは海の資源か神獣か』 前半は獣医師としてまだ謎の多いクジラの生態が生物学的に叙述されている。ところが、後半になると南極海調査捕鯨の調査船団長として環境保護団体グリーンピースやシーシェパートとの激闘が語られ、切迫した捕鯨戦争の実…

長谷川裕子『なぜから始める現代アート』

長谷川裕子『「なぜ?」から始める現代アート』 長谷川氏によれば、現代アートは歴史を経る中で分離してしまった「目」と「体」をつなぐ機能と、いろいろなメディウムと縦横無尽につながる隙間装置の役割を持つという。ホワイトキューブの美術館額縁からでた…

アガンベン『開かれ』

ジョルジュ・アガンベン『開かれ』 イタリアの哲学者アガンベンはかって『ホモサケル』(以文社)で「死を政治化する」で脳死を取り上げ「身体の国有化」による政治権力による死の認定を「生権力」として論じていた。いまや臓器移植、遺伝子操作、クローン、…

池田譲『イカの心を探る』

池田譲『イカの心を探る』私はイカ刺し、塩辛が好きだ。そのイカが発達した神経系と巨大脳の持ち主で、イルカやクジラなみの「海の哺乳類」(イカは貝殻を脱ぎ捨てた無脊髄動物のタコと同じ頭足類)といわれると驚く。賢く社会性をもち、学習と記憶も備えて…

本川達雄『生物学的文明論』

本川達雄『生物学的文明論』 本川氏は前著『ゾウの時間ネズミの時間』(中公新書)で、動物のサイズが違うと速さが違い、寿命が違い、時間の流れる速さが違ってくるが、一生の間に心臓が打つ回数や体重あたりのエネルギー使用量は同じだという「サイズの生物…

片山智行『魯迅「野草」全釈』 

魯迅『野草』 片山智行『魯迅「野草」全釈』 『野草』を読んだ時私は漱石『夢十夜』を連想した。どちらも潜在意識が夢という象徴によって表現されている。魯迅の場合は夢九夜だが。漱石の場合は世紀末的不安や幻想性が強い。西欧近代が既に内面に入り込んで…

中野剛志『TPP亡国論』

中野剛志『TPP亡国論』中野氏は経済ナショナリズムの研究者だけあってグローバル化した世界経済のなかでの日本の経済戦略という視点からTPP(環太平洋経済連携協定)を考察している。TPPを開国とか自由貿易とか農業改革とかいう主張でなく、世界と…