2012-10-01から1ヶ月間の記事一覧

吉村典久『会社を支配するのは誰か』

吉村典久『会社を支配するのは誰か』 株式市場を至上として株主支配を貫徹し、社外取締役を経営に参画させ、経営意志と事業執行を分離した「執行委員制」を導入し、事業部制や役員高額報酬公開などを重視するアメリカ流企業統治が、「グローバル・スタンダー…

吉田たかよし『元素周期表で世界はすべて読み解ける』

吉田たかよし『元素周期表で世界はすべて読み解ける』 福島原発事故以後、放射線障害の元素としてセシウムやストロンチウムやヨウ素などが問題になった。『元素図鑑』(PHP研究所や講談社刊)などを読んで見た。元素に興味が出て、アイザック・アシモフ『…

莫言『犬について、三篇』

莫言『犬について、三篇』 小品だが、莫言氏の真骨頂が出ていて面白い。夏目漱石にやはり小品「文鳥」というのがあるが、漱石はやはり猫で村上春樹氏は羊で、莫言氏は犬である。『白檀の刑』では「猫腔」という猫鳴きをリズムにする地方演劇がメインだが、同…

チョムスキー『アメリカを占拠せよ!』

チョムスキー『アメリカを占拠せよ!』 2011年9月ニョーヨークで自発的に起こった「占拠せよ・オキュパイ運動」は富裕層(金融資本など0・1%)と貧困層を含む一般市民層(99%)との階級格差から生まれた抵抗運動である。オキュパイ運動は、60年…

莫言『白檀の刑』

莫言『白檀の刑』 2012年ノーベル文学賞を受賞した中国文学の莫言の小説である。20世紀清朝帝国末期、西大后や袁世凱の時代、山東省高蜜県でのドイツ帝国主義下鉄道建設に反対し、建設現場を襲う農民たちの反乱と処刑の歴史物語である。反西欧帝国主義…

伊東豊雄『あの日からの建築』

伊東豊雄『あの日からの建築』 「あの日」とは、東日本大震災のことである。伊東氏は大震災以前に仙台市に「せんだいメディアテーク」という文化複合施設を設計していたが、地震で7階天井仕上げ材の一部落下があった。震災で衝撃を受けた伊東氏が、建築家に…

絓秀美『反原発の思想史』

絓秀美『反原発の思想史』 副題に「冷戦からフクシマに」とあるように、福島原発事故までの「反原発」(脱原発でない)の運動の思想を、歴史的に辿っている。絓氏は「1968年」を中核として現代思想を読み解こうとしている。この本でも反原発運動が毛沢東…

立木康介『精神分析の名著』

立木康介編著『精神分析の名著』 フロイトから土居健郎まで16人の精神医学者による21冊の著作を通して、精神分析がいかに誕生し、発展し、再構築されていったかを紹介している。このなかにはM・クラインやE・エリクソン、アンナ・フロイトさらにラカン…

丸谷才一『忠臣蔵とは何か』

丸谷才一『忠臣蔵とは何か』 作家・丸谷才一氏が10月13日に亡くなった。私は小説もさることながら、丸谷氏の日本文学史論の愛読者であった。『日本文学史早わかり』や『後鳥羽院』はおもしろかったが、やはり『忠臣蔵とは何か』が1980年代の精神状況…

緒方貞子『満州事変』

緒方貞子『満州事変』 満州事変の政策過程を丹念に辿った名著である。尖閣問題で反日デモが中国で行われたとき、ちょうど満州事変81年目の記念日(1931年9月19日勃発)と重なり中国ナショナリズムが高まった。緒方氏はアメリカ社会科学の実証的手法…

グールド『パンダの親指』

スティーヴン・J・グールド『パンダの親指』 グールドの科学エッセイを読んでいると、寺田寅彦のエッセイを連想させる。グールドは進化生物学、古生物学の専門を背景に、広い知識でユーモアをもって進化論のエッセイを書く。表題になっている「パンダの親指…

蜷川幸雄『演出術』

蜷川幸雄・長谷部浩『演出術』 演劇の舞台稽古は「人間の修羅の戦場」という演出家・蜷川幸雄氏と東京芸大教授長谷部浩氏のドラマチックなインダヴューである。二人登場人物の戯曲を読むようだ。蜷川氏が演出した代表的ドラマ(チェーホフ、シェイクスピア、…

杉晴夫『人類はなぜ短期間で進化できたのか』

杉晴夫『人類はなぜ短期間で進化できたのか』 この本は、生物としての人類進化と、人類が作り上げた文明社会の進化が、なぜ短期間に急速に進んだかを解明しようとした面白い本である。だが進化史についても、文明史においても議論が多いと思う。杉氏は進化で…

クンデラ『不滅』

「ミラン・クンデラを読む③」 『不滅』 クンデラの小説を読んでいると、重層的であり、様々な人物が「変奏」して、最後に重なり合っていく円環のような構造になっていて、この人がこの人だったのかと最終で分かった推理小説的面白さがある。すべてが繋がって…