2015-01-01から1年間の記事一覧

小西甚一『日本文藝の詩学』

小西甚一『日本文藝の詩学』 小西氏は国文学者だが、アメリカ・スタンフォード大客員教授など海外で教えた人である。印象批評や本文批判を避け、作品・テクストを精査し、何故その作品が感動させるかを緻密におこなう「分析批評」の立場をとる。 この本では…

ストーン『オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史』(3)

ストーン&カズニック『オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史』(3) 「帝国の緩やかな黄昏」という副題がついているように、3巻では、カーター、クリントン、レーガン、ブッシュ二代、オバマまでの大統領時代が描かれている。冷戦終結、ソ連崩…

細見良行『琳派』

細見良行『琳派』 2015年は「琳派四百年」だという。本阿弥光悦が徳川家康から、京都・鷹峯に土地を与えられ、「芸術村」を作り、俵屋宗達らと芸術制作を行った年の始めだからだ。 多くの日本美術を収集している京都・細見美術館長の細見氏が、尾形光琳…

五十嵐太郎『忘却しない建築』

五十嵐太郎『忘却しない建築』 建築史の五十嵐氏は、いまだ東日本大震災は終わっていないという立場で、記憶の風化と、スクラップ・アンド・ビルドに抗う視点で、瓦礫(「被災物」)を抱きしめて、いかに復興を考えるかを、この本で描いている。 土地を奪い…

ストーン『オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史』(2)

ストーン&カズニック『オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史』(2) 2巻では、冷戦開始、アイゼンハワー、ケネディ、ジョンソン、ニクソン大統領の時代が描かれる。ストーン氏の史観の面白さは、「覇権帝国」アメリカが、いかに最強の軍事力と…

西寺郷太『プリンス論』

西寺郷太『プリンス論』 いま私は、プリンスの「アート・オフィシャル・エイジ」(2014年)を聞きながら、西寺氏の力作を読んでいる。あの衝撃的な「パープル・レイン」から、ちょうど30年後アルバム曲である。 「囚われた者達を解放するんだ。さあ、…

ストーン『オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史』(1)

ストーン&カズニック『オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史』(1) アカデミー賞監督ストーンとカズニック・アメリカン大歴史学教授が書いた20世紀アメリカ史である。20世紀に「覇権国家」になったアメリカの、光と影を描いている。 スト…

カヴァン『氷』

アンナ・カヴァン『氷』 これだけ終末の世界を、超現実的に美的に描いた小説はないだろう。イギリスの作家カヴァン(1901―68年)は、カフカ的世界を描くが、より暴力的であり、終末の世界観が強い。 気候変動が核戦争後に起こり、「氷の世界」として迫…

カー『火刑法廷』

ディクソン・カー『火刑法廷』 構造主義文学の研究者ツヴェタン・トドロフは、幻想文学を、小説で語られる奇怪な出来事について、合理的に説明をとるか、超自然的説明とるかの「ためらい」が構造にあるとした。(『幻想文学論序説』東京創元社・創元ライブラ…

村井良介『戦国大名論』

村井良介『戦国大名論』 この本を読んでいるとき、安保関連法案が参院特別委員会で強行採決された。村井氏は、デリダやベンヤミンの「法措定的暴力」を、基礎を持たない暴力と位置づけ、法の根源には無根拠の暴力があるという方法論を使い、戦国大名の軍事力…

益川敏英『科学者は戦争で何をしたのか』

益川敏英『科学者は戦争で何をしたか』 2008年ノーベル物理学賞を受賞した益川氏が、現代科学のおかれた揺らぎの状況に警鐘を鳴らした書である。私は益川氏に、戦後の核兵器開発に協力した物理学者たちが、贖罪意識から1955年に核廃絶を求めた「ラッ…

マクロイ『暗い鏡の中に』

ヘレン・マクロイ『暗い鏡の中に』 マクロイのミステリを読むと、二つのことを感じる。ひとつは自我のアイデンティテイの揺らぎである。もうひとつは、科学的合理性と超常現象などの幻想性の対比である。このミステリは、それが明確に現れている。 多重人格…

マクロイ『あなたは誰?』

ヘレン・マクロイ『あなたは誰?』 マクロイ(1904―1994年)は、アメリカのミステリ作家で、サスペンスと本格推理をない交ぜにした傑作を書いた。この本は1942年の初期作品である。 読み出すと謎が面白く一気に読める。構成も緻密だが、同時にサ…

内藤湖南『中国近世史』

内藤湖南『中国近世史』 東洋史学者で京大教授だった内藤湖南(1866−1934年)の古典的名著である。内藤はジャーナリストから歴史学者になっただけに、中国現代の辛亥革命―中華民国時代にかかわり、視野の大きな歴史観をもって東洋史を描いた。 私は…

ジャット『失われた二〇世紀』(下)

トニー・ジャット『失われた二〇世紀』(下) この巻では、ヨートッパとアメリカの二〇世紀を、いくつかに絞った領域で述べている。1940年のナチ・ドイツに対するフランスの敗北は、国内の左翼の蜂起を恐れた支配・軍人層の不安が根底にあると見る。占領…

ニコルソン『イスラムの神秘主義』

ニコルソン『イスラムの神秘主義』 どの宗教にも神秘主義はある。だが、中世イスラムから起こったイスラム神秘主義(スーフィズム)は、イスラム教の理解に欠かせない。イスラム教は、律法と戒律の共同体の宗教であるが、他方、個人の内面に深く沈潜し、唯一…

ジャット『失われた二〇世紀』(上卷)

トニー・ジャット『失われた二〇世紀』(上) ヨーロッパ現代史のジャット氏(2010年死去)は、二〇世紀は過ぎ去ったとはいえないのに、論争やドグマ、その理想や恐怖は 曖昧模糊とした誤った記憶に転落し、連続性を否定し、積極的に「忘却」しょうとし…

坂井豊貴『多数決を疑う』

坂井豊貴『多数決を疑う』 多数決は、一見民主主義のように見える。多数決は本当に国民の意思を適切に反映しているのか。坂井氏の本は、社会選択理論によって、多数決の精査と、その代替案を検討した力作である。 多数決のもとでは有権者は、自分の判断の一…

ナンシー『思考の取引』

ジャン=リュック・ナンシー『思考の取引』 現代フランスの哲学者ナンシー氏の書物論、読書論である。だが、私には「書物の詩学」のように思える。見事な翻訳であり、詩を読むようだ。例えばこういう文章だ。書物の神秘主義。 「一冊の書物は、流星だ。散り…

デズモンド・モリス『サル』

デズモンド・モリス『サル』 動物行動学者モリスには、動物行動学から見た人間論『裸のサル』(1994年刊、角川書店)という名著がある。今度は本当のサルを、この2013年刊の本で描いている。サルについての人間社会での歴史・文化から生態まで、該博…

鎌田繫『イスラームの深層』

鎌田繫『イスラームの深層』 イスラームにおける「神」とは何かを、イスラーム神秘思想から考え抜いたのがイスラーム学者鎌田氏のこの本である。深遠な宗教思想について述べているから難しいが、文章は平易であり、じっくりと読むと理解できる。 日本ではイ…

金沢百枝『ロマネスク美術革命』

金沢百枝『ロマネスク美術革命』 西欧史では、12世紀ルネッサンスといわれる。農業の発展により生産力がたかまり、温暖化もあり多くの村が開発されていく。領主の城や教会堂の建築ブームが起こる。このとき聖堂を設計し彫刻した美術を「ロマネスク美術」と…

上田秋成『雨月物語』

上田秋成を読む(1) 上田秋成『雨月物語』 『雨月物語』は怪異小説だという。そうだろうか。人間が欲望の執着により、鬼や幽霊になる執念を、超自然的に描いているシュールな物語なのだ。人間の非合理的な情念の恐ろしさという面をみれば、恐怖小説だとも…

バレンボイム/サイード『音楽と社会』

バレンボイム/サイード『音楽と社会』 20世紀末から21世紀にかけておこなわれた、指揮者バレンボイムと比較文学者サイードとの対談であり、名著である。バレンボイムは、ユダヤ人でアルゼンチンに生まれてイスラエル国籍で、ベルリンに住む。 サイード…

佐野貴司『超巨大火山』

佐野貴司『超巨大火山』 地球は、一つの超大陸パンゲアが分裂し移動していまの大陸群に分かれたという大陸移動説は、20世紀の「地動説」である。始めに唱えたドイツの地球科学者ヴェーゲナーの『大陸と海洋の起源』(1929年刊、岩波文庫)は、現代の古…

関雄二編『神殿と権力の形成』

関雄二編『神殿と権力の形成』 日本の考古学は、西アジア(メソポタミア)や南米ペルーなどの50年以上の発掘調査で、目覚しい成果を挙げてきた。最近では、南米ペルーのアンデス調査団の発掘は、世界的に注目されている。この本では西アジアとアンデスの古…

山崎裕人『がん幹細胞の謎にせまる』

山崎祐人『がん幹細胞の謎にせまる』 私はがん患者だから、がんに関する本に興味がある。がん遺伝子が発見され、さらにがん抑制遺伝子、がんシグナル伝達系まで、解析されて、次第にがん研究は進展してきている。 2015年には、国立がん研究センターは、…

植島啓司『伊勢神宮とは何か』

植島啓司『伊勢神宮とは何か』 年間1千万人が参拝するという伊勢神宮を、宗教人類学者・植島氏が伊勢志摩をフィールドワークした伊勢神宮論であり、面白い。伊勢神宮は内宮外宮だけでなく、別宮、末社など125社があるが、その周辺を植島氏が歩き回り、伊…

ブレヒト『ガリレイの生涯』

ブレヒトを読む(3) ブレヒト『ガリレイの生涯』 ブレヒトは、「戦争はなによりも科学を促進する。なんという機会なのだろう この戦争という機会は、火事場泥棒ばかりではなく、発明家も生むのである」と、1947年の「ガリレイの生涯」のまえがき草案で…

ブレヒト『アンティゴネ』

ブレヒトの劇(2) ブレヒト『アンティゴネ』 ナチス第三帝国の崩壊後にブレヒトが、ギリシア悲劇ソポクレス原作・ヘルダーリン独訳の『アンティゴネ』を改作した劇で、傑作である。原作とはかなり変わっているとこもあるが、大筋は踏襲している。 テーバイ…