2014-06-01から1ヶ月間の記事一覧

蔵本由紀『同期する世界』

蔵本由紀『同期する世界』 同期現象(シンクロ現象)とは、リズムとリズムが出会うと相手を認識したように、完全にリズムの歩調を合わせる現象をいう。リズムがあるところに同期がある。 蔵本氏は、同期現象を縦軸にして、横断的に多様な問題を解こうとして…

小杉泰『9・11以後のイスラーム政治』

小杉泰『9・11以後のイスラーム政治』 9・11テロによって米国の「テロ対反テロ戦争」が起こり、イスラーム復興という現代化宗教が、西欧近代主義と民族主義とともに、イスラーム世界を分極化することになったと、小杉氏はいう。かつての社会主義に匹敵…

内村鑑三『ヨブ記講演』

内村鑑三(4) 内村鑑三『ヨブ記講演』 内村が旧約聖書「ヨブ記」を、自己の魂の実験として読み説いた。内村のキリスト教信仰が凝縮されている。ヨブは普通の市民でクリスチャンだが、財産は破産し、子どもに先立たれ、妻や親族にも去られ、友にも見捨てら…

池上俊一『パスタでたどるイタリア史』

池上俊一『パスタでたどるイタリア史』 パスタの変遷をたどりながら、イタリアの歴史を描いた面白い本である。古代メソポタミアで栽培された小麦は、ギリシャ・ローマでは粉食にしてパンや、ラザーニヤで食べていた。だが、古代ローマのパスタは「練り粉」を…

張競『中華料理の文化史』

張競『中華料理の文化史』 この本を読むと、中華料理の多民族性、雑食性、多様性、歴史的変化の激しさに驚かされる。北京ダックも、春巻きも百年ぐらいの歴史しかないし、フカヒレも清代以降というから二百年もたたない新しさだ。 張競氏によると、日本料理…

原田信男『和食とはなにか』

原田信男『和食とはなにか』 2013年に和食が世界無形文化遺産に登録された。和食は、いまや文化遺産なのかと驚く。米飯よりもパンの消費量が上回っているし、学校給食始め、洋食は現代日本人の主食になりつつある。だが、米飯は日本では滅びないだろう。…

熊谷奈緒子『慰安婦問題』

熊谷奈緒子『慰安婦問題』 2014年6月20日政府の「河野談話」検証チームから、韓国慰安婦の「河野談話」の正当性は損なわぬという結果が発表された。熊谷氏の本はその前の6月10日に出版されているが、河野談話の継承と、アジア女性基金の体現した道…

内村鑑三『基督信徒のなぐさめ』

内村鑑三(3) 内村鑑三『基督信徒のなぐさめ』 内村が苦難の時期である明治20年の国粋時代に、キリスト者がいかに「なぐさめ」を得るかを吐露した作品である。内村は第一高中学校の教師として教育勅語拝読式に敬礼をしなかった「不敬」で非難され、学校…

内村鑑三『代表的日本人』

内村鑑三(2) 内村鑑三『代表的日本人』 内村は日清戦争の時は「義戦論」を唱えたが、日露戦争には「非戦・反戦論」に転じた。キリスト教とナショナリズムが内村のなかに融合している。西欧的文明開化や富国強兵に対する強烈な批判がある。この本の「ドイ…

バルザック『「絶対」の探究』

バルザックを読む(7) バルザック『「絶対」の探求』 バルザックが好む偏執の情熱(パラノ)に囚われたバルタザールの物語である。フランドルの名家に生まれた人物が、科学上の難題である全物質に共通する「絶対」元素を探求して果たせず、一家を破滅に追…

内村鑑三『宗教座談』

内村鑑三(1) 内村鑑三『宗教座談』 明治の宗教的人間の宗教論(キリスト教)である。どの教会、宗派にも属さない無教会主義者である。この本で内村が教会を嫌うのは、罪悪の救済力に乏しく、慈善クラブや社交場になっているためだと批判し、私欲を殺さん…

片山杜秀『未完のファシズム』

片山杜秀『未完のファシズム』 2014年は、第一次世界大戦が始まって100年に成る。日露戦争が終わり、集団的自衛権でドイツに参戦した日本は高みの見物だった。冷戦期の朝鮮戦争のように、軍需バブルになり、日本は重工業国に離陸する。だが、片山氏は…

高遠弘美『七世 竹本住大夫』 

高遠弘美『七世 竹本住大夫』 人形浄瑠璃文楽の最高齢、竹本住大夫が2014年5月に89歳で引退した。「まがうかたなき名人である」という仏文学者・高遠氏の住大夫論である。世阿弥が能で言った「枝葉もすくなく老木になるまで花は散れで残りしなり」(…

グローマー『瞽女のうた』

グローマー『瞽女のうた』 瞽女(ごぜ)とは、盲目の女旅芸人で、家々を回り歩き、三味線伴奏で歌を歌い謝礼をもらう。近世から昭和半ばまで存在し、関東甲信越を巡回したが、いまや消失してしまい、録音も写真も少ない。この視覚障害者の近世旅芸人を、多く…

「ロボット・AI革命」(「週刊ダイヤモンド」)

「ロボット・AI革命」(『週刊ダイヤモンド6月14日号』) ソフトバンクが人の感情を認識するロボット「ペッパー」を開発し、言葉の簡単なやりとりも出来ると6月5日発表があった。高額なAI(人工知能)はインターネット上に置いて、データをやり取り…

グリーンウォールド『暴露』

グリーンウォールド『暴露』 オーエル『1984年』は未来の全体主義国家の、国民に対する大量監視システム国家を描いたディス・ユートピア小説だった。それが、21世紀民主主義国家アメリカで実現しているとは、驚きである。内部告発者スノーデン氏と最初…

森川嘉一郎『趣都の誕生 萌える都市アキハバラ』

森川嘉一郎『趣都の誕生 萌える都市アキハバラ』 この本は東京論であり、オタク論であり、秋葉原論でもある。1997年から2008年までの時代の秋葉原の電気街からの変貌を描いた都市論でもある。趣味が都市を変える力を持ち、オタクの個室の都市化が、…

ペトロスキー『エンジニアリングの真髄』

ペトロスキー『エンジニアリングの真髄』 半世紀前に英国の作家・スノー氏は「ふたつの文化」の分裂に警鐘を鳴らしたが、その文化とは自然科学(特に物理学)と人文科学の断絶だった。ペトロスキー氏は今日の二つの文化は、科学とエンジニアリング(工学技術…

バルザック『ゴリオ爺さん』

バルザック雑読(6) バルザック『ゴリオ爺さん』 この小説は、シエイクスピアの「リア王」に匹敵する「父性のキリスト」といわれ、自己献身的に娘に尽くし、無一文になり、娘に無視されて一人貧しく下宿屋で死んでいく親子の情愛物語と言われてきた。確か…

カルダレリ『ネットワーク科学』

カルダレリとカタンツァロ『ネットワーク科学』 21世紀に入り進展している魅力的な学問領域としてネットワーク科学がある。生態系の食物連鎖、神経回路、交通網(航空網)、インターネット、遺伝子制御ネット、ウイルス性伝染病の伝播、電力網、金融網など…

バルザック『グランド・ブルテーシュ奇譚』

バルザック雑読(5) バルザック『グランド・ブルテーシュ奇譚』 バルザックには、結婚生活の悲劇を描いた小説がいくつかある。人妻が密かに恋愛をして、三角関係におちいっていく。妻と夫と愛人の三角関係の悲劇である。バルザックの伝記を見ていると、バ…