『グリンバーク批評選集』

『グリンバーク批評選集』

     アメリカの芸術批評家・グリンバーク氏の美術論集である。グリンバーク氏といえば、ポロックなどアメリカ抽象表現主義の画家たちを見つけ、評価したことで知られる。
     「モダニズイム」を、芸術様式として古典主義やロマン主義のように定義したことがわかる。そのためポストモダンの思想家からは激しい批判を浴びた。だがよく読んでみると、簡単にその美術論を否定できないと思った。
     19世紀中盤から20世紀にかけて、西欧美術は大きな変革をとげ、グリンバーク氏はそれを「モダニズム」という。モダニズムは内側からの「自己批判の強化」であり、芸術のための芸術という「純粋化」を求め、専門職人的に「技巧」を使う「メディウム」の実体重視をおこなう。文学ではフローベル、ボードレールからで、美術ではマネ、セザンヌからだ。
     美術では三次元的イリュージョンではなく、平面の二次元の反彫刻的な絵画を目指す。再現性や三次元性は絵画の本質でないと考える。グリンバーク氏が、ブラックやピカソなどのキュビズムの「コラージュ」の画面の上に貼り付ける手法を、論じているのが面白かった。
     この本では「アメリカ型」絵画や、「抽象表現主義以後」の絵画を論じた論文がやはり興味深い。ゴーキー、デ・クーニング、ニューマン、ロスコ、スティル、ポロック、ジョーンズなどの絵画を見事に描きだしている。
     アメリカ型絵画は、フランスの印象主義絵画への反発が大きい。光の明暗対比よりも色彩の相対対比、平面から「場」の重視、三次元イリュージョンの否定、キョダイキャンパス、ごたまぜだが「構想・直観」による絵画をつくりだす。
     グリンバーク氏は、職人的形式性をもつ「フォーマリズム」のクールの重視をモダニズムの特徴と考えている。この本のセザンヌ論、マティス論も面白い。(勁草書房藤枝晃雄編訳)