橋本卓典『捨てられる銀行』

橋本卓典『捨てられる銀行』

 ジャーナリストによる地方銀行のドキュメントであり、金融行政の大きな変換もルポしている傑作だと思う。
 2015年金融庁は森信親長官就任で大旋回した。私は、日銀・黒田総裁就任よりも、森長官の仕事こそ、人口減少時代に、地銀と地方創生の「変革」に大きな転換になると考える。
 橋本氏は最後にこう書く。「地銀が企業の事業をみなくなったことで、新たな資金需要を生みにくい構造問題を生じさせた」日銀の大規模金融緩和が効果を発揮しない要因である。
 テレビドラマ「半沢直樹」で、陰湿な金融庁検査官が銀行の不良債権のありかたを、追い詰めていく。だが、森長官は、この「金融マニュアル」や検査業務を、廃止したというだけで、金融庁の自己否定として驚く。
 資産査定をして、不良債権を炙り出すよりも、森金融行政は、地方中小企業の事業再生や、新規起業を応援し、そのため銀行マンの地方企業とのコミュニケーション(「聞く力、対話能力など」)の人材養成を重視する。「短コロ」や「リレバン」の重視も面白い。
 資金を多く貸し、利ざやをとることや、信用保証制度を軽視し、顧客としての企業の事業再生を重視する。自己利益ばかりでなく、顧客の重視に向かうのは当然と、我ら市民は思うが、金融行政・銀行業務はこれまでそうはいっていなかった。
 私はリーマンショク以来の、公金・税金を銀行に投入する政策が、良心的な森長官の変革に見える。
 橋本氏の本が、城山三郎経済小説を読むように面白いのは、金融マンの人生と絡めて書いているからだ。
 森長官を支える金融のブレーン・キーマン日下智晴氏、地域金融のプロ・多胡秀人氏の人生の歩みを読むと、改革が当然と思えてくる。
 さらに組織としてのビジネスモデルを橋本氏はルポしている。
 稚内信用金庫(リスクをとるためのやせ我慢経営)、北國銀行(営業ノルマを捨てた地銀)、きらやか銀行(本業支援というビジネスモデル)、北都銀行(地域問題解決で再スタート)、この四ケースはどれも、地銀の今後のモデルになるだろう。(講談社現代新書