2016-04-01から1ヶ月間の記事一覧

添谷芳秀『安全保障を問いなおす』

添谷芳秀『安全保障を問いなおす』 国際政治学の添谷慶大教授は、安全保障をナショナリズムと一国平和主義から脱する第三の道を、提示しようとしている。大国外交を繰り広げる米中の狭間で、「ミドルパワー」として生きる日本外交を模索している。 添谷教授…

石川九楊『<花>の構造』

石川九楊『<花>の構造』 書家・石川氏の花を巡る日本文化論である。書家らしく花を、漢字、ひらがな、カタカナの使い方で様相を見ようとする。 三重性の文字をもつ日本語は、単一言語ではないと石川氏はいう。西欧言語は声から発生するが、東アジアの言語…

狩野博幸『若冲』

狩野博幸『若冲』 若冲ブームが続いている。2016年東京都美術館では、代表作約80点を生誕300年記念で展覧会が開かれたし、NHKスペシャル(4月24日)「天才絵師若冲の謎にせまる」を放映した。 これまでは奇才といわれ、異端視されてきたが、…

井上達夫『憲法の涙』

井上達夫『憲法の涙』 法哲学の井上東大教授は、この本で二つの主張をしている。第一は憲法九条論でどう考えるかである。第二は安保法制以後の憲法学者(護憲、改憲)論議の批判である。 井上教授の九条論は、合理的であり、論理一貫性がる。立憲民主主義の…

『東海道中膝栗毛』(2)

) 2『東海道中膝栗毛』(2) ほとんどが会話体で書かれているから、狂言や落語と似たような構成になっている。それに肝心なところに狂歌がはさまれ、「伊勢物語」などの和歌のように重要な役割をしている。 主人公二人を、中村幸彦氏がこう述べているのが的…

十返舎一九『東海道中膝栗毛』

十返舎一九『東海道中膝栗毛』(1) 19世紀江戸の戯作・滑稽文学の傑作だ。魯迅の弟・周作人は、西欧にも中国にもこうした小説はないと評した。私は西欧のピカレスクロマン(悪漢小説)に近いと思うが、弥次北八ともに根は善人で小心だから、いたずら的小…

伊東光晴『ガルブレイス』

伊東光晴『ガルブレイス』 20世紀アメリカの経済学の巨人・ガルブレイスを、伊東氏は、社会経済思想史の視点で描く。高齢の伊東氏の渾身の力作であり、読んでいて感動を覚える。 ガルブレイスといえば、民主党リベラルの立場であり、ケネディ大統領とも親…

『野尻抱影』

『野尻抱影―星は回る』 野尻抱影『星の民俗学』 いまや天文学は、観測衛星や火星到達など宇宙の星を詳細に知るようになっている。またビックバンからパルサー星、ブラックホール、目に見えないニュートリノ、重力波と、相対性理論の時代に入っている。地上で…

五味文彦『中世社会のはじまり』

五味文彦『中世社会のはじまり』 日本史学者の中世論である。院政の始まりの1068年、後三条天皇から白河、鳥羽、後白河と続き、平氏政権の武家政権成立、鎌倉幕府、承久の乱から蒙古襲来まで通史が書かれている。 五味氏の通史も目配りがきているが、五…

ローレンス『コーランの読み方』

ブルース・ローレンス『コーランの読み方』 コーランを全部読むのは大変である。ローレンス氏は米国・デューク大教授でイスラーム学が専門で、中東問題にも詳しい。 この本ではイスラーム教が創造される過程と、予言者ムハマッドへの神の啓示が詳しく書かれ…

貞抱英之『消費は誘惑する』

貞包英之『消費は誘惑する』 江戸時代18,19世紀社会の消費を論じた歴史社会学の傑作であり、副題に「遊郭・白米・変化朝顔」とあるように、この三分野から探究している。 貞包氏は、ベンヤミンの「パーサジュ論」や吉本隆明、内田隆三の大衆消費論に影…

渡辺尚志『百姓の力』

渡辺尚志『百姓の力』 江戸時代の、とくに18世紀の「村」から百姓の生活を、古文書を調査して明らかにしようとした近世史の力作である。渡辺氏がいう「百姓」とは、農民などの特定の職業従事者でなく、職業と深く関連しつつも、村人と領主が村の正規の構成…

石川美子『ロラン・バルト』

石川美子『ロラン・バルト』 20世紀のフランスの批評家ロラン・バルト(1915―1980年)についての、仏文学者で『ロラン・バルト著作集』(みすず書房)の監修者の石川氏の、渾身のバルト論である。 バルトは、日本好きで、その『記号の国』は、バル…

森政稔『迷走する民主主義』

森政稔『迷走する民主主義』 森氏は、安倍政権時代の民主主義の迷走を、2009年の民主党政権時代に遡り検討している。政治思想的には、リバタリアニズムと新自由主義に対抗して、有限な開かれた社会での民主主義を追求している。 民主党の政権交代はどう…

岸田秀『史的唯幻論で読む世界史』

岸田秀『史的唯幻論で読む世界史』 精神分析学の岸田秀氏は、フロイドの考え方を、歴史学に普遍して日本史、世界史を論じている。人間は本能が壊れ、幻想で歴史を作り、自分とその集団を物語化する。人間の歴史は、経済、政治、軍事、など社会条件よりも、幻…

ソロス編著『安定とその敵』

ジョージ・ソロス編著『安定とその敵』 1994年設立された「プロジェクトシンジケート」による世界で活躍するトップ・エリートの現状世界の論評で、2015年を扱い、ソロス氏はじめ21人が寄稿している。 世界経済の停滞は続くという見方が強い。中国…

ラーフラ『ブッダが説いたこと』

ラーフラ『ブッダが説いたこと』 スリランカの学僧ラフーラ(1907―97年)は、セイロン大学からカルカッタ大学で学び、後にフランスにも留学し、アメリカ・ノースウエスタン大学教授、さらにスリランカ・ヴィジョーダ大学長にもなった。上座仏教にも大…

シラー『ヴィルヘルム・テル』

シラーを読む(2) シラー『ヴィルヘルム・テル』 シラーの劇作は、集団劇だと思う。「群盗」でも、第二幕のボヘミヤの森で、群盗たちが繰り広げる集団劇は圧巻だし、この「ヴィルヘルム・テル」でも第二幕でスイス三州の民衆が、神聖ローマ帝国皇帝の圧政…

カント『永遠平和のために』

古典的平和論を読む(下) カント『永遠平和のために』 1795年哲学者カントが、71歳の時書いた平和論である。秘密保護法や集団的安保法の今読むと、多くの示唆を受ける。 カントは平和に暮らす生活は、「自然状態」でない。自然状態は、敵対的な戦争状…

エラスムス『平和の訴え』

古典的平和論を読む(上) エラスムス『平和の訴え』 15世紀ヨーロッパは、フランスのイタリア侵入や、ヴァロア王朝とハプスブルグ王朝の戦争、さらに宗教改革による宗教戦争が荒れ狂う時代である。エラスムスの平和論は、キリスト教福音主義をベースにし…

トーマス・ペイン『コモン・センス』

トーマス・ペイン『コモン・センス』アメリカ独立革命のときのベストセラーであり、分離独立の小冊子である。歴史を動かした一冊の本である。フランス革命時代のシイエス『第三身分とは何か』やマルクス『資本論』に匹敵する。煽動の書と見られがちだが、読…

シラー『群盗』

シラーを読む(1) シラー『群盗』 ドイツ18世紀のシラーの22歳の戯曲処女作である。若者が理念的自由に価値を置き、不条理な虚偽な社会に反抗するため群盗になる。最後は「道義的責任」をとるため、自首し処刑される。 シエイクスピアの「ハムレット」…