2011-06-01から1ヶ月間の記事一覧

溝口睦子『アマテラスの誕生』

溝口睦子『アマテラスの誕生』日本古代が多様な文化の重層・複合であることは、いまや通説である。だが皇祖神アマテラスが女神であり、それを祭った伊勢神宮は古代から天皇の参拝は一度もなく、明治2年明治天皇の伊勢神宮参拝が初だというのは、驚きである…

ボルヘス『創造者』『詩という仕事について』

J・L・ボルヘス『創造者』 J・L・ボルヘス『詩という仕事について』 二冊ともボルヘスの晩年の詩集と詩論である。そこには高齢で盲目状態になり死が近づく衰残のなか、悲しみながら諦念をもち、だが詩創造に賭けていく情念が見える。詩集『創造者』は青…

ヘンリー・ジェイムス『アスパンの恋文』

ヘンリー・ジェイムス『アスパンの恋文』 ジェイムスの小説は、後期になると深い心理描写が散りばめられ難解になる。だが中期のこの小説はサスペンスに満ち、息を付かせずに読める。舞台はヴェニスであり、そこの古い大邸宅に住む老婦人と姪のもとに、アメリ…

高木仁三郎『いま自然を堂見るか』

高木仁三郎『いま自然をどうみるか』 13年前に増補新版が出版された本だが、福島原発事故以来読みたいと思っていた。いま新装版が出た。高木は東大原子核研究所助手をしていたが、反原発、反核運動を長年行い2000年に死去した。この本は高木がギリシア…

大久保純一『浮世絵』

大久保純一『浮世絵』 浅野秀剛『錦絵を読む』 浮世絵には多くの本があるが、歴史的視点で全体像を描いた客観的な本としてこの二冊はコンパクトでまとまっている。大久保氏は浮世絵の流れから、いかに作られ売られたか、さらに錦絵の技法のさまざままで解説…

『現代思想 古事記』

『現代思想 古事記』(2011年5月臨時増刊号) 「1300年目の真実」と銘打たれている。いま「古事記」研究がどういう状況にあるかが良くわかる特集である。巻頭論文で哲学者・梅原猛氏は、「古事記」は日本初の公式歴史書「日本書紀」を作るための準…

外尾悦郎『ガウディの伝言』

外尾悦郎『ガウディの伝言』 スペイン・バルセロナのサグラダ・ファミリア(聖家族贖罪聖堂)は1882年着工されて128年経つが、いまだ建設途上であり2020年に完成するといわれている。その大部分を設計し1926年に死去した建築家ガウディの隠さ…

レヴィ=ストロース『現代世界と人類学』

レヴィ=ストロース『現代世界と人類学』 1987年東京講演をまとめたものだが、いま読んでも21世紀の世界のあり方に示唆に富む。レヴィ=ストロースは現代人類学を第三の人文主義(ユマニスム)と位置づけ、15世紀ルネッサンス、19世紀の異国趣味に…

金大中『獄中書簡』

金大中『獄中書簡』 獄中記・書簡の傑作だろう。獄中という限界状況で書かれた獄中記・書簡は其の人間の人格や識見が現れる。ワイルドの獄中記やガンジーやルクセンブルグの獄中からの手紙は傑作だが、金大中の獄中書簡は、東アジアが産んだ名作である。19…

都出比呂志『王陵の考古学』

都出比呂志『王陵の考古学』 日本の前方後円墳や秦・始皇帝、エジプトのピラミッド、古代朝鮮の古墳、ヴァイキングの王墓など古代王陵を、考古学で比較した本で、面白い。世界的一般法則を求めるとともに、その差異も探究する「新しい考古学」の研究成果を取…

トマス・ケンピス『キリストにならいて』

トマス・ケンピス『キリストにならいて』 15世紀ドイツ修道院で一生をすごし黙想と祈祷の修練をしたケンピスのこの本を読むと、私は恥ずかしくなる。とてもキリストにならえないと思う。例えば学問があり聡明と思われようと私の言葉を読むなという「空しい…

ブレイク『ブレイク詩集』

ウィリアム・ブレイク『ブレイク詩集』 ブレイク初期の「無心の歌」「経験の歌」「天国と地獄との結婚」が収められている。彩飾版画の独特の作者でもある。時はフランス革命時代、近代科学の「理性」よりもロマン的詩=想像力を尊ぶが、英国では無名のまま死…

野村弦『グリム童話』

野村泫『グリム童話』 グリム童話は残酷であり、封建世界の遺物で、ナチや強制収容所に繋がる非科学的な昔話であるという物語論に様々な観点をあげながら、そうではないことを論じていて面白い。「ヘンゼルとグレーテル」「白雪姫」「七羽の烏」「いばら姫」…

矢川澄子『わたしのメルヘン散歩』

矢川澄子『わたしのメルヘン散歩』 「本とはふしぎな王国だ」で始まる。おとなしい白い紙の上に驚異を秘め、本の中の住人に生身の友人になるという矢川の「本のなかの子供」を中心にしたメルヘンの紹介である。「ハイジ」の作者シュピーリ、「若草物語」のオ…

広瀬和生『落語評論はなぜ役に立たないか』

広瀬和生『落語評論はなぜ役に立たないのか』 落語評論だけでなく大衆文化、芸能文化全般に当てはまる評論家観が、広瀬氏の本に示されていると思う。「最強の観客」としての評論家論で、芸談や上手い下手をいう資格もないし、良く見聞きし研鑽を積んで、これ…

マルセル・モース『贈与論』

マルセル・モース『贈与論』 1920年代西欧の世界大戦の戦間期に出版された文化人類学の古典だが、いま注目されている本でもある。それは市場原理主義に対し「贈与」交換を、社会主義に対し協同組合主義を提示しているからだ。モースはメラネシア、ポリネ…

クォン・ヨンソク『韓流と日流』

クォン・ヨンソク『「韓流」と「日流」』 韓国人と日本人の境界人というヨンソク氏が書いた文化交流から始まった日韓関係論である。日本で0年代から起こった「韓流」ブームは、いまや「冬ソナ」から「チャングムの誓い」「朱蒙」といった韓国時代劇、さらに…

モース研究会『マルセル・モースの世界』

モース研究会『マルセル・モースの世界』 フランス人類学の父といわれるモースがいま見直されている。この本は東京外語大アジア・アフリカ言語文化研究所の共同研究の成果だが、供犠論、呪術論、贈与論といった文化人類学だけでなく、1920,30年代モー…

筈見有弘『スピルバーク』

筈見有弘『スピルバーク』アメリカ映画は1960年代末にハリウッド撮影所システムが崩壊し、素人の映画監督、俳優によるニュー・シネマ「俺たちに明日はない」「卒業」「明日にむかって撃て」「イージーライダー」という問題提起の映画のあと、70年代に…

岩崎昶『チャーリー・チャップリン』

岩崎昶『チャーリー・チャップリン』 20世紀のシェイクスピアであるチャップリンに関して書かれた本は数多くある。『チャップリン自伝』(新潮文庫・中野好夫訳)もある。映画評論で戦中・戦後した岩崎のこの本は、チヤップリンの人間像と映画を総合的に描…

G/シュミット『政治的なものの概念』

C・シュミット『政治的なものの概念』 政治学者・丸山眞男は、ドイツの政治学者シュミットについて「国家学のうえでは、近代国家の中性化・非政治化的傾向の克服として、政治学の面では議会政治と政治的多元論の論駁としてあらわれた。すべての政治概念は『…

柄谷行人『世界史の構造』

柄谷行人『世界史の構造』 柄谷氏は「交換様式から社会構成体の歴史を見直すことによって、現在の資本=ネーション=国家を超える展望を開く」と述べている。気宇壮大な世界人類社会の分析の上に立って、未来の「世界共和国」へのビジョンを描いている。多く…