2011-03-01から1ヶ月間の記事一覧

エミール・ゾラ『制作』

エミール・ゾラ『制作』 ゾラ自身が述べたように、この小説は芸術家の作品創造の苦しみを描き、革新的な画家クロードが天賦の才を実現できず、最後は自らの作品の前で首を吊って死ぬ物語である。同時に19世紀末フランスの美術界のあり方や、サロンの審査・…

稲葉振一郎『ナウシカ解読』

稲葉振一郎『ナウシカ解読』原発事故が起こって以来、宮崎駿作のアニメ・マンガ『風の谷のナウシカ』に出てくる「腐海」「玉蟲」「巨神兵」「大海嘯(大津波)」「墓所」「蒼き清浄の地」などの言葉が頭の中を駆け巡る。稲葉氏によれば、アニメでは「風の谷…

長谷川英裕『働かないアリに意義がある』

長谷川英祐『働かないアリに意義がある』 アリやハチなど眞社会性昆虫をあつかった本は多くあるが、長谷川氏のこの本は、最新の進化生物学の知見と、数々の実験・観察に裏付けられていて面白い。ハチやアリの群れ社会は、様々な視点で解明されてきている。長…

ウルリヒ・ベック『危険社会』

ウルリヒ・ベック『危険社会』 ウルリヒ・ベック『世界リスク社会論』 ウルリヒ・ベックは現代ドイツの社会学者である。『危険社会』は1986年のチェノブイルリ原発事故が起きたとき出版され、『世界リスク社会論』は2001年9・11米国同時多発テロ…

藤岡靖洋『コルトレーン』

藤岡靖洋『コルトレーン』 1960年代、私は新米記者として宇都宮に居た。その時先輩の筑紫哲也さんがモダンジャズのコルトレーンをよく聴いていた思い出がある。66年来日し平和と愛を説き「聖人になりたい」とも発言、広島・長崎でもジャズを演奏した。…

ダーントン『猫の大虐殺』

ロバート・ダーントン『猫の大虐殺』 18世紀の民衆の社会史・文化史の先駆的な書である。一般庶民の精神世界を文字記録が少ない時代に人類学の手法で解明しようとしている。「農民は民話をとして告げ口する」では、民話が18世紀農民の現実生活の反映と考…

「現代思想 GOOgleの思想」

「現代思想」(2011年1月号)『Googleの思想』 雑誌「現代思想」が特集で「Googleの思想」を組んだ。その中から幾つかの論文を読んだ。まず西垣通氏の「オープン情報社会の裏表」。西垣氏はネットによる直接民主主義がネット専制主義を招く…

石橋克彦『大地動乱の時代』伊藤和明『地震と噴火の日本史』

伊藤和明『地震と噴火の日本史』 石橋克彦『大地動乱の時代』 東北関東大震災の恐ろしさと被災者の悲惨さを感じながら、また多数の死者を悼みながら地震の歴史の本を二冊読む。日本列島を何回も襲う巨大地震は、有史時代から「日本書紀」に記載されたている…

寺田寅彦『柿の種』

寺田寅彦『柿の種』自然科学者で俳人・随筆家でもある寺田の短文集である。今で言うツイッターのようなつぶやきである。寺田といえば天災は忘れた時にやってくるといったと聞く。「寺田寅彦随筆集」(岩波文庫第五巻)の「天災と国防」という昭和9年の文章…

ジョーンズ『ブルース・ピープル』

リロイ・ジョーンズ『ブルース・ピープル』 アフリカン・アメリカン(黒人)のアメリカ史であると共に、ブルースの成立からジャズ、リズム・アンド・ブルースまでの黒人音楽史でもある。ジョーンズはブルースの起源は西アフリカの労働歌に由来すると言う。ア…

バーク『文化史とは何か』

ピーター・バーク『文化史とは何か』 「文化史的転回」といわれ、文化史が盛んになっている。また「カルチュラル・スタディーズ」も民衆文化研究として注目されてきた。文化史の大家バークのこの本は、文化史の全体と問題点を的確に指摘している。ブルクハル…

フランドロワ『アナールとは何か』

I・フランドロワ『「アナール」とは何か』20世紀フランスの新しい歴史学について13人のアナール派の歴史学者が語っていて興味深い。すでにその機関誌「社会経済史年俸」は100年の歴史を持っているのに驚く。マルク・ブロク、リュシアン・フェーブル…

中井久夫『分裂病と人類』

中井久夫『分裂病と人類』精神科医による精神医学的人類史である。壮大な精神医学と歴史人類学の結合である。 中井氏は狩猟民の野生の思考には、獲物を狙う微分的兆候能力に優れ、先取り的妄想や強い動物への安全保障喪失感など分裂病に親和性があるという。…

モーリス・鈴木『日本の経済思想』

テッサ・モーリス・鈴木『日本の経済思想』 副題に「江戸期から現代まで」とあるように熊沢蕃山から佐和隆光まで40以上の経済学者が登場してくる。だが総花式でなく、日本の経済時代状況との関わりで経済思想を扱い、とくに近代では西欧経済学の輸入史観で…

梅棹忠夫『モゴール族探検記』

梅棹忠夫『モゴール族探検記』 50年前にアフガニスタンの奥地にモゴール族を求めて地図にもない山地にわけいり部族たちと暮らした人類学的探検記である。今回復刊したので読んだが、いまアフガンでは戦火が熾烈である。梅棹が探検した地域も戦争に巻き込ま…

渡辺裕『文化史のなかのマーラー』

渡辺裕『文化史のなかのマーラー』 19世紀末から20世紀にかけオーストリアの作曲家グスタフ・マーラーを現代的視点で文化史のなかで論じた本である。かつて柴田南雄『グスタフ・マーラー』(岩波書店)を読み現代音楽の始まりという位置づけと、その背後…