2016-03-01から1ヶ月間の記事一覧

ウッド『アメリカ独立革命』

ゴートン・S・ウッド『アメリカ独立革命』 アメリカ建国史の大家ウッド・ブラウン大名誉教授が書いたアメリカ独立革命史である。ウッド氏の視点は、独立革命は「共和主義」の考え方が、連邦憲法制定までの主導力だったという点にある。自由・資本主義的な革…

小池昌代編著『恋愛詩集』

小池昌代編著『恋愛詩集』 フランスの小説家スタンダールは、『恋愛論』(岩波文庫、杉本圭子訳)で、恋愛は統制のきかない「病」であり「狂気」であるといった。確かにスタンダールのいう「情熱恋愛」はそうだろう。「幻想」として、ザルツブルグの鉱山に枯…

坂口謹一郎『日本の酒』

坂口謹一郎『日本の酒』 「験なき物を思はずは一つきの濁れる酒飲むべくあるらし」(大伴旅人) 日本酒をめぐって、古代から現代までの社会史や文化史を描き、さらに専門の醸造学・微生物学・生化学など科学の目で、日本酒を分析する「横断的な」な名著であ…

マルクス『ドイツ・イデオロギー』

初期マルクスを読む(2) マルクスとエンゲルス『ドイツ・イデオロギー』 初期マルクスの著作は。1845年当時のドイツの思想界(ヘーゲル左派など)の論争が前提となっているから、それを知らないと理解しづらい。この本もフォイエルバッハやシュテイル…

高橋英夫『ミクロコスモスー松尾芭蕉に向かって』

高橋英夫『ミクロコスモスー松尾芭蕉に向かって』 松尾芭蕉論として面白い。高橋氏は近代文学の批評家だが、芭蕉にマクロコスモス(大宇宙)に対応するミクロコスモス(小宇宙)の「両義性」を見ようとしている。 高橋氏は、この「両義性」を「隠」に入り「…

田中宏幸ら『歴史の謎は「ミュオグラフィ」で解ける』

田中宏幸・大城道則『歴史の謎は「ミュオグラフィ」で解ける』 考古学に最新先端技術を使い、古代遺跡をみつけたり、南米・ナスカの地上絵の全貌(山形大学など)を見つけ出したりする。 水中考古学では、水中音波探知機や金属探知機、さらにロボットを使う…

菅原孝標女『更級日記』

菅原孝標女『更級日記』 平安朝末期の中流貴族の娘・菅原孝標女(1008―1060年)の日記は、女の一生を綴った自分史である。夫・橘俊通が58歳で亡くなったあと書いたと見られ、自分も2年後に死んでいる。 最後は、「をばすて」となっており、夫なき…

マルクス『ユダヤ人問題によせて』

初期マルクスを読む(1) マルクス『ユダヤ人問題によせて』『ヘーゲル法哲学序説』 若きマルクスが1844年に書いた著作である。今読んでも、その力強い批判精神が躍動している。人間の解放を訴え、観念の理論でなく、実践による社会変革を訴えていて痛…

クライスト『こわれがめ』

クライストを読む(2) 『こわれがめ』 クライストの喜劇作品である。裁ばく裁判官が裁かれる者であり、いかに欺瞞で取り繕うとしているかを暴く面白さがあるが、その底にはクライストの人間相互不信や、官僚制度のいんちきさ、真実の宙づりなど不条理性が…

クライスト『チリの地震』

クライストを読む(1) 『チリの地震』 『O侯爵夫人』 クライスト(1777―1811年)は、ドイツの不遇な変わり種の小説家、劇作家である。ゲーテ嫌い、ナポレオン憎悪で、古典主義とロマン主義の狭間におり、34歳で人妻と拳銃心中した。カント哲学…

阿川尚之『憲法で読むアメリカ史』

阿川尚之『憲法で読むアメリカ史(全)』 アメリカ合衆国憲法は独立以来200年に27回の憲法修正がおこなわれたが、建国以来大筋は変わっていない。阿川氏は歴史を丹念にたどり、連邦最高裁の在り方や判決をたどり、その変化を明らかにしていく。 判決で…

『現代小説クロニクル(1995−99年)

『現代小説クロニクル(1995―1999年)』 1990年代は「失われた20年」の始まりの時代であり、パソコン、ネット、携帯の大衆化した時期である。阪神淡路大震災、オウム真理教・サリン事件がおこった不条理、不透明な不安が深い時代だった。小説…

田口卓臣『怪物的思考』

田口卓臣『怪物的思考』 18世紀啓蒙期フランスの思想家・ディドロを、初期代表作「自然の解明に関する断想」によって、田口氏は、実証的科学の思想から逸脱し、例外、偏差などの特異のもので体系的「大きな物語」を解体していく「怪物的思考」に焦点を集め…

岡義武『独逸デモクラシーの悲劇』

岡義武『独逸デモクラシーの悲劇』 政治史の岡義武(1902−1990年)が戦後すぐの1947年に書いたヒットラーは何故民主主義から生まれたかという古典的名著である。 この本ではワイマール憲法の民主主義体制で、ヒットラーが登場する分析を描くが、…

ヴォリンガー『ゴシック美術論』

ウィルヘルム・ヴォリンガー『ゴシック美術論』 ドイツの美術史・ヴォリンガー(1881−1965年)が,中世ゴシック美術を論じた古典的芸術論である。ヴォリンガーは、芸術を人間が外界と調和的・幸福な有機的自然に自己を移しいれる「感情移入」と、外…

鈴木直『マルクス思想の核心』

鈴木直『マルクス思想の核心』 新自由主義と金融危機の時代に、マルクスが読み直されている。鈴木氏は、西欧近代の啓蒙思想の文脈の中で、経済的・政治的解放だけでなく、「人間的解放」という類的存在の視点で、マルクス思想を捉え直そうとしている。 鈴木…

乙武洋匡『五体不満足』

乙武洋匡『五体不満足 完全版』 私は、身障者手帳4級を交付された。これまでほとんど関心がなかった障害者を、見つめ直そうと思った。福祉社会の恩恵が、数多くあるのも知った。乙武氏の本を、2001年発行の完全版で読んだ。かつてベストセラーになった…

『現代小説クロニクル(2010−2014)』

『現代小説クロニクル(2010―2014)』 この時期は、東日本大震災・福島原発事故、さらに安保法制の集団的自衛権、テロの時代に、日本に取り付いている。 小説では、この巻に収録されている短編は、男性作家と女性作家では分裂しているように思う。男…

小泉義之『ドゥルーズの哲学』

小泉義之『ドゥルーズの哲学』 フランスの思想家・ドゥルーズ(1925―1995年)の哲学を、小泉氏は分子生物学誕生による時代に、新しい生命化学を先駆的に示した哲学として構築している。ドゥルーズ『差異と反復』は1968年に書かれている。同一性…

隈研吾・山口由美『熱帯建築家』

隈研吾・山口由美『熱帯建築家』 いま注目される20世紀スリランカの建築家ジェフリー・バワ(1919―2003年)を、代表作アジアン・リゾートのホテル建築14の見事な写真で紹介していて、スリランカやバリにいるような楽しさを与えてくれる。 ル・コ…

『現代小説クロニクル2005−2009』

『現代小説クロニクル2005―2009』 日本文藝家協会編の05−09年の短編集である。解説で川村湊氏がいうように、ネット・ブログ小説、携帯小説の時代であり、動画が始まった時である。川村氏はそうしたなかで若い小説家の書き方もかわってきたという…

『現代小説クロニクル』

『現代小説クロニクル2000−2004』 日本文藝家協会編の日本現代の短編小説のアンソロジーである。時代が見える。選んだ基準はわからないが、21世紀に入った日本小説の特徴がでている。人間の家族や恋人などの「愛」と「つながり」がテーマとなって…

シェルー『アンリ・カルティエ=ブレッソン』

クレマン・シェルー『アンリ・カルティエ=ブレッソン』 20世紀最大の写真家・カルティエ=ブレッソンを論じた本である。「決定的瞬間」という写真集で有名だが、ブレッソンは「写真は永遠のなかで、目もくらむような一瞬をとらえるギロチンの刃だ」という…

田中浩『ホップス』

田中浩『ホップス』 17世紀英国の市民革命時代に、古典的名著『リヴァイアサン』を書いた哲学者・ホップスは91歳まで生きた。ほぼ同年齢の高齢の田中一橋大名誉教授が、ホップス思想の書を書くのはやはり凄い。 近代国家論の祖といわれ、人間個人の自己…

立川談志『新釈落語噺』

立川談志『新釈落語咄』 落語家談志の落語論である。太宰治の『お伽草子』にならって、落語「粗忽長屋」から「妾馬」まで20編を新解釈で書いていて面白い。文章を読みながら、生きていたときの談志の高座でのしゃべりを思い出したりする。声が聞こえてくる…

シルバータウン『なぜ老いるのかなぜ死ぬのか進化論でわかる』

シルバータウン『なぜ老いるのかなぜ死ぬのか進化論でわかる』 老化や死は生物にとつて謎だ。こうしたものを抱え込んで進化してきたのは何故かを、英国の進化生態学者シルバーマン氏が解明している。老化や死が生物的な矛盾や両義性を持っているから、決して…