2013-08-01から1ヶ月間の記事一覧

柄谷行人『哲学の起源』

柄谷行人『哲学の起源』 柄谷氏は前著「世界史の構造」で、世界史をマルクスのような「生産様式」ではなく、「交換様式」による発展として捉えた。遊動民社会の贈与・返礼の互酬制交換様式、略取・再分配の支配保護の交換様式、商品交換の貨幣交換様式、つま…

「泉鏡花を読む」(その4)『夜叉が池』『天守物語』 

「泉鏡花を読む」(その4) 『夜叉が池』『天守物語』鏡花の戯曲は、民話的寓話の劇が多い。自然も擬人化され、その人間を相対化する妖怪も登場する。人間は卑小な存在であり、富や権力をもつ人々の既得権益の反自然性、反倫理性が批判されている。 『夜叉…

「泉鏡花を読む」(その3)草迷宮

「泉鏡花を読む」(その3) 『草迷宮』鏡花の幻想小説である。幻想とはなにか。現実世界と夢世界の宙づりの、両義性のある中間地帯に幻想は生まれる。現実と夢という超現実がない交ぜに現れる。宙ぶらりんは迷宮のような世界である。『草迷宮』の物語は、初…

「泉鏡花を読む」(その2)反戦小説

「泉鏡花を読む」(その2) 反戦小説 鏡花は第一次日中戦争(日清戦争、1894年から)を扱った反戦小説をいくつも書いている。太平洋戦争(第二次日中戦争)中に刊行された「鏡花全集」には、これらの作品は収録されていない。愛国心という集団心理への…

泉鏡花を読む(その1)婦系図

「泉鏡花を読む」(その1) 『婦系図』 この小説は「ハイカラなピカレスク(悪漢)小説」と述べたのは、種村季弘である。私には、デユマの「モンテクリスト伯」のような「倍返し」の復讐譚とも読めるし、スチーブンスンの「ジキルとハイド」の二重性格の物…

宮下規久朗『フェルメールの光とラ・トゥールの焔』

宮下規久朗『フェルメールの光とラ・トゥールの焔』 私はダ・ビンチの「洗礼者ヨハネ」を見るといつも鳥肌が立つ。暗闇から浮かび上がってくる魅惑の微笑みを浮かべた両性具有のヨハネの半身裸体の姿。画面に引き込まれそうで怖い。宮下氏によると、ダ・ビン…

白井聡『永続敗戦論』

白井聡『永続敗戦論』 第二次世界大戦でポッダム宣言を受諾してから「戦後」が始まったが、「終戦」なのか「敗戦」なのかという言葉の問題でなく、戦後の構造的問題として「敗戦の否認」を指摘するのが、白井氏の立場である。国内、アジアには敗戦の否認をし…

林浩平『ブリティッシュ・ロック』

林浩平『ブリティッシュ・ロック』 1960年代以降にイギリスで誕生したロックは「ブリティッシュ・ロック」といわれ、70年代に世界を席巻した。ビートルズから、ローリング・ストーンズ、ピンク・フロイド、キング・クリムソンなどは、多くの信者を熱狂…

フィンチ『ポップ・アート』

クリストファー・フィンチ『ポップ・アート』 フィンチ氏によれば、ポップ・アートは、他の現代美術のような目的と業績を目指す芸術活動ではないという。受容の芸術であり、これまで美術の世界で除外されてきた日常世界でのオブジェ(事物、日用品、廃品まで…

ウォード『恐竜はなぜ鳥に進化したのか』

ピーター・D・ウォード『恐竜はなぜ鳥に進化したのか』 二酸化炭素の濃度の上昇による地球温暖化状態の到来という高温の夏を過しながら、ウォードの本を読むと、その壮大な進化の歴史が迫力をもって迫ってくる。ウォード氏の仮説は、進化も絶滅も、酸素濃度…

久保田淳『富士山の文学』

久保田淳『富士山の文学』 富士山を扱った文学作品を「万葉集」から、武田泰淳「富士」武田百合子「富士日記」まで網羅した日本文学史である。久保田氏は、前にも「隅田川の文学」で隅田川にかかわる文学を描いているから、地域空間の視点からの文学史に造詣…

ジェイコブセン『ハチはなぜ大量死したのか』

ローワン・ジェイコブセン『ハチはなぜ大量死したのか』 21世紀になってアメリカやヨーロッパの北半球で四分の一のハチが消えた。巣箱を開けても働きハチはいない。残されたのは女王蜂と蜂蜜だけ。この現象は「蜂群崩壊症候群」と名付けられた。ジェイコブ…

武藤浩史『ビートルズは音楽を超える』

武藤浩史『ビートルズは音楽を超える』 英文学者が、イギリス文化史の土壌からとらえた面白いビートルズ論である。ビートルズをイギリス20世紀の階級横断的な大衆教養主義の新興メディアの影響から捉えようとしている。中産階級というよりは、日本でも一時…

堀辰雄『風立ちぬ』

堀辰雄『風立ちぬ』 宮崎駿監督のアニメ「風立ちぬ」に刺激され、堀辰雄の小説を読む。この小説は「愛と死」の物語とも、「喪失と再生」の物語とも読める。筋は単純で、妻(許嫁かも)が病魔に犯され、八ヶ岳の見える高原の療養所にはいり、夫が付きそい看病…

小山真人『富士山』

小山真人『富士山』 信仰の対象と文化の源泉として世界文化遺産に富士山が決まり、登山者も増えている。だが自然遺産としての富士山がなおざりにされているという危機感をもった火山学者・小山氏の本は、富士山の形成史から説き起こしながら、富士山の風景論…