2011-01-01から1年間の記事一覧

森山徹『ダンゴムシに心はあるのか』

森山徹『ダンゴムシに心はあるのか』 我が家の小さな庭にもダンゴムシがいる。鉢植えを持ち上げると逃げ出す。触ると丸くなる。森山氏はこのダンゴムシに様々な行動実験をし、大脳がなくても「心」があることを実証しようとする。ダンゴムシの原意識に迫る面…

藤田令伊『フェルメール」

藤田令伊『フェルメール 静けさの謎を解く』 このところオランダ17世紀の画家フェルメールの人気が高い。日本でも展覧会がよく開かれ、フェルメール論も続々出版されている。小林頼子氏はフェルメールが愛される理由を①作品数が少ない希少性がある②光学画…

ザミヤーチン『われら』

ザミャーチン『われら』 1920年代ロシア(当時のソ連)で出版されたこの本は様々な読み方があるだろう。反ソ連の全体主義的計画経済の批判の書として、また個人崇拝批判の小説とも読める。現実と幻想が綯い交ぜになった魔術的リアリズムの前衛小説とも読…

大岡信『詩への架橋』

大岡信『詩への架橋』 詩人・評論家大岡氏の「詩と真実」(ゲーテ)であり「若き芸術家の肖像」(ジョイス)である。戦後すぐ中学生時代の同人誌「鬼の詞」から大学時代の同人誌「現代文学」まで読んだ詩や詩集から詩を読む体験の意味と自らが詩人になってい…

飯田哲也『エネルギー進化論』

飯田哲也『エネルギー進化論』 福島原発事故以後、脱原発のエネルギーシフトの方向が強まっている。飯田氏はエネルギー転換の唱道者であり、実践者でもあり、原発から自然エネルギー転換の活動家であるが、それだけでなく、大規模集中から小規模分散へ、中央…

ベラ・バラージュ『視覚的人間』

ベラ・バラージュ『視覚的人間』 1920年代映画の勃興期にだされた映画論の古典であり、映画という新興芸術への熱い思いが論じられている。これからは映画なしには文化史、民族心理学は書けないともいう。印刷術による読まれる精神に見える精神に変わり、…

松戸清祐『ソ連史』

松戸清祐『ソ連史』 ソ連の興亡史は20世紀視現代史の大きな主題だが、いい通史がなかなかない。ロシア革命から1991年のソ連解体までの70年間の歴史は。社会主義国家という実験であり、松戸氏によれば、ヨーロッパ近代の「対抗文明・対抗国家」だった…

鎌田浩毅『地学のツボ』

鎌田浩毅『地学のツボ』東日本大震災後、地球科学である地学を学びたくなった。鎌田氏によれば地学は20世紀になりコペルニクス的転換にあり、最先端の科学である。だが日本の高校生の地学履修率は7%であり、地震・火山・気象など日常の自然災害の列島に…

陳舜臣『中国画人伝』

陳舜臣『中国画人伝』 この本は13世紀元時代から20世紀初の清時代の中国の画人47人を扱っていて中国美術史ともいえる。黄公望、王蒙、文徴明、八大山人、石涛、金農、呉昌碩、斉白石、除悲鴻などの画人の人生や画風が紹介されている。 董其昌の「尚南…

サンデル『これから正義の話をしよう』

マイケル・サンデル『これから「正義」の話をしよう』 市場勝利主義の時代、市場化できない人間の市民生活の価値から市場の限界を考え、正義と善き生による「共通善に基づく政治」を探究するのが、サンデル氏の哲学である。サンデル氏の語り口が、現代が抱え…

円地文子『源氏物語私見』

女性作家と「源氏物語」(その③) 円地文子『源氏物語私見』 円地氏はこの本では、桐壺、藤壺、六条御息所、朧月夜など、当時最高貴族の女性が、行動の自由を束縛されている環境を破って、自分の意志や自我を通す強さが強調されている。桐壺は周囲からの嫌が…

田辺聖子『源氏紙風船』

女性作家と「源氏物語」(その②) 田辺聖子『源氏紙風船』 「源氏酔い・源氏狂い」と自称する田辺氏のこの本では、恋と愛の専売特許をもつ宝塚歌劇と似通うといい、文章も劇画風(夕顔が物の怪に襲われる場面や源氏が須磨に配流の時暴雨風にあう場面など)も…

瀬戸内寂聴『寂聴と読む源氏物語』

女性作家と「源氏物語」(その①)瀬戸内寂聴『寂聴と読む源氏物語』 瀬戸内氏によれば、「源氏物語」にはたくさんの恋愛が書かれているが、突き詰めると人間の孤独と愛の激しさ、喜び、むなしさがあるという。瀬戸内氏は、誰かを愛したら愛した瞬間に苦しみ…

本郷和人「謎とき平清盛』

本郷和人『謎とき平清盛』 題名とは違い謎ときというよりも、古代国家の崩壊と中世にいたる「史論」をデッサンしている本格的歴史書だと思う。確かに清盛が白河上皇の落胤なのかとか、平家は武士か貴族かなど謎ときの話題にも迫っているが、それも本郷氏の古…

ウォーカー『スノーボール・アース』

ガブリエル・ウォーカー『スノーボール・アース』 大陸移動説に匹敵する地球史の科学革命としていま「全地球凍結」仮説が論争になっている。5億年から7億年にかけて全地球が氷も世界になり凍結していたが、その氷が解けたときカンブリア紀の多細胞生物の多…

松沢哲郎『想像するちから』

松沢哲郎『想像するちから』 副題が「チンパンジーが教えてくれる人間の心」とあるように、チンパンジーの認知科学から見た人間論である。松沢氏は京都大・霊長類研究所で「アイ・プロジエクト」というチンパンジーの心の研究をし、またアフリカ・ギアナで野…

折口信夫「歌の話 歌の円寂する時』

折口信夫『歌の話 歌の円寂する時』 釈迢空という歌人であった国文学者・折口信夫の和歌論である。「歌の話」では和歌の発生を神の信仰から述べ、神のものがたり(諺)にたいし、人間の「かけあい」から歌が出てきたという。 「女流短歌史」でも古代の祭りの…

堀田善衛『方丈記私記』『故園風来抄』

堀田善衛『方丈記私記』 堀田善衛『故園風来抄』 堀田は『方丈記』を古典鑑賞でも解釈でもなく「経験」から読んだという。安元3年若き鴨長明が見た京都大火を、堀田は1945年3月10日の東京大空襲の経験から読んでいる。何も無い焼け跡の平べったい場…

田中修『ふしぎな植物学』

田中修『ふしぎの植物学』 草食男子とか植物人間とか植物はかんばしくない表現に使われる。だがこの本を読むと生態系の食物連鎖の根源に植物があり、その生物としての知恵や生きる工夫は見事なものであることがわかる。人口70億人を超えた地球で食糧は不足…

塚原文『20世紀思想を読み解く』

塚原史『20世紀思想を読み解く』 「人間はなぜ非人間的になれるか」を中軸として20世紀思想を考えようとした本である。前衛芸術(アヴァンギャルド)から全体主義を通って、高度消費社会とグローバル世界、メディア(現実とイメージの逆転)を横軸にし、…

ゴーゴリ・魯迅・色川武大『狂人日記』

ゴーゴリ『狂人日記』 魯迅『狂人日記』 色川武大『狂人日記』 三冊の小説『狂人日記』を読んだ。ゴーゴリと魯迅は強迫妄想が強く、色川は幻覚・幻聴が狂気とともに現れる。ゴーゴリと魯迅は社会風刺のための狂人だが、色川は家族や恋人など対人関係の葛藤で…

デュビュイ『ツナミの小形而上学』

ジャン・ピエール・デュピュイ『ツナミの小形而上学』 フランスの科学哲学者・デュピュイは、人類における「有限化した未来」の破局の到来が、悪を働くシステムが人々から独立に存在しているからだと考え、「未来倫理」を重視する。自らを「覚醒した破局論」…

ヘルマン・ヘッセ『シッタルダ』

ヘルマン・ヘッセ『シッダールタ』 ヘッセが第一次世界大戦後、戦争犠牲者慰問の仕事で、ノイローゼになり、スイスでヒッピー的生活をしていた時の宗教体験をもとに書かれた。「インドの詩」という副題がついている。悟りにたするまでの求道者の体験、ただ一…

宮崎駿『本のとびら』

宮崎駿『本へのとびら』 アニメ映画監督・宮崎さんの原点には児童文学があることがよくわかる本である。大学時代に児童文学研究会にはいっていたのも始めて知った。この本は戦後児童文学者・石井桃子さんがつくった岩波少年文庫からお薦めの50点を選んでコ…

後藤和久『決着 恐竜絶滅論争』

後藤和久『決着!恐竜絶滅論争』 2010年に地質、生物学、地球物理学者ら41人がメキシコ・ユカタン半島に6550万年前白亜紀末に小惑星が衝突したことが、恐竜絶滅の引き金になったと科学誌「サイエンス」に発表、恐竜絶滅論争決着宣言といわれた。後…

石川創『クジラは海の資源か神獣か』

石川創『クジラは海の資源か神獣か』 前半は獣医師としてまだ謎の多いクジラの生態が生物学的に叙述されている。ところが、後半になると南極海調査捕鯨の調査船団長として環境保護団体グリーンピースやシーシェパートとの激闘が語られ、切迫した捕鯨戦争の実…

長谷川裕子『なぜから始める現代アート』

長谷川裕子『「なぜ?」から始める現代アート』 長谷川氏によれば、現代アートは歴史を経る中で分離してしまった「目」と「体」をつなぐ機能と、いろいろなメディウムと縦横無尽につながる隙間装置の役割を持つという。ホワイトキューブの美術館額縁からでた…

アガンベン『開かれ』

ジョルジュ・アガンベン『開かれ』 イタリアの哲学者アガンベンはかって『ホモサケル』(以文社)で「死を政治化する」で脳死を取り上げ「身体の国有化」による政治権力による死の認定を「生権力」として論じていた。いまや臓器移植、遺伝子操作、クローン、…

池田譲『イカの心を探る』

池田譲『イカの心を探る』私はイカ刺し、塩辛が好きだ。そのイカが発達した神経系と巨大脳の持ち主で、イルカやクジラなみの「海の哺乳類」(イカは貝殻を脱ぎ捨てた無脊髄動物のタコと同じ頭足類)といわれると驚く。賢く社会性をもち、学習と記憶も備えて…

本川達雄『生物学的文明論』

本川達雄『生物学的文明論』 本川氏は前著『ゾウの時間ネズミの時間』(中公新書)で、動物のサイズが違うと速さが違い、寿命が違い、時間の流れる速さが違ってくるが、一生の間に心臓が打つ回数や体重あたりのエネルギー使用量は同じだという「サイズの生物…