2014-08-01から1ヶ月間の記事一覧

目崎徳衛『史伝 後鳥羽院』

目崎徳衛『史伝 後鳥羽院』 歴史家・目崎は、承久の乱(1221年)を弥生以後約千年間続いた西日本優位と公家政権を覆して、以後七百年間の東日本優位の武家政権を実現した「天下分目の合戦」と位置づけている。その敗者で隠岐の島に流罪のまま亡くなった…

野田正彰『喪の途上にて』

野田正彰『喪の途上にて』 この本を読んでいる時、広島豪雨の土砂崩れで多くの人々が亡くなった。愛する人を亡くした遺族の悲哀は如何ばかりか。私は20年前の野田氏の本を読みながら、涙が止まらなかった。愛する妻を、最近がんで亡くした喪の状況にあるた…

四方田犬彦『日本映画110年』

四方田犬彦『日本映画110年』 日本はナイジェリア、インドに続く巨大な映画製作国という。東日本大震災以来200本以上のドキュメンタリー映画が上映された。フィルムからデジタルデータへの変化、インターネット配信とDVD購入により映画作品は、いまや…

加古陽治編著『真実の「わだつみ」』

加古陽治編著『真実の「わだつみ」』 日本戦没学生記念会編『きけわだつみのこえ』 1947年に戦没学生の手記75人を集めた『きけわだつみのこえ』は、岩波文庫でいま新版となり27刷のロングセラーである。その巻末にシンガポール・チャンギー刑務所で…

高銀・吉増剛造『「アジア」の渚で』

高銀・吉増剛造『「アジア」の渚で』 韓国の詩人・高銀と日本の詩人・吉増剛造の対話と往復書簡を収録したもので、10年前に出版されたが、いまでも重要な示唆に富む本である。高銀氏は、朝鮮戦争時に虐殺を目撃し、僧侶になるが還俗し民主化運動で投獄・拷…

松岡心平『宴の身体』

松岡心平『宴の身体』 日本中世史家が、一遍の踊り念仏、バサラ、悪党、田楽猿楽、一揆、勧進能といった忠誠芸能の身体論を論じ、世阿弥の身体論を掘り下げている。力動的で、スピーディな早業の躍動する「宴の身体」から、世阿弥による肉体の輝きを否定し、…

笠井潔・白井潔『日本劣化論』

笠井潔・白井聡『日本劣化論』全共闘世代の笠井氏と20歳年下の白井氏による、現代世界・日本社会についての徹底討論である。戦後史を踏まえた二人の討論は、あまり対決点はないが、現代日本を批判し、いかに劣化社会に成ってきているかが良く分かる。 21…

ブルガンら『遺伝子の帝国』

ブルガンとダルリュー『遺伝子の帝国』 ハリウッド女優アンジェリーナ・ジョリーが、遺伝子検査で乳がんの陽性診断がでたというので、予防で健康な乳房を切除した。遺伝子診断は、個人の指紋になり、祖先の出身地域、行動、様式、健康状態、生殖前診断、子供…

E・フランクル『夜と霧』

E・フランクル『夜と霧』 アウシュビツで、両親、妻、子どもを殺され、自らも収容所生活から奇蹟の生還をしたウィーンのユダヤ人精神科医・フランクルの体験記だが、20世紀を代表する本の一つである。レーヴィの本が社会政治的な考察による証言とすれば、…

レーヴィ『溺れるものと救われるもの』

プリーモ・レーヴィ『溺れるものと救われるもの』 アウシュビッツ生還から40年、自死する1年前(1986年)にイタリア・ユダヤ人作家で化学者のレーヴィが、強制・抹殺収容所の記憶の風化のなか、その苦悩を書き綴った古典的名著である。いまイスラエル…

空本誠喜『汚染水との闘い』

空本誠喜『汚染水との闘い』 安倍総理は2013年国際オリンピック委員会で、福島原発の核汚染水は原発周辺に限定されコントロールされているといい、東京五輪招致を勝ち取った。だが、空本氏は、敷地内に地下水と雨水が流れ込み、建屋の封じ込めが一部壊れ…

坂口哲啓『書簡で読み解くゴッホ』

坂口哲啓『書簡で読み解くゴッホ』 私はかってゴッホと弟テオの厖大な書簡集(『ゴッホの手紙』岩波文庫全3冊)を読み、兄弟愛とゴッホの芸術観・人間観を知ったつもりであった。だが、今回坂口氏のさらに広く書簡全集を丹念に読み、ゴッホの作品創造の根底…

横手慎二『スターリン』

横手慎二『スターリン』 私が学生時代には、「反帝、反スタ」と云われ、スターリンは社会主義を堕落させたという見方があった。横手氏は、ソ連崩壊後に公開された史料を使い、非道の独裁者とみる人と、スターリンを評価する人がいまも多いのは、何故かを解こ…

金明仁『闘争の美学』

金明仁『闘争の詩学』 現代韓国文学はあまり読んでいない。金芝河や黄翛暎を数冊といったところだ。今回文芸評論家・金明仁氏の『闘争の文学』を読み、80年代の民主化運動のエネルギーが、土台としての痛みを持ち、なお生きていることを感じた。金氏は、ソ…

宮地尚子『トラウマ』

宮地尚子『トラウマ』 心の傷、PTSD(心的外傷後ストレス障害)という病名と、そのための「心のケア」が、いまや当たり前に使われている。精神科医師で医療人類学の宮地氏が、トラウマという現象を多角的に説明し、被災者や被害者の傷つきをいかに癒すかの「…

山極寿一『「サル化」する人間社会』

山極寿一『「サル化」する人間社会』 人類学・霊長類学者で中央アフリカにおいて、長年ゴリラの生態研究に取り組んできた山極氏は、サル、チンパンジー、ゴリラの生態社会から家族とは何かを究明しようとしている。前著の学術書の『家族進化論』(東京大学出…

大泉一貫『希望の日本農業論』

大泉一貫『希望の日本農業論』 1970年代から日本農業は衰退を辿り、農産物産出額の減少、輸出の少なさ、農家減少、目指す農業が不明確などで、世界に遅れをとった。大泉氏の論は明解である。稲作偏重農政が衰退の原因だと見る。それが農業を成長産業にし…

正高信男『音楽を愛でるサル』

正高信男『音楽を愛でるサル』 正高氏はサル学者であり、心理学者である。前に『ケータイを持ったサル』(中公新書)を読み、携帯電話でしか繋がれない「関係できない症候群」を、サル化している社会として家族論・コミュニケーション論として論じ、面白かっ…