2015-08-01から1ヶ月間の記事一覧

鎌田繫『イスラームの深層』

鎌田繫『イスラームの深層』 イスラームにおける「神」とは何かを、イスラーム神秘思想から考え抜いたのがイスラーム学者鎌田氏のこの本である。深遠な宗教思想について述べているから難しいが、文章は平易であり、じっくりと読むと理解できる。 日本ではイ…

金沢百枝『ロマネスク美術革命』

金沢百枝『ロマネスク美術革命』 西欧史では、12世紀ルネッサンスといわれる。農業の発展により生産力がたかまり、温暖化もあり多くの村が開発されていく。領主の城や教会堂の建築ブームが起こる。このとき聖堂を設計し彫刻した美術を「ロマネスク美術」と…

上田秋成『雨月物語』

上田秋成を読む(1) 上田秋成『雨月物語』 『雨月物語』は怪異小説だという。そうだろうか。人間が欲望の執着により、鬼や幽霊になる執念を、超自然的に描いているシュールな物語なのだ。人間の非合理的な情念の恐ろしさという面をみれば、恐怖小説だとも…

バレンボイム/サイード『音楽と社会』

バレンボイム/サイード『音楽と社会』 20世紀末から21世紀にかけておこなわれた、指揮者バレンボイムと比較文学者サイードとの対談であり、名著である。バレンボイムは、ユダヤ人でアルゼンチンに生まれてイスラエル国籍で、ベルリンに住む。 サイード…

佐野貴司『超巨大火山』

佐野貴司『超巨大火山』 地球は、一つの超大陸パンゲアが分裂し移動していまの大陸群に分かれたという大陸移動説は、20世紀の「地動説」である。始めに唱えたドイツの地球科学者ヴェーゲナーの『大陸と海洋の起源』(1929年刊、岩波文庫)は、現代の古…

関雄二編『神殿と権力の形成』

関雄二編『神殿と権力の形成』 日本の考古学は、西アジア(メソポタミア)や南米ペルーなどの50年以上の発掘調査で、目覚しい成果を挙げてきた。最近では、南米ペルーのアンデス調査団の発掘は、世界的に注目されている。この本では西アジアとアンデスの古…

山崎裕人『がん幹細胞の謎にせまる』

山崎祐人『がん幹細胞の謎にせまる』 私はがん患者だから、がんに関する本に興味がある。がん遺伝子が発見され、さらにがん抑制遺伝子、がんシグナル伝達系まで、解析されて、次第にがん研究は進展してきている。 2015年には、国立がん研究センターは、…

植島啓司『伊勢神宮とは何か』

植島啓司『伊勢神宮とは何か』 年間1千万人が参拝するという伊勢神宮を、宗教人類学者・植島氏が伊勢志摩をフィールドワークした伊勢神宮論であり、面白い。伊勢神宮は内宮外宮だけでなく、別宮、末社など125社があるが、その周辺を植島氏が歩き回り、伊…

ブレヒト『ガリレイの生涯』

ブレヒトを読む(3) ブレヒト『ガリレイの生涯』 ブレヒトは、「戦争はなによりも科学を促進する。なんという機会なのだろう この戦争という機会は、火事場泥棒ばかりではなく、発明家も生むのである」と、1947年の「ガリレイの生涯」のまえがき草案で…

ブレヒト『アンティゴネ』

ブレヒトの劇(2) ブレヒト『アンティゴネ』 ナチス第三帝国の崩壊後にブレヒトが、ギリシア悲劇ソポクレス原作・ヘルダーリン独訳の『アンティゴネ』を改作した劇で、傑作である。原作とはかなり変わっているとこもあるが、大筋は踏襲している。 テーバイ…

ブレヒト『肝っ玉おっ母とその子どもたち』

ブレヒトの劇(1) ブレヒト『肝っ玉おっ母とその子どもたち』 20世紀ドイツの劇作家ブレヒトが第二次世界大戦開戦前に、ドイツ30年戦争を題材にした「反戦劇」である。「反戦」といっても、ブレヒトの「異化作用」の劇だから、戦争のなかでそれととも…

川村静志『民俗学ー終焉からの再起動』

川村静志『民俗学―終焉からの再起動』(「歴博」第191号) 国立大法人化以後、人文科学系の予算は削減され、さらに統廃合の動きが文科省でいわれる。民俗学も危機にある。歴史学者・網野善彦は、高度成長以後の日本の社会の大変革を言っていたが、いま少…

納富信留『プラトンとの哲学』

納富信留『プラトンとの哲学』 現代思想ではプラトン思想に批判が強い。ニーチェは、生の哲学により、強者のソフィスト的語り口でプラトンの価値転倒を批判する。カール・ポパーは、「プラトンの呪縛」として、全体主義の国家論の先駆けと批判する。果たして…

原民喜『ガリバー旅行記』

原民喜を読む(3) 原民喜『ガリバー旅行記』 原は自殺する1年前から、次世代の子供に遺書として『ガリバー旅行記』を翻訳していた。広島被爆から5年。慶応大で英文学を学んで、英語教師をしていたから翻訳はお手の物だったろう。今回、平井正穂『ガリヴ…

ソール『帳簿の世界史』

ジェイコブ・ソール『帳簿の世界史』 歴史学と会計学専門のソール・南カリフォルニア大教授は、18世紀フランスで、財務総監コルベールからルイ14世は、収支や資産が記入された帳簿を受け取りながら、その習慣をやめたため、フランスを破綻させたところか…

森由美『古伊万里』

森由美『古伊万里』 磁器・古伊万里が好きだ。その二重性。実用の食器としての道具性と、デザインの芸術性の二重性。中国・朝鮮の意匠や技術の導入と、国産文化としての二重性、それが西欧のマイセンやウェッジウッドの西欧磁器への影響。海外輸出品と国内需…

『原民喜戦後全小説』

原民喜を読む(2) 『原民喜戦後全小説』 原は、広島原爆の罹災を扱った小説『夏の花』で有名である。だが、この原の「戦後全小説」を読むと、原は散文詩人であり、自己の心象風景を綿密に書く作家だったと思う。死者や、家族や広島という故郷の追憶などは…

ペトラルカ『わが秘密』

ペトラルカ『わが秘密』 14世紀イタリアの詩人ペトラルカの散文対話編である。中世とルネッサンス期の両義性をもち、近代モラリズムの先駆的著書である。著者らしき人物と「告白」を書いた教父アウグティヌスとの対話との形式をとり、キリスト教の告解や懺…