加藤晴久『ブルデユー 闘う知識人』

加藤晴久ブルデュー 闘う知識人』

     20世紀フランスの社会学者・ブルデュー(1930−2002年)の批判的知識人としての生き方や思想を、描いた本である。加藤氏はブルデユーと長い間親交があったためか、単なる紹介ではなく、その人間性に迫っていて興味深い。パリに留学も長い加藤氏の20世紀フランス知識人のあり方としても読める。
     ピレネー山脈の小農村に生まれたブルデユーは、パリの名門校ルイ・ル・グラン高等中学校から、超エリートのエコル・ノルマルに入学する。サルトル、ポンティ、フーコーデリダといった20世紀思想家を輩出している。ブルデューは哲学を修めたが、1955年アルジェリア戦争に兵卒として従軍する。
    加藤氏の本で面白いのは、地方出身であることと思想の関係や、超エリートの哲学者が植民地アルジェリアでいかに変貌し、「社会学」という現実の「場」における調査研究から考えることになったか、明確に書いているからだ。
    ブルデユーが、1968年にパリ5月革命を通して、とうとう1982年には最高学府コレージ・ド・フランスの教授に上り詰める。20世紀フランス知識人のあり方が、サルトルや生涯のライバル・デリダとの関係から述べられている。フランスの知識界や思想界の特殊性がわかる。
    ブルデュー社会学の基本的性格も明晰に論じている。「ハビトゥス」(個々の階級や集団に特有の性向・傾向)や、「文化資本」や「象徴資本」などの関係論的理論が手際よく紹介されていて、一般市民にもわかりやすい。
    加藤氏によれば、ブルデユーの本では『ディスタンクシオン』と『国家貴族』(いずれも藤原書店刊)は20世紀社会学の10冊にはいるという。また、『21世紀の資本』(みすず書房)を書いたトマ・ピゲティは、ブルデユーの影響が大きいと加藤氏は指摘している。
    私が加藤氏の本が面白かったのは、ブルデユーを彼の理論であるハビトゥス文化資本・象徴資本、さらに学問「界」での「再生産」戦略を使って分析していることだ。(講談社選書メチエ